第八章 ぼくらと白骨死体とその顛末 4.河原での訓練という代替案
~Side 真凜~
他の訓練場所――と優樹が言い出した時、すぐに思い浮かんだのは
「――飛行場?」
「うん。大きなのじゃなくて、コミューター便っていうの? 小さな民間の飛行場なんだけど」
「あぁ……そう言えばあったね。結構遠くじゃなかった?」
「少しね。でも、自転車でなら余裕で行けるわよ」
「……閉鎖されてるんだよね? 無断侵入になるよ?」
「それはそうなんだけど……〝背に腹はかえられない〟――って言うじゃない」
「〝そこまで切羽詰まってはいない〟――とも言ってなかった? あと、飛行場って障害物がないから、周りから丸見えだよね?」
あぁ……それがあったかぁ……
認識阻害系の魔法とかが使えたらなぁ……。やっぱり急いで開発すべきよね、【認識阻害】とか【隠蔽】の魔法。……けど、今はそれはおいといて……飛行場がダメってなると……他の山か……川?
……あ……待ってよ? 安易かもしれないけど、川というのは悪くないんじゃない?
水魔法で川の流れを一時的にせき止めるというのは、訓練としては使えそうだし、水中でなら土魔法で地形を変えても、目立たなかったりするんじゃないかしら?
優樹だって河原の石とかを取り込めば、【取り込み】の経験値にもなるわよね。……厳密に言えば法律に触れるのかもしれないけど……少しくらいなら大目に見てもらえないかしら。
「川で水魔法の訓練かぁ……確かに良さそうだね」
「でしょ?」
「けど……そうすると立地条件が問題になるよね」
「立地条件?」
「うん。第一に、真凜ちゃんの言うような河原だと、人目を避けるって事はできないから、あまり人が多いところはダメだよね?」
あ……そうか。子供たちが水遊びしているような川だと、まずいんだ。
「うん。いわゆる親水公園とかはダメだし、護岸の下がすぐ水面になってるような場所もダメ。ある程度の河原が発達してなきゃいけないわけで、それに加えて人目が少ないっていう条件があるから……」
「この辺りよりも少し上流に行かなきゃダメかぁ……」
「一度は下見とかしておかなきゃ、ダメだろうね」
「ロケハンってやつね?」
「……少し違うけど……まぁ、似たようなものかな?」
土曜日にもサイクリングがてら下見に行こうかという話になったんだけど、
「あ、もう一つ。さっきも言ったように、河原だと人目に付くのは避けられないわけだけど……河原なんかに行く理由は、どう説明するつもり?」
「……理由?」
「うん。ぼくは虫とりとか石拾いとか、いくらでも口実はあるけど、真凜ちゃんはどう釈明する?」
……どうしよう……優樹と違って、虫にもカエルにも興味はないし……魚釣り……っていうのも唐突よね? 第一、あたしの趣味じゃないし。
「……まぁ、真凜ちゃんの知り合いとかに出くわさなければ問題ないんだけど……そういう時に限ってひょっこり出会ったりするじゃない? 『マーフィーの法則』ってやつ?」
「……あたしもすごくそんな気がする……」
あたしと河原を結ぶもの……思い付かない……ジョギングとかには足場が悪いし……足場? ……あっ、そうだ!
「ねぇ優樹、足場の悪い河原とかでも自在に歩けるように訓練してる――っていうのはどうかしら? 忍者の訓練みたいなの」
「……何でここに忍者が出てくるのかわからないけど……うん、実戦と言うか……リアルな状況に即した護身術の訓練――とでも言えば……押し通せなくもないかな? ……かなり強引だけど」
「そうよね!」
「でも真凜ちゃん、小学校五年生の女の子がする訓練じゃないという気もするよ?」
「あら? 女子のセクハラ被害は、低年齢化の一途をたどってるんだもの。それに備えるべきっていうのは、おかしな話じゃないでしょう?」
「……おかしな話じゃないかもしれないけど……嫌な話ではあるよね」
まぁ、優樹の言うのもわかるんだけど、
「これなら、優樹がいっしょにいる理由も、同時に説明できちゃうし」
「――ぼく!?」
優樹は驚いてるけど……これこそがこの案の真骨頂なのよ!
「虫とりで山歩きや川歩きの経験を積んでいそうな優樹に、アドバイザーとして同行してもらっている――って言えるじゃない?」
「……かなり強引なこじつけに思えるけど……」
「あら、だったら……あたしの訓練の相手役というのにしておく?」
「冗談。ぼくは空手も合気道もできないからね」
「そっちじゃなくて……ゴールデンウィークに忍者屋敷の見学に行って、おみやげに鎖鎌を買って来たのよ。その稽古相手」
「鎖鎌!?」
優樹は驚いてるけど……そこまで驚くような事かしら?
「まず……普通の小学五年生女子の口から出る単語じゃないからね、鎖鎌」
う……そうかもしれないけど……
「それ以前にさぁ……河原で鎖鎌なんか振り回してたら、凶器準備集合罪でケンキョされたりしない?」
「オモチャだからそれは大丈夫……大丈夫のはずよ?」
「遠目にはオモチャかどうかなんて、わからないんじゃないかな」
……鎖鎌は没ね。惜しいけど。




