第二十一章 生月市「テケテケ」伝説 2.解説
~Side 優樹~
「足のない妖怪? ……いえ、聞いた事がないわね」
この機会にと思って先輩を喫茶店に誘って――何だかナンパしてるように聞こえるかもだけど、もちろん違うからね? 大体、誘ったのは真凛だし――「足なしお化け」の話を訊ねてみたんだけど、先輩の返事は否定的なものだった。
「上半身だけの怪異と言われてすぐに思い付くのは『テケテケ』と『轢断少女』だけど、そのどちらかなのかしら?」
「あ、いえ……ぼくたちも又聞きしただけなんで、くわしい事はわからないんですけど……」
茂ちんてばいつだったか、「足立川の砂かけ婆」――なんて、変なネタを持ち込んできたしね。念のために確かめてみたら、やっぱり「安達ヶ原の鬼婆」と「砂かけ婆」がごっちゃになってたし。……〝案の定〟――って言うんだっけ、こういう時。
そう言えば、〝亀の浮気って何だ?〟――って訊いてきた事もあったっけ。お寺で読んだ本に書いてあったと言い張ってたけど……よくよく問い詰めてみたら、「浮気」でなくて「浮木」。つまり「盲亀の浮木」の話だった。仏教説話とワイドショーネタとじゃ、天と地ほども違ってるよね。
ぼんやりとそんな事を考えていたら、
「その、『テケテケ』とか、れ……『歴談少女』とかって、一体どういうものなんですか?」
ためらいがちに訊いているけど……真凛の言ってるのとは、漢字が違うんじゃないかな、多分。
ぼくもくわしくは知らないんだよね。「テケテケ」っていうのは、奇声を上げて時速百キロで走り回るお婆さんだったっけ。
「そうね……まず『テケテケ』というのは上半身だけの都市妖怪で、浮遊するか肘を使って走るかして追いかけてくるそうよ。『テケテケ』という名前はその時に発せられる音に由来するという話ね。発祥地――こういう言い方が適切なのかどうかは判らないけど――は沖縄だという説があるけど、最近では日本各地に広まっているみたいね。年齢性別は多岐にわたるけど、最近では女子高生のイメージが支配的になっているようよ」
うん……性別以外は全部違ってたね……
「それじゃ、その……もう一つの方は?」
「『轢断少女』というのは『テケテケ』に少し遅れる形で語られるようになった都市伝説で、件の女子高生が下半身を失った原因を踏切での人身事故として説明するものよ。列車に轢かれて下半身を失った少女が、即死できずに助けを求めて上半身だけで這い寄って来たという話ね」
「「うわぁ……」」
「こっちは本来『テケテケ』とは無関係の怪談であったものが、『テケテケ』の出現を説明付ける話に採用された結果、『テケテケ』の都市伝説に取り込まれたんじゃないかという見解があるみたいね」
うん、さすがに新聞部の副部長さんだけの事はあるね。……と言うか……よく考えたら、都市伝説って新聞部の守備範囲なの? 先輩本人が関心を持ってるだけなんじゃないのかな?
「けど……面白いわね」
解説に熱が入って喉がかれたのか、先輩はカフェオレ――コーヒー牛乳とかミルクコーヒーとは言わないらしい――を飲んで一休みしてたけど……喉の調子が戻ったのか、少ししてからそう言い出した。
「面白い……」
「……ですか?」
「えぇ。あなたたちが知ってるかどうかは知らないけど、『テケテケ』にせよ『轢断少女』にせよ、いままでこの辺りで話された事は無かったのよ」
「え……?」
「あれ? そうなんですか?」
「えぇ。あなたたちも夏休みの自由研究で妖怪の事を調べたんなら解ると思うけど、この辺りでは古くからの伝承が今も息づいている反面、新しい都市伝説が語られる事が少ないのよ」
「あ……」
「そう言えば……あまり聞いた事がないような……マンガとか小説には出てくるんだけど……」
「この辺りで実際にそういうものを見たとか聞いたとかいう話はほとんど無いでしょう? まぁこれに関しては、生月市は市と言っても所詮は田舎町で『都市』伝説が流布する基準に達していないという、自虐的な説明もあるんだけど」
「いや……」
「さすがにそれは……」
ジギャクが過ぎるんじゃないかなぁ……
「まぁあれね、都市伝説が新たに誕生するその最初期に立ち会おうとしているのだったら、これは興味深い話ではあるわね。詳しい事が判ったら是非教えてちょうだい」
「あ、はい……」
新聞部の源副部長さんとの会談は、こんな感じで終わった。




