12 決着
『ぐあっ……!』
ウェネニーヴを仕止めようとしていたレビルーンの口から苦痛の声が漏れ、閃光魔法は発動する前に掻き消えてしまった。
それと同時に、ウェネニーヴも女神の手から逃れる。
斬りかかったコーヘイさんの一撃によって、女神は手甲を切り裂かれ、ウェネニーヴを捉えていた右腕から血を流しながら、後方へ移動して距離をとった。
で、でも……どうして、レビルーンを傷付けられたのかしら?
しかも、あの神の鎧を切り裂くなんて、《神器》を持ってしても難しいだろうに……。
『何をしたのです、異世界人……』
「何って……剣で斬っただけさ」
『バカな!我の鎧を斬るなど、不可能です!』
「まぁ、並みの剣なら無理だろうな。しかし、《神器》だったらどうだ?」
『それはなおのこ不可能だと、先程証明して見せたはずです』
「あんたの作った《神器》ならな。だけど、この《神器》は違う」
『なんですって……』
怪訝そうな顔をする女神と同じように、私も首を傾げたけれど、コーヘイさんの持ってる剣を見て、ふと気がついた。
「あ!それって、ザラゲールの持ってた《闇の神器》じゃ!?」
「正解!」
そう、彼が今その手にしてるのは、邪神が召喚した闇の勇者ことザラゲールへと与えた、私達の物とは異なる《神器》!
『なるほど……我が作った《闇の神器》ならば、レビルーンにも通じるという事か』
いつの間にか後方で戦いを見物していたギレザビーンが、納得したように頷く。
『《闇の神器》……ギレザビーン、貴方はそんな物を作って我を倒そうとしていたのですか!そうまでして、我が憎いと!?』
レビルーンが言葉を荒げて、ギレザビーンに噛みついた。
でも……うん?
怒っているというより、なんだか悲しげな雰囲気があるような……?
『なんだと!? 我は……』
「おおっと、邪神はその辺で下がっててもらおうか。いま女神様の相手をしてるのは、俺達だぜ?」
突然、私達そっちのけで揉めそうになっていた神々の間に入り、コーヘイさんは挑発するような口調で声をかける。
「ザラゲール達の形見の剣だ。キッチリ仇は取らせてもらうぜ」
《闇の神器》を構え、レビルーンをコーヘイさんが見据える。
ただ、その後ろで「しんでねぇよ……」といった、ザラゲール達のか細い声が聞こえてきてるんだけどね。
まぁ、生きてて良かったわ。
『……そもそも、勇者とはいえ何故あなたが《闇の神器》などという代物を使えるのですか』
「おいおい、忘れたのかよ。俺の覚醒した鎧の《神器》は、『すべての《神器》を扱える能力』があるんだぜ」
『覚醒って……守護天使達は倒れ、《神器》は覚醒前に戻ったと説明したではありませんかっ!』
イラついた様子で、レビルーンは声を荒げる。
しかし、そんな女神に対して、コーヘイさんは冷静に返した。
「俺は、守護天使の干渉無く《神器》を覚醒させた。だから、天使がやられても影響はなかったって訳だ」
『そんなバカなっ!?』
予想外過ぎた答えだったのか、レビルーンの顔は驚愕に染まる。
『い、いったいどうやって……』
「そこは、勇者が起こした奇跡ってやつさ」
うん、味方の女性から心底軽蔑されて見捨てられ、その悲しみから覚醒したんだから、奇跡といえば奇跡よね。
かなり情けない経緯ではあるけど。
だけど、事情を知らない神々は、コーヘイさんに警戒心を抱いたようだった。
『この世界には、何度か異世界からの人間が、勇者として召喚された事はあります。ですが、あなたほど非常識な人間は初めてです』
「俺が元いた世界じゃ、『常識は破る物、限界は越える物』って言葉があるからな。誉め言葉として、受け取っておこう」
『そんな世界の人間が召喚される事を許したのは、我の不覚ですね……ですから、この手で始末をつけましょう!』
そう宣言するや否や、レビルーンの周囲から数発の閃光魔法が放たれる!
コーヘイさんはそれらを巧みに回避するけれど、高速移動で回り込んだレビルーンが、避けた方向で待ち構えていた!
『あなたの役目は終わったのです!さっさと退場なさいっ!』
コーヘイさんへ向けて、閃光を発射しようとするレビルーン!
「そうはさせないわっ!」
魔法が発動する、すんでの所で盾を構えて突撃した私は、女神の体を容易く撥ね飛ばした!
フハハ!百トンもの重量による、盾突進技の威力はどうかしら!?
思った通り、盾による攻撃は通じなくても、単純な重量の激突によるダメージは通るみたいね!
『ぐっ……』
吹き飛ばされながらも、レビルーンはフワリと受け身を取る。
だけど、その一瞬の隙を突いて、モジャさんが壊れかけた女神の膝に飛び付いた!
「この膝はもらった!」
『うああっ!』
さすがの女神も、膝を破壊された痛みに悲鳴をあげる。しかし、驚いた事にそんな激痛の中にありながらも、彼女は即座に反撃に出た!
『この、人間があぁっ!』
レビルーンはモジャさんの顔面を鷲掴みにすると、ダメージ度外視で無理矢理に引き剥がしにかかる!
『あああぁぁっ!』
そうして捕獲したモジャさんを、思いきり地面に叩きつけると、至近距離から閃光魔法を撃ち込む!
爆発が巻き起こり、風圧でモジャさんが宙に舞った。
普通なら、絶対に絶命しているであろう手応えに、それを見たレビルーンの口元に笑みが浮ぶ。
そこへ、間髪入れずにウェネニーヴが女神へと迫った!
しかし、それを読んでいたのか、レビルーンは余裕を持って回避に移る。だけど……。
『ばぶっ!』
奇妙な悲鳴が、レビルーンの口から飛び出した!
まぁ、私の投げた盾が、彼女の顔面にヒットしたためだけど。
いや、たぶんウェネニーヴの攻撃が避けられるんじゃないかなと思って、援護のつもりで投げたんだけど、思った以上にクリーンヒットしてしまったわ。
『ぐっ……』
体勢を建て直そうとした女神に、再びウェネニーヴが膝殺しの蹴りをブチ込む!
う、ううん……こっちが有利と言えないから仕方がないんだけどさ、壊し技ばかりの戦法はエグすぎて、ちょっと心が痛むわ。
『うう……』
「もらったぁ!」
両膝と右腕に甚大なダメージを負った女神へ、コーヘイさんが斬りかかる!
それをレビルーンはギリギリで避けるけれど、剣先が彼女の胸部装甲を破壊し、彼女の豊満な胸元が顕になった。
その瞬間、男達から「むっ!」と感嘆の声があがる!
だけど、コーヘイさんやモジャさんはともかく、瀕死のザラゲール達やギレザビーンまで食い付くのはどういう事よ?そんなに巨乳が好きなの?
まったく、男っていうのは……。
しかし、そんな男達の視線を気にするほどの余裕も無くなったのか、レビルーンは呼吸も荒く地面にへたり込んでしまった。
『まさか……我が人間に……異世界の……こんな事なら……』
もはや顔をあげる事もできずに、項垂れたままレビルーンはブツブツと呟いている。
そんな女神に向けて、コーヘイさんは大上段に構えた。
「あんたらの時代は終わった。これからの世界は、大地に足をつけて生きる者達が決めていく」
それは神々との決別の宣言。
そして、神々に選ばれた私達《神器》使いが出した答えだ。
「あばよ、創造主!」
『そのくらいにしてやってくれ……』
振り下ろされる大剣!
しかし、その切っ先が女神の首に届く前に、間に立ちふさがったのは……レビルーンの大敵である邪神、ギレザビーンその神だった。




