十六回目 11
な、なんだってー! とノリで返したくなったが、冗談ではなく本気の表情をしている。
豪徳寺さんは、この異様な状況は異星人の仕業だと思っているのか。俺とは全く違う発想をしているな。正直、その発想はなかった。
反論するにしても、まずはその考えに至った経緯を聞いてからだ
「まずは、この扉を通るごとに全く違う地形の空間……お前さんに言わせるとステージだったか、そこに移動する仕組みだ。おそらく扉がワープゲートになっていて、そこを潜った瞬間別の場所へと強制的に移動させられる仕組みだな。SFで良くあるやつだ。宇宙人ならそれこそ、環境の異なる星々にワープゲートを設置して、特殊な環境に放り込むことも可能だろう」
そうきたか。俺としては異世界で魔法によって次元を繋げるという展開も考えていたが、あれだな……発達した化学は魔法と区別がつかないって言葉を思い出した。
異世界人も異星人も宇宙人もよくよく考えたら同じような存在だ。ジャンルが違うと思っていたが、実は似通っているのかもしれない。
「それで、宇宙人だとしたら、何故こんなことをしているかという疑問を抱くよな?」
「まあ、そうですね」
「壮大な娯楽じゃないかと考えている。自分たちより文明の劣る知的生命体を、自分たちの考案したゲームに強制参加させて、それを隠しカメラや人工衛星から撮影するなりしてお茶の間に流している、過激な内容の娯楽番組。そう考えると納得できないか」
想像した一つに発想が酷似している。俺はその対象が異星人ではなく異世界人だったが、それ以外は思考を読まれたのではないかと疑ってしまうぐらい、同じ考えが多い。
「特殊能力はどう考えています?」
「そうだな。体の中にマイクロチップが埋め込まれていて、それにデータを送信することにより、特殊な力を発生させているってのはどうだ。特殊な周波を肉体に送り込み、筋肉を活性化させて身体能力を無理やり向上させるとか、火や熱というのは、そのマイクロチップから発せられた電波や共振により、温度を上昇させて変化を誘発させている」
何だろう。魔法や不思議な力という発想より、それっぽく思えてしまう。まあ、科学的根拠も全く理解できていないが、そう言われたらそんな気もしなくもないような。
「じゃあ、死に戻りはどう説明しますか?」
「クローンだろ。宇宙人なら髪の毛一本でもあれば遺伝子を抜き出して、クローンを作る技術ぐらいあるだろ。俺たちのクローンが各自100体用意されていて、死んだらマイクロチップを通じて、それまでの経験と記憶が新たな体へ転送される……どうだ?」
「なるほど……」
何だろう納得してしまいそうになる。科学的根拠が正しいかどうかすら、俺にはわからないが説得力はある。なるほど、これは宇宙人の仕業だったのか。あり得ない話ではないな。
「というのを、最近洋画で観たな」
「はい?」
「一応、役者なんてやっていただろ。芝居の参考に結構映画を観ていてな。幾つか観てきたSFを寄せ集めて、それっぽい意見を作り上げてみた。どうだ、嘘にしては良くできていただろう」
くそっ、騙されかけた。あの茶目っ気のあるウィンクが似合っているのも、小憎たらしい。だけど、今の意見を馬鹿にはできない自分がいる。
「まあ、面白おかしくまとめてみたが、網綱、お前さんの意見はどうなんだ」
「俺は異星人ではなく異世界人の仕業かと思っています。科学ではなくて魔法で全てを行っている可能性が高いかなと」
自分で言っておいて何だが、魔法や精神やマナなんて言葉で誤魔化す世界より、発展した超科学の方が説得力のある気がする。まあ、科学で証明できると断言されて、それっぽい式や説明文を見せられたら、理解できないくせに納得してしまいそうになるだけなんだが。
俺だけかもしれないが、今回のがいい例だ。
「そもそも、異星人と異世界人って何が違うんだ?」
そう返されると言葉に詰まる。俺もそれを聞きたいぐらいだから。
「多分、異星人は俺たちの地球がある宇宙の何処かにある星に住む知的生命体。異世界人は全く別次元の宇宙からやってきた、人類に近い種族……かな」
「曖昧だな。まあ、発展しすぎた科学と、摩訶不思議な力を使える魔法の違いがあるだけで、考えは似ているのか」
「まあ、そうなります」
「科学よりも魔法の方が夢があるか。なら俺も網綱の意見を推すとするぜ」
幾つか立てた予想の一つだけどな。
「とまあ、仮定を立てたところで、ここから逃れられる秘策が思いつくわけでもないんだがな。結局はステージをクリアーしていくしかない。終着地点が不明だが」
豪徳寺さんは、褒美で情報を得ていないのか。あの死に戻りで褒美を何度も得るシステムには豪徳寺さんも田中さんも気づいていた。
むしろ、全く気付かないでここまできた、織子が異質なようだ。普通はその方法を多用しなければ、第五ステージまでクリアーするのは難しい。
それでも、褒美を取り尽くすまで死に続けるのは誰だって嫌だ。あまりに苦しいステージなら、最低限の褒美を手に入れたところでセーブすることもあり得る。
俺だって黒虎を最後に倒した時、隠し褒美を得ていなくても第一ステージを終わるつもりでいた。そう思い軽い気持ちで次の言葉を口にした。
「そういや、褒美の一つにあった、この場所に居る理由を教える、というのは選ばなかったのですか?」
「はっ、何を言っている。そんなもの無かったぞ?」
その項目がなかった? どういうことだ。敵の能力によって褒美として得られる特殊能力が違うのは、織子との会話で知っていたが、他の人には情報を得る褒美が存在しなかったとでもいうのか。
「俺だけあったということは、何か特殊な条件を満たした……もしくは、褒美の項目が実はバラバラだった……」
「おいおい、一人で考え込まれても困るぞ」
「そう、ですね。褒美にも違いがあるとは思わなかったもので」
「確かに、そこは意外だ。そればっかは、製作者にでも聞いてみないとわからん。考え過ぎるとドツボにはまるかも知れんぞ。ワシから話を振っておいてなんだが、適当ぐらいが丁度いい。今の話題も頭の片隅に留めておけば、何かの役に立つかもしれん程度の話題だ」
憶測は幾らでもできるが、今は情報が少なすぎる。そんなことに頭を悩ます暇があるなら、ゲームクリアーの事を考えるべきか。
だとしたら、あの情報の共用をしておいた方がいいのか。
あの田中なんとかさんは、キャラがつかめないので信頼以前の問題だが、この人は豪徳寺さんは頼りになる……と思う。敵に回すより、味方にすべき人材なのは間違いない。
「豪徳寺さんを信用して、一つ貴重な情報を教えます」
「お、さっきの褒美で得た情報か?」
「ええそうです」
飛び付いてくる話題だと思ったのだが、豪徳寺さんは顎に手を当てて、眉根を寄せた渋い表情をしている。
「それは有難いが、いいのか? お前さんがライフポイント……命を削って得た情報だろう」
「まあ、これで恩が売れるなら、ありかなと」
俺の発言を聞いて、豪徳寺さんがニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「ならば、これで貸りは二つだ。この貸りを返すまでは裏切らないと誓おう。まあ、口約束だから何の保証があるわけでもないが」
「その言葉だけで充分ですよ」
「そうか、なら訊かせてもらう……前に、その敬語と呼び方を止めないか。ワシは網綱と呼んでいるのだ、杉矢と呼び捨てで構わん」
「年上相手にはこの口調がサラリーマンの習性として染みついていま」
口元に笑みを湛えながら、鋭い眼光を飛ばす豪徳寺さんの迫力に言葉を噤んでしまった。口調を変えろという無言の圧力を感じる。
「はあ、わかりま――善処はしま、する……よ、杉矢さん」
「今はそれでいいとするか。これからもよろしく頼むぞ、網綱」
差し出された手を俺は躊躇うことなく力強く握り返した。
この人が味方になってくれるなら心強い。出来ることなら、これが上辺だけではなく、本心であって欲しい。そう願わずにはいられなかった。
「ナイスバスタイムでしたネー、織子」
「うん、凄く気持ちよかったー」
ご満悦な二人が湯上りの上気した肌を晒している。といっても当たり前だが全裸ではない。何故か真っ白のバスタオルを巻き付けていた。何処から湧いて出た、そのバスタオル。
「フフーン、もしかして裸期待してたのかなー。残念無念でしたネー。このバスタオルはクルーザーに常備されていましたー……でんがな」
風呂上がりの気持ち良さに、気が緩んでいたようだな。今、自分のキャラ付けを忘れていただろ。
しかし、甘いな。俺は全裸よりもバスタオル姿やワイシャツ一枚といった、露出をある程度抑えている方が好みなのだよ。
「じゃあ、ワシらも堪能させてもらおうか、網綱」
「そう……だね、杉矢さん」
つい口調が丁寧になりそうになるが、軽く睨まれて踏み止まれた。そんな俺の対応を見て、湯上りの二人が軽く目を見開いて驚きを表現している。
「網綱さん、豪徳寺さんといつの間に、そんな関係に……はっ、私に全然興味を示さないと思ったら、やっぱりそっちだったの!」
そっちって、どっちだよ。やっぱりって、俺を何だと思っていたんだ。理性的な紳士だという発想にはならんのか。
「二人はもうフレンズなのですネー。なら、ミーもコールキャロライン! 網綱も織子もコールミー!」
「前向きに善処しますよ、田中さん」
「頑張ります、田中さん」
「だってよ、田中」
「ファアアアアッツ!? ノー田中! イエス、キャロライン!」
必死になって大袈裟な身振り手振りで否定する田中さんを見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。それは俺だけではなかったようで、織子も杉矢さんも笑っていた。
「ぷはははははは」
だ、ダメだ、ツボに入った。
この世界に来てからこんなに腹の底から笑えたのは初めてだ。田中さん優秀な芸人じゃないか。こんな殺伐とした場所で、みんなを笑顔にできるのだから。
俺たちは笑いが治まらず、むすっとした顔で俺たちを睨んでいた田中さんも、最後には笑顔を浮かべていた。
「ぐるぅわう?」
笑いの輪に加わっていなかった黒虎が何事かと割り込んでくる。
不思議そうに俺たちを見回す黒虎の仕草に和んでしまい、笑い声は止んだが誰もが優しい笑顔を向けていた。
注目を浴び、仲間外れになっていた寂しさが消えたのだろう、嬉しそうに目を細め、俺の体へ顔を擦りつけている。
ああ、くそ。これが日本なら、ただの日常の一幕なら、どれだけ嬉しかっただろう。一時の安らぎとわかっている。もう少しだけ、この幸せな時間が続いてくれ。
そんな些細な望みは、三日だけだが叶えられた。
それは俺たちにとって貴重な三日間であったことを、俺たちは知ることとなる。四日目の朝にポツンと現れた小さな点の存在により――
この作品に関する企画を別の投稿作品『なうろう作家とメガミ様』の新しい話で立ち上げています。興味がある方は上部の作者名をクリックした後に、作品欄から飛んでいただき、最新話をご覧ください。
今年中に題名を変更することになると思いますが、内容の変更は致しません。
今後とも宜しくお願いします。




