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逃走、盾役少女  作者: 善信
第七章 神を討つ者達
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02 より良い結末への模索

「ちょ、ちょっとぉ!後五年で死ぬって、どういう事よっ!?」

血相を変えて迫る私達に、エイジェステリアは気圧されながらも説明をしてくれた。


なんでも、神様や邪神が地上には不干渉なのを良いことに、以前も相手側の神を倒す事をサボった勇者や《神器》使いがいたらしい。

それじゃあ、興醒めだわという事で設けられたのが、『《神器》使い、五年以内に邪神を封印できなかったら死んでしまうルール』だという。

……いや、ハッキリ言って迷惑以外の何物でもない!

というか、勝手に選んでおいてそのルールは何よ!? いくら創造主だからって、好き勝手絶頂にやってるんじゃないわよ!って気持ちでいっぱいだわ!

さすがに他の皆も腹に据えかねたようで(まぁ、レルール達は立場上、本音は言えなさそうだけど)、怒りの愚痴を溢していた。


「ま……まぁまぁ。一応、救済措置はあるんですよ?」

憤慨する私達を宥めるように、エイジェステリアはその救済措置とやらを話してくれる。

「なんと!優れた戦歴を残した《神器》使いは、死後に天界へと招かれて新たな守護天使となって、次代の《神器》使いを導く事ができるのです!」

「なにその、永久奴隷宣言」

「まったく、救済になってねぇよ!」

「お姉さまを、天界なんかへ連れていかせません!」

「ち、違っ……私、そんなつもりじゃ……」

満を持してといった感じて発表したにも関わらず、私達から返ってきたブーイングの嵐に、エイジェステリアは涙目になった。

いや、でも本当になんの救済にもなってないから擁護もできないわ。


あ、でもその理屈で言うと、エイジェステリアもかつては人間だった……とか?

「いや、私は純粋な天界の生まれよ。死後に守護天使になったのは、ゴリラエル様が一番有名かな?」

え、そうなの?

純粋なゴリラじゃなくて、元人間だったんだ……。

「じゃ、じゃあ、ゴリラエルさんて昔はあんな風貌じゃなかったのね……」

「ええ。彼が、生前使っていたゴリラの《神器》と融合してから、あの姿になったの」

ゴリラの《神器》!? なにそれ!?

「あー、私も自分の担当以外の《神器》には、詳しくないから……」

「そ、そう……」

ゴリラの《神器》かぁ……。

正直、興味はあるけど知りたいような、知りたくないような……。


「まぁ、それはさておき……参ったな。これじゃあ、俺達も邪神を倒さない訳にはいかなくなったぞ」

「でも、私達が邪神を倒してしまったら……」

「魔界が滅ぶ……か」

ちょっと脱線しかけたけれど、振り出しに戻されたような結論に、融和ムードは一転、皆が重苦しい空気に俯いてしまった。

せっかくこれ以上の戦いは回避できそうだったっていうのに、こんなのってないよ……。


なにか……なにか、状況が好転する一手は無いのかしら。

「やはり……最後まで戦うしかないのか」

ポツリと誰かが呟く。

その言葉に、ザラゲール達が自嘲気味に小さく笑った。

「俺達、魔界十将軍がいなければ魔族など烏合の衆だ。彼等を止める術はない」

「そうだな。戦おうとする事すら無駄な……」


ベルウルフが言いかけた瞬間、私の脳裏に電流が走る!


「そうだわ!それよ!」

突然、大声をあげた私に、皆の注目が集まった。

「それだ……とは?」

「私達は邪神、あなた達は神様!各々が倒すべき相手がいるんだから、私達がここで戦う(・・・・・・・・)必要は無いのよ(・・・・・・・)!」

「は?」

突拍子もない私の物言いに、だいたいの人がキョトンとしたけど、一部の察しのいい人達が尋ね返してきた。


「ええっと……それはアレかか?要するに、我々(手足)は無視して神々()を狙おうって事か?」

「そうよ!私達が守りたいのは自分達の住む世界であって、神様じゃないでしょ(・・・・・・・・・)?だったら互いの目標を達するためにも、貴重な戦力を削り合う必要はないじゃない!」

私達が邪神を倒しても、ザラゲール達がこちらの神様を倒せれば、魔界は救われるかもしれない。そして、条件を満たした私達の寿命も、たぶん減らない。

「根拠はないし、賭けの部分も多いわ。けど、このまま神様に踊らされて殺し合うよりは希望が持てると思わない?」

「な、なるほど……」

言われてみれば……と、魔族達も理解してくれたみたいだ。


「さすがです、お姉さま!」

「ああ、最初は『なに言ってんだ、お前?』と思ったけど、そんな答えに至れたのは大したものだ!」

「フッ……さすがは俺が見込んだ娘だな。仲間として鼻が高いよ」

ウェネニーヴやモジャさん、そしてなぜか上から目線のセイライまで私を誉めてくれる。

いやぁ、それほどでも……。手放しで誉められて、なんだか背中がムズムズするわ。

だけど……。


「お待ちください!」

厳しい口調で『待った』をかけたレルールが、俯いていた顔を上げた。

「エアル様のお話はわかりました。確かに、無駄な血が流れないのは素晴らしい事と思います」

そこで一旦、言葉を切ったレルールは、意を決したようにハッキリと告げる!

「ですが、アーモリーの大司教たる者として、ザラゲールさん達が我等が神に仇なすのを黙認する訳には参りません!」

そ、そうきたかぁ……。


うーん、でも確かにレルールの立場からすれば、そうなるわよね。

信仰の大元を叩きに行こうっていう人達がいたら、止めるのが当たり前だもん。

そんなレルールの発言に、ジムリさん達も何も言わず、彼女の後ろで静かに静観している。

まぁ、同じようなスタンスの彼女達が、レルールの言に反論する訳が無いか……。

だけど、私にはひとつだけ気になる事があった。


「ねぇ、レルール。もしかしてだけど……あなたも、この戦いに疑問を持ってるんじゃないの?」

私の言葉に、彼女はピクリと反応する。

やっぱり、何か思う所はあるみたいね。

それは、悩んみとまで言うほどの物じゃないかもしれないけど、以前にゴリラエルさん達からこの戦いの真相を聞かされた後から、レルールはちょっと迷っているように見えた。

その証拠に、先の魔界十将軍との戦いの時、なんだか彼女は精彩さを欠いていたように見えたのよね。


たぶん、レルールの《加護》である【超・信仰】がちゃんと発動していなかったんじゃないかと、私は睨んでいる。

神への信仰心によって自身を強化する、この《加護》がちゃんと発動しないほど、彼女の心は揺らいでいるんでしょうね。

「あなただって、前に私達がゲームの駒みたいにされてる事に引っ掛かってるって言ってたし、本心からはこの戦いに納得できなくなってるんじゃないの?」

「それは……」

ハッキリと返答できないのが、すでに答えみたいなものだ。


こちとら真剣に戦ってるのに、遊びのつもりで命のやり取りをさせられてたら、誰だって「ふざけんな!」って思うわよ。

だけど、物心就いた時から神官として育ち、神の声を聞く聖女とまで言われた彼女が、どう考えていても本心を言い出せる訳もない。


「……少し落ち着こうぜ。まだ焦る時間じゃ無いだろう?」

私達の間に入ってきたコーヘイさんが、重苦しくなってきた空気を和らげるように、笑顔でそんな事を言った。

「そう……ですね。今後の事は、私の一存で決められる話ではありませんし……」

確かに、色々と被害の大きいヌイアー砦の戦いについては、国家規模で代表になれる人(宰相とかかしら?)じゃないと決着の判断はつけられないと思う。

もちろん、魔族と和解ということになってもね。


「申し訳ありませんが、いましばらく捕虜の身に甘んじていただきます」

「かまわんさ……ただ、良い結果が出てくれると嬉しいのだがな」

そんなザラゲールの言葉に、レルールは複雑そうな顔をするだけで、返事はしなかった。


神の罰を発動させない、そして魔界を救う。

この二つをやり遂げて、皆が笑える未来があるといいんだけれど……。

ひょっとすると、苦悩する私達の状況をも楽しんでいるかもしれないな……そんな事を思いながら、高い所にいるであろう神を睨むように、私は天を仰いだ。

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