表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃走、盾役少女  作者: 善信
第六章 人と魔族の総力戦
79/96

10 奇跡を起こす者

「いやあぁぁっ!お姉さまあぁっ!」

「ギャアァァァッ!し、死んだあぁ!」

目の前で私が真っ二つにされ、()とウェネニーヴの絶望の叫び声が重なる!……って、あれ?


「ん?」

「んん?」

「んんんっ?」


珍妙な表情になった私とウェネニーヴ、そして斬ったハズのザラゲールが思わず顔を見合わせた!

いや、あれっ!?私、無事じゃない!?

え?それじゃあ、今ザラゲールに斬られた()は誰なのっ!?

わけがわからず混乱する私達の前で、両断された()が塵となって崩れ去った。


「お、お前まさか、ラトーガのように分身を使うのか!?」

「ええっ!私、分身が使えたのっ??」

我ながら初耳だわ!


「そんな訳がないでござろう」


変な方向へ話が飛躍しそうになっていた私達に、霧の向こう側から何者かが声をかけてきた。

あ、この口調って……。


「ふん!」

気合いの声と共に、ザラゲールが大剣を振るった!

その剣風で、一気にジャルジャウの作り出した魔法の霧が払われる!

そうして開けた視界の先には、先ほど私達に声をかけてきた人物……知らない美少女(・・・・・・・)が、仁王立ちでこちらを見ていた!

……え、本当に誰?誰なのっ!?


「お久しぶりでありますな、ウェネニーヴ様にエアル殿。小生ですぞ?」

にっこり笑ってこちらに手を振る美少女は、口調だけなら私達もよく知ってる人物に似てる。

「ザラゲール殿も、久しぶりでありますな。相も変わらぬ、恐ろしい御仁でござる」

名指しされて戸惑うザラゲールを無視して、彼女はうんうんと一人で納得していた。


ああ、もう間違いないわ。

なんでそんな姿になっているのかわからないけど、彼女……彼女?は、ウェネニーヴにベタ惚れした、元魔界十将軍のアンデッド!

「とりあえず……助けてくれてありがとうね、マシアラ」

そうお礼を言うと、謎の美少女(マシアラ)はどういたしましてと返してきた。


「なるほど、先程ザラゲールに斬られたお姉さまは、あなたが作り出したゴーレムだったんですね」

ようやく得心がいきましたと、ウェネニーヴも頷く。

そう、前にマシアラはウェネニーヴの夜の一人遊び用に、私そっくりのゴーレムを作り出した事があった。

今回もそれを作り出して、私が斬られる前にわざとザラゲールに発見されやすい所に配置してくれたんだろう。

……助かったは助かったけど、愛玩用ゴーレム(ラブドール)に救われたっていうのは、ちょっと引っ掛かるわね。

たぶん、あの美少女の姿も自分で作ったゴーレムに乗り込んで、それっぽく操作しているんだわ。


「マ、マシアラ?こいつが?」

先の出来事に私とウェネニーヴが理解を示したのに対して、ザラゲールの方はまだ少し混乱しているみたいだった。

あー、マシアラに対するイメージが魔界十将軍の時のままだったら、確かに戸惑うわよね。

無数のアンデッド風ゴーレム軍団を操る死の化身が、今や美少女風ゴーレムを操り、尚且つ自分をそんなガワで包んでるんだもん。


「お、おいっ!貴様、本当にマシアラなのか!?」

「その通りでございます!」

ザラゲールの問いに誇らしげに答えると、美少女ゴーレムの顔にピシリと縦に線が走る。

そして、顔面が両サイドに観音開きでゆっくりと開き、露になった内部にはキーホルダーサイズのスケルトンが、ちょこんと鎮座していた。

うわっ、なにそのギミック!


「フフフ、いかがですかな?小生の自信作、搭乗型MG(マシアラ・ゴーレム)─019の出来栄えは!」

すごい自信満々だけど……うん、顔面が開いてる絵面が思ったり酷くて、正直キモいわ。

私以外もそう思ったようで、やはり他の人達からもウケてはいない。

その芳しくない反応に、マシアラは無言でゴーレムの顔面を閉じると、ものすごく可愛い仕草で、「ひどいですぅ!」とぷんぷんしながら怒りを表現してみせた。

それをやってるのが、変態スケルトンじゃなければ可愛かったんだろうけどね。


「……どうやら、だいぶ変わり果ててるが、本当にマシアラのようだな」

「左様。小生は、ウェネニーヴ様のお陰で愛を知り、生まれ変わったのござるよ」

まぁ、死んだままではあるんですけどね!と、マシアラはHAHAHA!と笑う。

うーん、これがアンデッドジョークってやつなのかしら。


あ!でも、待ってよ?

マシアラがここにいるって事は……。


「遅くなってすまなかった……」

私がそれ(・・)に気づくとほぼ同時に、少し離れた森の中から一人の少年が歩みだしてきた。

鎧の《神器》を身に纏い、さらに右手には剣の《神器》、左手には杖の《神器》を引っさげて登場したのは、人間側(わたしたち)の勇者!

邪神を倒すべく、異世界から喚び出された少年、コーヘイさんその人だっ!……なんけど、なんだか様子がおかしくない?

立ち姿に生気が無いし、なんだか顔色も悪くて泣き腫らしたみたいに目も赤い。

あと、どうして剣と杖の《神器》をコーヘイさんが持ってきてるのかしら?

アーケラード様とリモーレ様は、どうしたの……?


「ねえ、勇者教の後始末ってどうなったのよ?」

コーヘイさんの尋常じゃない姿に、彼と一緒に行動していたマシアラに、そっと小声で尋ねてみた。

「あー、それが……」

少し困った風に語り始めたマシアラの話をまとめると、以下のような事らしい。


            ◆


「妊……娠……」

「そうだ。私と、そしてリモーレもな」

街に戻ったコーヘイ達が、アーケラード達からかけられた第一声がそれだった。

《加護》があったためといえ、ハーレムのような生活を送っていた訳だから、これも当然の結果といってよかっただろう。

こうなる可能性に薄々気づいていながら、享楽に耽っていたコーヘイは、今更ながらに現実を突きつけられてショックを受けていた。


「お……俺は、どう責任を取ればいいんだ……?」

元々はただの高校生でしかないコーヘイにとっては、かなり重い告白であった。が、心を入れかえた彼は、なんとか責任を取ろうと考えて二人に尋ねる。

しかし、返ってきた返事は……。


「お前がどう取り繕おうとも、責任など果たせんよ」

「むしろ、私達と結婚でもするとか言い出したら、お家騒動になりかねないから、絶対やめて」

そんな風に、コーヘイは二人から冷たく突き放された。

「だ、だけど、その……子供はどうするんだよ!?」

「私生児として産むわ。父親は死んだと告げておこう」

「勇者の血が入る利点を説いて、それで家を納得させる」

すでに合理的な対策を考えていた二人に、自分も何かしなければという焦燥感を持ったコーヘイは食い下がる。


「でも、やっぱり男として、なにか……」

「お前の《加護》にしてやられたとはいえ、我々も迂闊ではあったからな……それに、望まぬ男の子を成すのも、貴族の女として覚悟はしていた」

「どうしても責任をとりたいと言うなら、勇者としてこの世界を守りなさい。そして、私達の前に二度と姿を現さないで」

バッサリと言い切り、二人はコーヘイを突き離した。

勇者だなんだと言われても、自分の尻拭いすらできない情けなさにコーヘイが打ちのめされていると、アーケラード達は自分達の《神器》を彼へと渡す。


「身重では、これからの激戦についていけないからな。私達は国に帰らせてもらう」

「皆にはすまないと、伝えておいて」

戦線を離脱するにあたって、《神器》だけは勇者のパーティに返しておこうというのは、二人の心遣いであろう。

元は自分が撒いた種だけに、コーヘイは二人を引き留める言葉もない。

しかし、これだけは知っておきたいと思った質問を、彼は思いきって口にした。


「二人は……俺の事を、どう思ってるんだ?」

別に、実は惚れていてくれるなんて、都合のいい展開は期待しちゃいない。

それでも、しばらく共に旅をした仲間として、そして男として認めてもらえていたのだろうか?

そんなコーヘイの質問に対して、アーケラード達は静かに顔を上げた。


            ◆


「……ゴミを見るような目でありました」

「だよねっ!」

そりゃあ、そうよ。ある意味、洗脳されてて、正気に戻ったら孕まされてましたなんて、最悪にも程がある。

プライドの高い貴族である二人が、コーヘイさんをその場で手打ちにしなかっただけでも、まだ分別があるってものよ。


「まぁ、そんな訳で、コーヘイは仲間に抜けられた事や、女性二人に酷いことをした自責の念やら何やらで、つい先日まですごい落ち込みようでありました」

なるほど、合流が遅れたのと、憔悴してるのには合点がいったわ。

いやー、それにしてもそんな恋愛小説なんかの、ドロドロしたワンシーンっぽい事があったとはね。

これって、もうちょっとお気楽でおバカな話じゃなかったのかしら?


「しかし、そんな精神状態で戦えるのですか?」

ウェネニーヴが、もっともな疑問を口にする。

そうよね、戦いに対する意気込みとかって大事だと思うし……それに、《神器》の解放をしていないコーヘイさんじゃ、ザラゲールをはじめとする、魔界十将軍のトップクラスの魔族達と渡り合えるとは思えないわ。

だけど、そんな私達の心配を余所に、マシアラは「まぁ、見ていてください」と、どこか余裕の表情でコーヘイさんへと目を向けた。


「人間の勇者がようやく現れたと思ったら、なんだか随分と疲れきってる様子だな」

「気にするなよ……自分自身の不甲斐なさに、心底へこんでいただけだ」

「ほぅ……」

「安心しろ、今は吹っ切れている」

「そうか……」

ザラゲールは多くを問わなかった。たぶん、彼も戦士として色々な挫折や取捨選択を迫られてきたからだろう。

もっとも、コーヘイさんは三下り半を突きつけられて落ち込んでただけだけど。


「ところで、お前の《神器》は鎧……だったよな?武器を持ち変えるなら、少し待ってやるぞ?」

確かにコーヘイさんが持っているのは剣と杖の《神器》だけど、使い手以外が持っていても真価は発揮できないわ。

まぁ、壊れないっていう事だけは利点だけど、それだけじゃ《闇の神器》を振るうザラゲールに勝てるはずがない。

「いや、《神器(これ)》で構わないさ」

「そうか……なら、行くぞっ!」

そう言うと同時に、ザラゲールが大剣を振るった!

その一撃を、コーヘイさんは剣で受けるけど、ザラゲールの勢いは止まらない!

《闇の神器》である大剣を縦横無尽に繰り出して、上段からの切り下ろしで、コーヘイさんを押さえつける!

そのまま押し潰そうと圧をかけると、大剣の刃が剣の刀身に食い込んでいった。

まさか!壊れないはずの《神器》がっ!?

ああ、でもザラゲールの大剣も《神器》なんだ……もしかしたら、《神器》同士がぶつかれば、こうなるのかもしれない。

さらに剣の《神器》に大剣の刃を食い込ませながら、魔族は口元に笑みを浮かべた。


「どうした、勇者。この程度か?」

「……もちろん、こんな物じゃないさ!」

何を思ったのか、コーヘイさんは左手の杖の《神器》をザラゲールに向ける。そして、魔法を発動させた!


大気が震え、光が走る!


それは、雷が落ちた時のような轟音と共に、ザラゲールの体を貫いた!

「ごばっ!」

苦痛の叫び声と血を吐き出しながら、後退する魔族!あれだけの魔法を食らって、倒れないのはさすがだわ。

いや、でも今の魔法は何よ?

確かにコーヘイさんはリモーレ様から魔法を習ってたけど、あんな威力が出せるほどの熟練度は無かったわよね!?


「き、貴様……異世界から来たくせに、これほどの魔法を……」

「いいや、俺個人(・・・)の魔法は大した事はないさ。これは魔法の威力を上げる、この杖の《神器》の力だ」

え?それってどういう……。

よくわからない事態に戸惑っていると、訳知り顔なマシアラがフッ……と笑みを漏らした。


「コーヘイは一度、自己嫌悪と不甲斐なさでどん底まで落ち込んだのであります。そして、そのどん底から這い上がって来た時、奴の《神器》は覚醒したのでござるよ!」

じ、《神器》の覚醒!?守護天使の力も無しにっ?

「じゃ、じゃあ……彼の覚醒した《神器》の能力って?」

思わず尋ねた私に、マシアラはコクリと頷く。


「今のコーヘイは、他の全ての《神器》を使用する事ができる……そんなデタラメな存在であります」

うっそぉ……。

あり得ない奇跡を起こす者、それが勇者。

確かにデタラメなその力と存在に、驚いていいのか呆れていいのか……私は言葉も無く、彼等の戦いを見守る事しかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ