表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃走、盾役少女  作者: 善信
第七章 神を討つ者達
85/96

03 神へ挑む理

「いやぁ、よくやってくれた!」

開口一番にそう言ったのは、アーモリー国の教会で一番の権力者である、レルールのお祖父ちゃん(正確には大叔父)のオーダムラー教皇だった。


魔族達との和解はならないものかというのが議題に上がり、ひとまずはヌイアー砦の現状を視察に来るという偉い人を待とうとなってから二日後。

やって来たのが、オーダムラー教皇というわけである。

ううん、しかし……これは予想以上に大物だし、ちょっと微妙な人が来ちゃったわね。

レルールに大甘な教皇様ではあるけれど、魔族や邪神に対する急先鋒とも言える人物でもある。

互いの神を倒して、人と魔族で手を結ぼうなんて意見は、真っ先に否定されそうなんだよなぁ……。


「フフ……ここに来るまでに避難していた者達から話を聞いていたがな、レルールが大活躍だったそうではないか」

そんな私達の胸の内を知らない教皇様は、ニコニコとしながらレルールの評判について語り続けていた。

「なんでも、魔族の首領を打ち倒したとか、捕らえた魔族を改心させて部下にしたとか。巷では『聖女様、マジ聖女!』と持ちきりで、上司として身内として、私も鼻が高いよ」

むむ……なんだかレルールの評判に、思ったよりも上機嫌ね。この調子なら、もしかして和平案も前向きに考えてくれるんじゃ……。

そんな事を考えていると、オーダムラー教皇は「さて……」と呟いて、ひとつ咳払いをした。


「それじゃあ、とりあえず捕虜の魔族を縛り首にでもしようか?」

「っ!?」

な、なによその、酒場で「とりあえず麦酒!」みたいな軽い言い方は!

まったく……その辺の躊躇の無さは、さすが王族といった所かしら。

でもダメだわ、下手に話を切り出したら、速攻で却下されそう。

こうなると、やはり頼りになるのは……。

「お祖父さ……いえ、教皇様。折り入って、相談したい話がございます」

硬い表情でそう告げたレルールに、教皇は「ふむ?」と小首を傾げた。

「今は、お祖父様と呼んでも良いのだぞ?」

「いいから、話を聞いてください」

レルールに却下され、シュンとしたまま、教皇様は彼女の話に耳を傾けた。


「……なるほどな」

話を聞き終えた教皇様は、そう呟いて腕組みをする。

「話はわかった。しかし、その魔族が魔界を救うためとはいえ、こちらの世界に与えた被害は見過ごすわけにはいくまい?」

「それは今後の交渉しだいと考えます。魔界との和平がなれば、互いの損害についても話し合う事ができるでしょう」

いつの間にか、レルールも魔界との和平案を進めるような口ぶりになってるわ。

やっぱり、彼女も内心ではこれ以上の戦いを望んでいないのね。

「まぁ、その辺りは兄上……国王が考える事ではあるがな。しかし、我々のような教会の者としては、そう簡単にいかぬ」

「…………」

「お主もわかっているだろう?我々、神を信仰する立場の者が、その敵である魔族達を神の身元へ行かせる訳にはいかぬのだ」

「それは……そうなのですが……」

苦虫を潰したような表情で、レルールは黙ってしまった。

……そうよね、教会のトップとナンバー2の立場にある彼女達じゃ、そういう答えに行き着くのはすでにわかっていた事だもん。


「……まぁ、両陣営が互いの神に手を出さず、現状維持のままで和平を結ぶ……という事なら、できなくもない話だろうが」

「でも、それじゃあ魔界は救えないし、レルールを含めた私達《神器》使いも、五年で寿命を終える事になってしまいます」

妥協策を示そうとした教皇様に、私は思わず訴えた。すると、その言葉に教皇様が怪訝そうな顔をする。


「なんだね、その話は?もしかして、魔族が君達を騙すためにそんな話を……」

「いえ、守護天使(エイジェステリア)から聞いた話ですから、信憑性はあると思います」

話の出所を告げると、オーダムラー様は私の隣にいたエイジェステリアに目線を移す。

そして、注目された彼女は肯定するように、ひとつ首を縦に振った。

「そうか……よし、神を倒そう!」

「!?」

唐突なその言葉に、私達は全員が教皇様に驚きの目を向ける!


しかし、当のオーダムラー様は、狂暴な笑みを浮かべて拳を握った!

「私の可愛いレルールをあと五年で殺そうなどと、神とはいえ許せる物ではあるまい……つーか、許さん!」

早っ!掌返し、早っ!

しかも、かなりの……いや、完全に私情じゃない!

「お、お祖父様!?」

さすがのレルールも、思わず教皇と呼ぶのを忘れて、その転身っぷりにアワアワしている。


「まぁ、待てレルール。なにも、お前が可愛いからだけ……というわけではないぞ? いかに世界を創造した神々とはいえ、地に生きる者達を遊戯盤の駒の如く扱う事が、許される道理はあるまい」

「そ、それには賛同いたします。しかし、信仰を司り、教義を説く者として……」

「信仰とは心弱き我々の拠り所であり、教義とは日々を正しく生きるための指針だ。その信仰を集めるべき支柱たる方が戯れに命を弄ぶならば、それに行動を持って諫言とするのも、我々の使命と言っていい」

……よくもまぁ、ペラペラと言葉が出てくるなぁ。

二人のやり取りを端から見ていた私達は、なんか感心してしまった。っていうか、いつの間にか教皇様とレルールの立ち位置が逆になってない?


「考えようによっては、今が人と魔族の争いを終結させる好機とも言える。なればこそ、我々の意思を主に示す事が、世界の安定と平和への礎となるだろう」

「……わかりました、教皇様。そう言っていただけるなら、もはや迷いはありません!」

その言葉通り、スッキリとした表情でレルールが顔をあげる。

「私達の力を示し、創造主たる方々の争いに終止符を打って、人間界と魔界に平和をもたらしましょう!」

「うむ!舐めた真似をしてくれた神々に、一発キツいのをお見舞いしてやれい!」

ポンとレルールの肩に手を置いて、オーダムラー様が激励した。でも、最後に本音が漏れてるわよ、お爺ちゃん……。


「そうと決まれば、色々と情報の交換が必要ですね。ジムリ、ルマッティーノ、モナイム、魔界十将軍の方々をここにお連れしてください」

レルールに指示された三人は、返事と共に素早く部屋を出ていった。それからしばらくすると、鎖で縛られたままの魔族達を引き連れて、ジムリさん達は戻ってくる。


「……話は決まったのかな?」

先頭に立つザラゲールの言葉にレルールは頷き、拘束していた鎖の《神器》から彼等を解き放つ。

そして、彼等の前にオーダムラー様が歩み出た。


「私は、アーモリーの教会に置いて最高責任者を務めておる、オーダムラー・アーキ・トゥアリウムという者だ」

「……魔界十将軍筆頭、ザラゲール。初にお目にかかる、オーダムラー殿」

互いに挨拶を交わすと、教皇様はザラゲールの両肩をガッシリと掴み、渾身の力を込めて声を絞り出した!

「神の野郎に会ったら、レルールの分も思いきりぶん殴っておいてくれたまえ!」

私怨たっぷりに頼み込む彼の姿に、ザラゲールは私の方に顔を向けて、「このじいさん、本当に教会の偉い人?」といった疑問を込めた視線で見てくる。

うん、残念ながら……。

答えるように頷くと、魔族達はなんとも微妙な表情を浮かべていた。


「なんとか、互いに希望が見えてきたって所か?」

オーダムラー様が離れた後、コーヘイさんがザラゲールに声をかける。

「フッ、まさかこんな展開になるとは、夢にも思っていなかったぞ」

考えてみれば、ザラゲールは本来、勇者であるコーヘイさんのカウンターとして召喚されたんですもんね。そりゃ、こんな展開は予想できないわよ。

「ま、人間界と魔界の共存のため、神と邪神の封印に力を合わようじゃないか!」

気負わないようにするためか、軽い口調でコーヘイさんが手を差し出した。

そして、ザラゲールは無言で頷くと、その手を取る。

光の勇者と闇の勇者が協力……そんな歴史的な瞬間に立ち会えるなんて、ちょっとばかり誇らしい気持ちが沸き上がってくるわね。

まぁ、後ろで「握手するならレルールの方が映えるだろうに……」とか、ブツブツ言ってるお爺ちゃんは無視しておこう。


「ところで、お姉さま……」

「ん?どうしたの、ウェネニーヴ?」

ちょっと感動していた所に、ウェネニーヴがこっそりと声をかけてくる。

「こいつはどうしましょう?」

え?どうしましょうって……どういう事?

首を傾げて彼女の視線を追うと、なぜか特殊な縛られ方をし、目隠しと猿轡を咬ませられ、地面に転がるエイジェステリアの姿があった!

い、いつの間に!? っていうか、何やってるの!?


「彼女は天使ですから、敵対するとも限りませんので……」

「んん……!んふぅ……!」

な、なるほど。エイジェステリアは抗議してるみたいだけど、言われてみれば、その可能性もあるか……。

でも苦しそうだし、いったん離してあげて!


「ぶはっ!」

猿轡を外されたエイジェステリアは、大きく息を吐き出した!

「い、いきなり何してくれるのよ、竜っ娘!癖になったらどうしてくれるのっ!」

癖になりそうなんかい!

思わずツッコミそうになるのをグッと堪える。

その間にも、ウェネニーヴは縄を解き、エイジェステリアを解放した。

「ぐうう……エライ目にあったわ……」

愚痴りながら伸びをする彼女に、私は今後の身の振り方を尋ねてみた。


「無論、天使として天界(うえ)に報告するわ!」

「くっ……」

やっぱり、そう来るか……。

何て事なの、邪神と戦う前に彼女と戦う事になるかもしれないなんて。

「でも……」

そう続けたエイジェステリアの言葉に、私は顔を上げた。

「エアルちゃんが私の事を縛ってくれたら、きっと天界に報告には行けないわね……」

目を潤ませ、頬を染めながら彼女はそんな事を言う。

そして私は、たぶん信じられない物を見るような目で彼女を見ていた事だろう。

す、すでに癖になってんじゃないのっ!


「さぁ、エアルちゃん!私を止めるために、ギチギチに縛り上げなさい!っていうか、縛って!」

「ちょ、ちょっと!怖いってば!」

「エアルちゃぁん!エア"ッ!」

息を荒げながら迫る彼女を、思わず盾で殴ってしまった!

当たりどころが良かったのか、一瞬で失神したエイジェステリアを無言で見下ろす。

どうしよう、これ……。


ふと、ウェネニーヴが縄を手にしながら、私に頷きかける。

そして私も、それに頷き返した。


黙々とエイジェステリアを縛り上げるウェネニーヴを眺めながら、私は危険な道に目覚めたこの天使が、天界へ報告するのをいかに邪魔するか……そして、どうやって置いていこうかと、本気で思案するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ