Part16:人魚
フリーイラスト その16【人魚】
線画バージョン
URL:https://37616.mitemin.net/i759466/
彩色例① キャラクターのみVer.
URL:https://37616.mitemin.net/i759467/
彩色例② ちょこっと背景追加Ver.
URL:https://37616.mitemin.net/i759468/
◆◆◆
シチュエーション例・ショートショート
ゆらりゆらりと、まどろむように。
ふわりふわりと、舞い散るように。
ガラス越しの君は、いつもいつも、どこか無理をして笑っていた。
「……あら、看守さん。こんな時間に……何があったの?」
水槽の分厚いガラス越しでさえ、怯えた声。彼女は僕のことを「看守さん」と呼ぶ。まぁ、それも当然か。
僕はここ「国営海洋研究所」の職員で、表向きは……研究対象である「人魚」の生態調査を担当している。
「……もう、無理をして笑わなくていいんだよ。そうならないように、してあげるから……」
「それは……どう言う意味? だって……笑っていないと、あなた達は……」
無理やり貼り付けた、「ご機嫌取りの笑顔」。そうでもしないと、研究者達の「機嫌が悪くなる」と身をもって知っている彼女は、仕方なく微笑んでは……苦痛を和らげようと、涙ぐましい努力をしている。
「大丈夫、今日はそんなに酷い事にはならないよ」
「嘘よ。……だって」
「大丈夫。……今更、こんなことを言えた立場じゃないけど。僕を信じて」
……僕が来る時は決まって、水槽のハッチが開く時だけ。そして、それはつまり……実験の時間がやってきたことを意味していた。だから彼女は笑いながらも、泣きそうな顔をするんだ。……いや、水の中だから分からないだけで、本当はもう泣いているのかもしれない。
「……! この先って、もしかして……⁉︎」
「うん、そうだよ。……さ、行くんだ。みんながやって来ない内に、早く!」
「で、でも、それじゃぁ、看守さんが……」
「大丈夫さ。必要な情報はバッチリ揃ってる。……それに、もう看守だなんて呼ばれたくないしね」
僕は研究員だ。看守じゃない。
そして、彼女は人魚だ。罪人じゃない。
だから、もうやめようよ。
それぞれの、正しい居場所に戻るだけさ。
少しだけ朝日が差し込み始めた海の向こうへ、彼女が躍り出た刹那。彼女はこちらに振り返り、笑ってみせた。でも、それは明らかに「無理をした笑顔」じゃなくて、本物の笑顔だったように思う。……そうだ、僕はこの笑顔が何よりも見たかったんだ。
その後、研究の趣旨から逸脱した非人道的な実験を秘密裏に行っていた事により、「国営海洋研究所」は取り潰しになった。下手に「国営」だったこともあり、お偉いさん達には相当のダメージを与えられた結果になったと思う。
人魚の生態調査じゃなくて、お偉いさん達のための「不老不死の研究」を「国税で」していたんだから、当然だ。
そして……今。僕はぼんやりと海を眺めていた。
もちろん職は失ったし、行くあてもない。
それでも……この広く、深い海のどこかで。君はきっと、笑っていると思えれば。これから先、僕も笑って生きていけるような気がするよ。




