第十八章 消えた七不思議 6.取材~勝三~
~Side 真凜~
称明寺での取材を済ませた後は、優樹の意見でもう一度、勝三お祖父ちゃんを訪ねる事にした。
この間とは違って場所が指定してあるわけだから、もう少しくわしい事が訊き出せるんじゃないかって優樹は言うんだけど……
「う~む……真凛の学校ちゅうんはアレじゃろ? 怡原村の辺りじゃろ? 儂んとことは在が違うでのぉ……」
「怡原村?」
「あの辺りはそういう地名なの? お祖父ちゃん」
「地名いうか……まぁ、字っちゅうやつじゃな。今は地名の統廃合やら何やらで、古くからの地名は通じんようになってしもうたが……あの辺りものぅ……」
……勝三お祖父ちゃんにしては、口が重いわね。……何か隠し事……うぅん、言いにくい事でもあるのかしら?
「いや……真凛の通っとる学校じゃろ? あまり言うのも何じゃと思うて、こないだは言わなんだんじゃが……」
「今度はその、〝善くない噂〟っていうのが聞きたいのよ」
新聞部の依頼の話から市役所での話、果ては称明寺の和尚さんの話まで持ち出したところで、お祖父ちゃんはやっと口を開いてくれた。
それによると……
「さっきも言ったように、あの辺りは怡原ちゅうんじゃが……もっと前には別の名前で呼ばれとったんじゃ。……忌ン原ゆうてな」
「忌ン原……」
「……何だか曰くありげな名前ですね」
「儂もあまり詳しくは知らん。ちぃと距離があったからの。じゃがまぁ……親爺やお袋や近在の者が話しておるのを聞いただけでも、子供心にも粗方の事は判るもんじゃ。……祟られとる、そう言われておったな」
「祟り?」
「やっぱり河童ですか?」
「河童? ……いや、そりゃ初耳じゃな?」
――お祖父ちゃんが話してくれた事を要約すると、地震で地下水脈に変化があったらしく、あちこちで井戸が涸れたらしい。田んぼは川の水を引いていたから大丈夫だったらしいけど、井戸が使えなくなった事で、飲み水に困るようになったらしい。川の水をそのまま飲むような事もあって、病気が流行った事もあったそうだ。
「んでまぁ……昔の事じゃからな、あの村は祟られとる――いう話になって、付き合いも細ぅなったようじゃ。あっこの田んぼにゃ何か出る……なんて話も聞いたの」
「……何か――って、何?」
「いやぁ……その辺が曖昧ちゅうか、はっきりせんでの。首無し馬が田んぼに立っとったのを見たちゅう者もおれば、水神様が愛想尽かして出て行ったんじゃ言う者もおった。今にして思えば、面白半分に与太をでっち上げとった者もおったんじゃろうの。悪童どもの間でも、おかしな話が流行っとった」
「おかしな話?」
「どういう話ですか?」
あたしと優樹が訊ねると、お祖父ちゃんはしばらく首をひねってたけど、
「……そうじゃのぅ……確か、『カヤ切り狸』ちゅうのがあったの」
「カヤ切り狸……」
「〝カヤ〟って、草の『茅』なの? それとも、夏に部屋の中に吊す『蚊帳』の方?」
「いや……そこが能ぅ判らんでの」
「……確か……四国かどこかに『蚊帳吊り狸』というのがいたと思ったけど……あとは『竹伐り狸』とか……」
優樹は自信無さげに言ったけど、あたしもおぼえてる。『竹伐り狸』は京都じゃなかったかしら。どこかでごっちゃになったみたいね。
「それから……『面喰い子馬』ちゅうんもあったのぉ……」
「『面喰い子馬』……」
「イケメンじゃないと懐かないとか?」
「いやぁ、そんな可愛らしいもんじゃのうてな。可愛い子馬と思って近付くと、顔を食い取られるんじゃそうじゃ。子供の時分に、年嵩の悪童仲間から聞いたんじゃがの」
……思ってたよりエグいわね……
「ただのぉ……後になって気付いたんじゃが、こりゃ『めんこい子馬』の聞き違いじゃなかろうかの。昔の歌にそういうのがあったんじゃ」
「あぁ……確か、二葉あ○子が歌ってたんでしたっけ」
「おぉそうじゃ。坊は能ぅ知っとるの」
……本当、何で知ってるのよ……え? 替え歌が有名? 何それ?
「まぁ、そんなこんなで悪い噂のあった土地なんじゃが……後になって、何かの折りに地名を変えたそうじゃ。『忌』の字を同音の好字である『怡』の字にの」
「……『怡』って良い意味なの?」
「字典を引いてみぃ。『怡』には〝喜ぶ、楽しむ〟とか、〝和らぐ〟とかの意味があるんじゃ」
「へぇ……そうだったんだ……」
字を変える事で、悪い噂を断ち切ろうとしたんでしょうね。成功したと言っていいのかしら。
この話はフィクションです。




