第二十章 ぼくらが枯れ竹の林に行った時の事~竹姫様~ 1.称明寺にて(その1)
お久しぶりのマヨヒガです。今回は三話構成になります。
~Side 真凜~
二学期になってから十日たった八月最後の土曜日、あたしと優樹は称明寺に来ていた。現川小学校七不思議から始まった怡原村の一件について、学校側の方針が決まったのでそれを伝えるのと、優樹が書いていた報告書の下書きを見てもらうためだ。
今日は市役所の棗さんも来ている。市役所だとあれこれの用事が入って、ゆっくりできないからだって言ってたけど。
「……なるほど……学校としては深入りしない方針を決めたわけか」
「そうみたいです。新聞部もこの件を記事にはしないけど、生徒から質問があったら答えるのは構わない――って、玉虫色の裁定に」
……優樹ってば、あからさまに学校批判なんかしちゃって……
「まぁ、学校の立場としてはそんなもんじゃろう。寧ろ、そこまで許可したのが英断と言っていいじゃろうて」
「怡原地区の住民感情もありますしね。市立の小学校である以上、徒に市民感情を逆撫でするような真似もできないでしょうし」
「まぁ、儂らが地元の研究会の会報に載せるのは構わんというんじゃから、大幅な譲歩と言っていいじゃろうの。……棗君が動いたのかね?」
「動いたというほどでは……潜在的な悪評を曖昧なままにしておくより、科学的に根も葉も無いものだと明らかにしておいた方が、今の住民にとっては寧ろ歓迎されるのではないか。そう主張しただけですよ。実際に地元の住人に意見を聴きましたし」
「ふむ……そうやって怪談話自体の存在を広め、市が打ち消しにくくしたわけか。棗君もやるのぉ」
「考え過ぎですよ。そんなつもりはありませんでした」
……大人二人が悪い笑顔で話してるけど……小学生が聞いていい話なのかしら? 優樹はしれっと混じってるけど……いいのかなぁ……
……まぁ、それはともかくとして、原稿の打ち合わせが終わった後の雑談で、棗さんから面白い話を聞けた。
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「移川というのはその名のとおり、昔はしょっちゅう河道を変えていたらしい。増水の度に氾濫とか溢流を起こしてね。当然、田畑とかはメチャクチャになるわけだ」
「今より雨が多かったんですか?」
「ではなくて、上流の山で木を伐り過ぎたらしい。貯水能力が落ちていたんだろうね。土砂とかが多く流れて来たせいで川も浅くなって、水害が起き易くなっていたようだ」
「そう言えば……上流の山ではその昔、たたら製鉄が盛んだったとも言うの」
「あ……鉄鉱石を掘り出した時に出た土砂を捨てて、燃料として木を伐ったんですね」
そんな事をしてたら山も荒れるし、下流の住民は災難よねぇ。……アニメでもあったわよね、そういう話。
「まぁ、それでは堪らんというので、近在の住人たちが協力して、堤防を造る事にしたらしい。ただ、暴れる水にすぐに壊されるようでは困るというので、竹を植えて強化しようという話になった」
竹か……わりとよく聞く話ね。
「それ、いつ頃の話なんですか? モウソウチクが中国から日本に入ってきたのは、江戸時代だとか聞いたんですけど」
「モウソウチクについては、それ以前から入っているという指摘もあるけどね」
……優樹ってば、そんな事よく知ってるわね。
「問題の竹林だが……時代ははっきりしないが、竹の種類はマダケのようだね」
何でも、問題の竹林は今も残っているらしい。……〝一応は〟――って、棗さんは意味ありげな顔付きで言ってたけど。
「――それでだね、堤防がしっかりと村を守ってくれる事を願って、村の娘が人柱になったらしい」
「「人柱……」」
聞こえは良いけど、要は生贄よね。
「その後、竹は順調に根を張って堤防を強化し、村は栄えた。村の者は娘を村の守り神として崇めたそうだ。竹姫様と呼んでね」
はぁぁ~と思わず嘆息したんだけど……棗さんの話には続きがあった。
「時代が下って、堤防も嘗ての役目を終えた頃、既に竹姫の事を知る者もいなくなっていたようでね。竹林の管理も放棄がちになったらしい。そうすると今度は、どこにでも蔓延る竹は厄介物扱いされるようになった」
「竹林の拡大とそれに伴う広葉樹林の消失は、今も社会問題になってますよね」
「そう、鳥遊君は能く知ってるね」
……そう言えば……そんな事を聞いた事もあるような……
「まぁ、その村でもそんな話になって、この際だから竹を伐り払って処分するかという話が出た頃、竹の花が咲いて一斉に枯れたらしい」
「うわぁ……」
「偶然にしても、村の人たちは驚いたでしょうね」
「まだまだ、話はここからでね」




