第二十五章 初めてのマヨヒガ 2.いざ、マヨヒガの世界へ
~Side 真凜~
下校中に優樹がマヨヒガ完成なんて衝撃の報告をした上に、マヨヒガ内での時間の進み方について想定外の警告までしてくれたせいで、すっかりうろたえる羽目になったけど……気を取り直してマヨヒガに入ってみる事にした。心待ちにしていたマヨヒガの完成だもの。何はともあれ、中に入ってみなくちゃ始まらないわよね。
あたしはその場で入ってみたかったんだけど、
「こんなに人目がある場所でマヨヒガへのゲートを開いたりしたら、どこで誰に見られるかわからないよ? 入る時は周りの様子を確かめられるけど、向こう側から出て来る時には、確認ができるがどうかわからないし」
――と言われて、場所を選ぶ事にした。万十山の林の中なら、人目に付いたりしないだろうし。
一旦家に帰ってから改めて出直して、万十山で合流する事にした。時間にゆとりのある土曜か日曜まで待って――っていう提案もされたけど……却下よ! 一週間もおあずけを食らうなんて、冗談じゃないわよ!
……道場が休みの日で良かったわ。これで道場に行ったりしたら、絶対上の空になって怪しまれてた自信があるわね。とにかく一旦マヨヒガに入って、気を落ち着けないと。
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「ここがマヨヒガ……って優樹、分度器なんか持ち出して、何してるのよ?」
万十山の林の中で、辺りに人がいない事をあたしのスキルで確認した上で優樹がゲートを開いたんだけど……感動してるあたしを放っといて、優樹は何かを調べ始めた。方位磁石はまだわかるけど……分度器や巻き尺はどうするのよ?
「マヨヒガの外と中で、太陽の方角と高度を測っておこうと思って。ほら、持ち込んだ時計が『中』の時刻を正しく示すかどうか、まだわからないんだし。あと、影の長さも測っておこうかなって」
……本当に、よくそんな事を思い付くわね。マヨヒガに入るっていうだけで舞い上がってたあたしとは大違いだわ。……これが理系と文系の差ってやつなのかしら?
「さ、覚悟を決めて入ろうか、真凜ちゃん」
「え、えぇ……そうね」
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~Side 優樹~
――緊張してる真凜と一緒にゲートをくぐった。
ぼくは普段一人で動く事が多いんだけど……こういう時に一緒に行動する仲間がいるっていうのは、思った以上に心強いね。
「優樹……この霧って……」
「うん、『迷い家』に出会った時と似てるよね」
ゲートの内側にぼくたちのマヨヒガが見えたけど……足を停めて辺りを見まわしたら、白い霧で囲まれていた。ゲートは霧の内側に開いたみたいだね。おっと……ボーッとしてないで、太陽の方角と高度を測らなくちゃ。
……うん、進行方向を基準にして太陽が三時の方向にあるのは、マヨヒガに入る前と同じだし……方位磁石が示す方位も同じかぁ。……こっち側の地磁気とか磁極とかがどうなってるのかわかんなかったけど、方位磁石は一応使えるみたいだね。あと、太陽高度にも影の長さにも差はない――と。
「……ねぇ優樹、この――霧で囲まれた範囲が、マヨヒガの敷地って事なのよね?」
「多分ね。前に出くわした『迷い家』の時よりは随分狭いけど」
できたばかりなんだから、そこは大目に見てもらわないと。
「それもだけど……この霧の向こうって、どうなってるのかしら?」
そっちかぁ……確かに気にはなるんだけど……
「そもそも『向こう側』が有るか無いかもわからないよ? 踏み込んだが最後、永遠に霧の中から出られなくなったりして」
「あぁ……その展開もありそうね……」
ホラー小説ではよく見かけるオチだよね。映画だと最後に〝――Fin?〟って表示されたりして。
「ケイソツなふるまいは避けるとして……そろそろマヨヒガに向かわない?」
「そうね……待ちに待ったマヨヒガだものね」




