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逃走、盾役少女  作者: 善信
第六章 人と魔族の総力戦
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13 決着、魔界十将軍

            ◆


「これで決まりじゃ~い!」

勝利を確信したモジャさんが、ブリッジのような体勢でバウドルクを空中に弾き上げていく!

あ、あの技は!

かつて、守護天使を仕止めた時に見せたやつ!


究極の(アルティメット)極め技(スパーク)昇天(ヘブン)!」


モジャさんは首、両手、さらに下半身をガッチリと極め、満遍なく獅子人間の全身締め上げた!

「ゲ、ゲボォ……」

血ヘドと共に苦痛の呻き声を吐くバウドルクに対して、モジャさんは仕上げのセットアップに入る!

「この一撃で決まる……長かった戦いよ、さらば!」

ブリッジの下にバウドルクの体を潜り込ませるような体勢のまま、モジャさん達は加速しながら落下してきた!


究極の(アルティメット)極め技(スパーク)奈落(アビス)!」


モジャさんが、フィニッシュの雄叫びを上げ、激しい轟音と衝撃を響かせて、二人は大地(リング)に激突した!


もうもうと土煙があがり、それが収まると……。

「ゴバァ……」

断末魔の声を漏らしながら意識を失うバウドルクと、技を解いて右腕を突き上げるモジャさん。

カンカンカン!と、何処からともなく戦いの終了を告げるゴングの音が鳴り響き、これまた何処からともなく歓声があがった。って何これ!? どこから聞こえるの?

怖っ……。


なんにせよあちらは決着がついたみたいだし、他の皆はどうかしら……?

そう思って、セイライとジャルジャウの方を確認してみる。

互いに遠距離で撃ち合うタイプだから、派手な攻防があるかな?と思いきや、二人の戦いはなんか地味だった。


基本的に小技を相殺しあい、時々強目の攻撃を避け合う……そんな感じ。

うーん、これは当人同士は高度な読み合いをしてて、相手の隙を突くタイミングを狙っている緊迫した戦いなんだろうけど、端から見るとなんの面白みもないってやつだわ。

まぁ、消耗戦ならセイライの方が有利そうだし、ここも大丈夫みたいね。


そうなると、ちょっと心配なのがレルール達かな?

そんな風に思った私は、レルール達とラトーガ達の戦いへ目を向けようとした。が、その時!

凄まじい金属の打ち合う音が、大気を揺らして鳴り響いた!

な、何事っ!?

思わずそちらへ顔を向けると、鬼のような形相にわずかな笑みを浮かべて、コーヘイさんとザラゲールが剣撃を交えていた!

槍、剣、魔法と器用に組み換えて変幻自在な攻撃を繰り出すコーヘイさんに対し、ザラゲールは大剣一本で彼の攻撃を見事に防ぎ、捌いて合間を縫うように反撃していく!


「フハハハ、俺とここまでやり合える手練れは初めてだ!お前、中々の化け物だな!」

「《神器》盛ってる俺を相手に、互角に戦ってるアンタの方が化け物だろうがっ!」

派手にぶつかり合いながらも、二人はどこか楽しそうに軽口を叩き合う。

「……ところで、さっきから気になっていたんだが」

「なんだよ?」

「なんでお前の鎧から、音楽が鳴ってるんだ?」

あ、やっぱりザラゲールも気になってたんだ。

たしかコーヘイさんの《神器》の能力だったのよね、あれ。

「俺の《神器》は、戦闘中に俺の気分が盛り上がると、それに合わせた音楽が鳴るのさ!」

「……それに何か意味はあるのか?」

「格好いいだろう!」

最高のドヤ顔をして見せるコーヘイさんに対し、「ふ、ふーん……」って感じのザラゲール。

完全に文化が違うって顔してるけど、この世界の人間(私達)にも彼の言ってる事はよくわからないからね!?


「……勇者様と、敵の首魁は互角のようですね」

「っ!?」

コーヘイさん達の戦いに集中していた私の隣に、いつの間にかレルール達がやって来ていた。

いや、急に声をかけられてビックリしたのもあるんだけど、それよりも驚いたのはレルールに寄り添うように立っているラトーガの存在!

「ラ、ラトーガ!?」

「ああ、安心してください、エアル様。私の鎖の《神器》で捕縛したので、今のラトーガは私達に害を成したりしません」

「その通りですワン!」

レルールの言葉に、ラトーガは元気よく返事をする。

確かに、鎖の《神器》にはそんな能力があったし、彼女の首には従属の証である首輪がついているんだけど……っていうか、その語尾はなんなの?


「私は御主人(レルール)様の犬ですワン!なので、それに相応しい語尾を付けてみましたワン!」

いい子ですねとレルールに頭を撫でられ、瞳にハートを浮かべながらラトーガは恍惚の表情を浮かべる。たぶん、尻尾が有ったらちぎれんばかりに振っていただろうな……。

しかし、従属させる能力といっても、ここまで強力だとちょっと怖いわ。

前に吸血鬼のライアランを捕まえていた時は、もう少し自由意思とかあったと思うんだけどなぁ。

お手、お座りと、レルールの言葉に従うラトーガの姿に、味方のジムリさんやルマッティーノさんも、結構ドン引きしている。

ただ、モナイムさんだけはラトーガを少し羨ましそうに見ていたのを、私はあえてスルーした。


「しかし、どういたしましょう。私達も、勇者様に助太刀した方が良いのでしょうか」

何となく漂っていた怪しい雰囲気を払拭するように、ルマッティーノさんがそんな提案をしてくる。

たしかに、さっきまでは互角に思われていた勇者同士の戦いだけど、コーヘイさんが徐々に押されはじめてきたように見えるわね。

鎧の《神器》から鳴る音楽で高揚はしてるんだろうけど、戦闘経験の差はやっぱり大きいみたいだわ。


「ですが、あの激しい剣撃の中に、私達が下手に入れば足手まといにならないですか?」

ジムリさんの言葉に、うーんと腕組みして黙りこくってしまう。

そうよね、レルール達は誰もコーヘイさんと組んで戦った事が無いから、コンビネーションが取れないのよね(私も、ちょっと組手をやったことがある程度だし)。

それに、ザラゲールの大剣が《神器》を破壊できるっていうのも問題だわ。

うーむ、どうしたものかしらね……あ!


「……いっそ、レルール達で主導権を握っちゃうのはどうかしら?」

「え?それは、どういう……」

戸惑うレルール達に、私はふと思い付いた策を話してみる。

「……なるほど、それならザラゲールを仕止められるかもしれませんね」

「しかし、やつの動きを一瞬でも止めなければ、勇者様も巻き込んでしまうかもしれませんよ?」

「そこはまぁ……私がなんとかするわ」

言い出しっぺではあるし、むしろ危険なのはレルール達なのだから、それくらいはやらなきゃね。


それから私達は素早く作戦を立て、各々の役割を把握する。

「ラトーガ、早速ですが貴女にも働いてもらいますよ」

「もちろんですワン、御主人様!粉骨砕身、頑張りますワン!」

レルールの役に立てるのが嬉しくてたまらないといった様子で、ラトーガは分身を使って、自分の人数を増やす。その全員がレルールに頭を垂れる絵面は、ちょっと壮観だわ。

「じゃあ、いくわよ!」

レルール達からの返事背中に受けて、私は争う勇者達に向かって走り出した。


「ぬりゃあっ!」

気合いの声と同時に振るわれた大剣が、コーヘイさんの剣を弾き飛ばす!

その衝撃に思わず剣を手放してしまった彼の首を目掛けて、弧を描くように大剣の刃が迫った!

「ぐっ!」

辛うじて、足元から拾い上げた槍の柄でそれを受け流し、コーヘイさんはザラゲールから距離を取る。


「やはり、自己修復能力があるのは、剣の《神器》だけらしいな?」

ほんのわずかではあるけれど、柄の欠けた事を指摘するザラゲールの台詞に、コーヘイさんは小さく舌打ちした。

「邪魔な剣は取りに行かせんぞ。これから、その槍と杖を削り折ってやろう」

「そう上手くいくと思うなよ!」

各々、構えを取り直した両名は、先手を取るべく相手を凝視して集中している。

むむっ、今ならあの二人の注意は、お互いの方に向けられているわ!これはチャンス!


「うおぉぉぉぉっ!」

私はわざと注意を引くように、大声で叫びながら盾を構えて突進する!

そんな私にすぐ気づいたザラゲールは、コーヘイさんと同時に攻撃されるのを嫌ってか、先に倒しやすそうな私へと即座に狙いを変えてきた!


「今度こそ、盾ごと真っ二つにしてやる!」

マシアラのゴーレムに一杯食わされた雪辱も込めて、ザラゲールは大剣を振りかぶる!

マシアラに直接言ってよね!と心の中で叫びつつ、私はその一撃を防御するために備えた!

大剣が盾を打ち据える、激しい衝撃!そして響く金属音!


「なっ……」

ザラゲールが驚きの声を漏らす。

それもそのはず、私の盾は彼の大剣を受けても傷ひとつついていなかったからだ!

「どうやら、読みが当たったみたいね!」

「なんだと!?」

ニヤリと笑う私に、どういう事だと彼は問いかけてきた。


「私達の仲間である天秤の《神器》使いは、他の《神器》の能力を封じるという能力を持っているわ!あなたの《闇の神器》も《神器》である以上、その能力から逃げられなかったみたいね!」

「な、なんだと!」

さすがに驚愕するザラゲール。そんな彼に向かって、天秤の《神器》を発動させたモナイムさんが、どうだと言わんばかりにピースサインを向けていた。

まぁ、モナイムさんの力が通用するかは割りと賭けだったんだけど、それは内緒にしておこう。

「《闇の神器》の能力が『《神器》破壊』でなくても、あなたに何らかの恩恵を与えていたはず!その能力は封じたわ!」

「くっ、舐めるなよ!《闇の神器》の能力が無くとも、俺の剣技に影響はないわ!」

でしょうね!

だから、ここからは選手交代よ!


「コーヘイさん、ちょっとごめんなさいっ!」

私はぼんやりと突っ立っていた彼にタックルすると、倒れ込むようにしてザラゲールから距離を取った。

「何を……?」

一瞬、呆気にとられたザラゲールだったけど、突然彼の足元が爆ぜる!

「なっ!」

「まだまだいきますよ!」

驚く魔族の反応に気をよくしたのか、ジムリさんが激しく(メイス)の《神器》を大地に叩きつけていった!

その衝撃は《神器》の能力により、大地ではなくザラゲールの所で再び爆発する!


「今です!」

バランスを崩したザラゲールに、レルール、ルマッティーノさん、そしてラトーガ達が襲いかかった!

「ラ、ラトーガ!お前、何をやってやがる!」

「すまないな、ザラゲール。私はすでに御主人(レルール)様の忠実な犬!命令に従い、お前を討たせてもらうワン!」

「なんだ、その語尾はぁ!」

気になったのそこかい!まぁ、気持ちはわかるけど!


突然の裏切りに動揺しながらも、ザラゲールはやっぱり強かった。

ラトーガの分身を倒しきり、レルールやルマッティーノさん、さらにはジムリさんやモナイムさんにも手傷を負わせる奮闘ぶりは、彼が万全だったら……なんて思うと、背筋が冷たくなる。

だけど、やがて抵抗は弱まり、その手から大剣がこぼれ落ちると同時に、闇の勇者は膝から大地に崩れ落ちた。


「……終わり……ましたね」

ゼイゼイと荒い息を吐きながら、絞り出すようにレルールが呟く。

その呟きに答えるように、ジムリさん達は勝鬨をあげた!

歓声は広がり、人間側の勝利を告げる声は戦場に響き渡る。

だけど……。


「なんか素直に喜べねぇ……」

ただ一人、横から美味しい所を全て持っていかれたコーヘイさんの、納得いかないような呟きが、近くにいた私の耳にだけ届いていた。

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