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「あらあら、いらしてたのね」
入口で声がした。
見ればふくよかな中年女性が立っている。
「あっ、館長、お邪魔してます」
「桜井君ならいつでも大歓迎よ。どうせほとんど誰も来ないし。ところで今日は、お連れの方がいるのね」
「僕の友人です。おい、挨拶」
「あっ、えっと上条といいます。桜井とは、大学で同じ講義を取っています」
「へえ、桜井君以外にこんなところに興味を持つ若者がいたなんてねえ。ちょっと驚いたわ」
「まあ、いろいろありまして」
「ところで道田さんは、もうお昼休憩終わったんですか。いつもよりは少しばかり早いですけど」
上条は思わず時計を見た。もう午後三時前だ。これでいつもよりも早いと言うのか。確かここの開館時間は、午前九時から午後五時までのはずだが。
「たまには早く帰らないとね。一応、ここにいることでお給料もらってるんだから。給料安いけど」
これで高給取りなら、ぼったくりもいいところだ。
上条は思った。
あきれる上条を尻目に、桜井が言った。
「それじゃあ、僕らはこのへんで帰ります。お邪魔しました」
「あら、せっかく会ったばかりなのに、もう帰るの」




