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「それを全部読んでいたら、日付が変わるよ。僕が読んで、大事なこと必要なことをピックアップしてある。僕たちが知る必要があることをね」
桜井はズボンの後ろポケットに手を突っこみ、何かを取り出した。
それは折りたたまれた数枚のレポート用紙だった。
「ちゃんとプリントアウトしてあるよ。読みやすいようにね」
「こんなものがあるんなら、最初から出せよ。レプリカもノートも必要ないだろう」
「それがいったいどういった類のものかを、耳ではなくて目で確かめてもらいたかったから、わざわざこういう手順をふんでみたんだよ」
「まったく」
上条は紙を広げた。一番上にはこう書かれてあった。
○ それは吸鬼である。
「吸鬼?」
「そう。吸い取る鬼。昔は得体の知れない化け物に鬼と名づける傾向があったので、そう呼んだんだろう。今風に言えば、吸い取る怪物かな」
「何を吸い取るんだ?」
「それも書いてあるよ」
なんだかいつになく上から目線な口調だったが、上条は無視してそのまま続けて読んだ。
○ 吸鬼は、人の命の源、及び人の魂を吸い取る。吸い取られた者は、まるで死人のような見た目となるが、実際もう死んでいる。
「それじゃあ犬田たちは、もう死んでいるのか?」
「そこに書かれていることが本当だとしたら、もう死んでいることになるね」
「でも歩いたりしゃべったりしてたぞ」
「歩いたりしゃべったりしてても、死んでいることになるね」




