Part10:断罪
フリーイラスト その10【断罪】
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彩色例
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シチュエーション例・ショートショート
手首に食い込む、枷の痛みにももう慣れてしまった。
そんなことを他人事のように考え、ほぅと息を吐くのは、かつての「聖女」。しかし、聖女に頼りっぱなしだった王国は、血迷ったことに彼女を断罪しようとしている。
理由は簡単。……彼女に代わる、都合のいい「後継者」が見つかったからだ。
(いや……後継者だなんて、お笑い種です。……あの子は完全に偽物だもの)
絞首台の階段を1段、また1段と登るたびに、キシキシと腐りかけた木片が軋む音がする。
また1歩、また1歩と「死」へ近づくたびに……聖女だった女は、皮肉めいた笑みを零さずにはいられない。なにせ、彼女にはしっかりと見えている。この国が「この後」どうなっていくのか……が。
「最後に言い残すことはありまして?」
「……何か、言い残した方がいいのですか?」
断罪の瞬間を確信して、勝ち誇った笑みを浮かべるのは、後継者……兼・王子の婚約者。まぁまぁ、よくあるお伽噺の一幕だが。要するに、彼女に懸想した王子にとって、元聖女が邪魔になっただけのこと。婚約者に箔を付けたがるのは、権力者の悪癖である。
「相変わらず、生意気な女ですこと。まぁ……偽物というのは、最後の最後まで歪んでいるのも、分かりきったことですわね」
「そう? でしたら、最後に1つだけ。……この国の滅びはもう決まりきったこと。覆りようもありません。……なにせ、“聖女などと言う眉唾物”に縋ってきただけですもの。意味の分からない偶像に頼りきって、自分で何もしてこなかったこの国に……未来はありません。もちろん、偽物のあなたにも……ね」
「なっ……!」
「偽物ごときが、生意気な! もういい、こいつを殺せ!」
本当に悪趣味ったら、ありゃしない。最後の最後まで……気付かないなんて。
処刑執行人が彼女の首に縄を括り付けた瞬間、罪人の背中が眩く輝き出す。
そうして純白の鳩になった女は、ククッと小さく笑うような囀りを残すと、青い青い空へ舞い上がっていった。
聖女なんて、最初からいやしない。この国に存在していたのは、聖女という皮を被った天の使いだけ。彼女はきっと、神に告げるだろう。
この国は努力を忘れた、愚かな民の集まりだ……と。聖女という幻想に囚われた時点で、彼らの未来は消失していたのだった。




