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「ちょっと待ってくれ。ここには誰もいないのか? 鍵も掛かっていなかったし」
「女の人が一人いるけど、今の時間ならその先にある喫茶店でお昼ご飯及び、休憩を取っているはずだよ」
「いやいや鍵もかけずに食べに出たらだめだろう。それに桜井、そんな人がいるなら、勝手に本を引っ張り出したら、まずいんじゃないのか」
「夏休みに入ってから今までに、僕がここに何回通ったと思っているんだい。ここにはめったに人が来ないからね。今ではすっかり顔なじみさ。信用もされているし、なんでも勝手に使っても良いとの許可ももらっているよ」
「いや、それならいいけど。……いやいや、俺たちが来たときにはすでに誰もいなかったぜ。仮に俺たちが来ると知ってても、その前に外出するのはまずいだろう」
「僕は彼女に、いついつ何時に行きますから、なんてことを、事前に言ったことは一度もないけど」
「それじゃあ、勝手に出て行ったのか。鍵もかけずに」
「なにか問題でも」
「おおありさ。泥棒とかが入ってきたら、まずいだろう」
桜井は周りをゆっくりと見渡した。
「こんなところに入る泥棒がいると思うのかい」
上条も周りをゆっくりと見渡した。
「いないな」
「だったら問題ないじゃない」
「そうだな」
「それで、これなんだけど」
桜井は古書を指差した。
「三百年ほど前に書かれた古書のレプリカだよ」




