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逃走、盾役少女  作者: 善信
第六章 人と魔族の総力戦
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08 放て、必殺の咆哮!

「おい、こらルマルグ!お前、毒耐性の無い奴等に、解毒剤を配っておけって言っただろうが!」

「あ、あの、その……」

ザラゲールに怒声を浴びせられ、おろおろとするルマルグに代わって、ベルウルフが一歩前に出た。

「どうやら姉上は解毒用の錠剤と間違えて、俺が渡したオヤツの豆菓子を配っていたらしい」

「馬鹿なの!?ねぇ、馬鹿なのっ!!」

思わず二回ツッコんで、ザラゲールは受け止めていたウェネニーヴをいなすと、ルマルグ達の元へ身を翻す。


「お前、この作戦が魔界の存亡を賭けた一大事だって、伝えたろうが!」

「ご、ごべんなざいぃ……」

(やべっ、姉上の叱られてべそかいてる顔、たまんねぇ……)

敵地でマジ説教するザラゲールに、叱られてボロ泣きするルマルグ、そんな姉の姿をうっとりとご満悦の表情で見つめるベルウルフ……なんだろう、この地獄絵図。


「まったく、余裕なのかただのボンクラ集団なのか……いまいち計りかねますね」

私の所にいったん退いてきたウェネニーヴが、足元に倒れているエイジェステリアをチラリと覗きこむ。

そうして、おもむろに彼女の顔面を鷲掴みにすると、体内の毒を吸い出して毒霧の範囲の外へと放り投げた。

扱いが雑だなぁ……。


「奴等、なにか揉めてやがるがどうする?」

モジャさんも合流して、どう動くかを聞いてきた。

確かに、予想外の展開で敵の数が減ってる今は好機だわ。

これなら、時間稼ぎもだいぶ楽になるし、無理をしなくても大丈夫かも。

ならば……。


「視界が悪いこの毒霧の中では、暗殺者のラトーガが一番厄介よね」

「でしたら、ラトーガはワタクシが相手をします」

「……わかったわ。お願いね、ウェネニーヴ」

はい!とウェネニーヴは元気として答える。

おっと、張り切り過ぎてもダメだから、ちょっとセーブしてもらわないと。

「あ、例の作戦の為にも、なるべく力を温存しておいてね」

「わかりました。今度こそ、素手で八つ裂きにします!」

「怖っ!」

妙にやる気に満ち溢れるウェネニーヴは、フンフンと鼻を鳴らす。

うーん、前に仕止め損なったのを実は気にしてるのかしら……?


「俺の【無敵装甲(スーパーアーマー)】も、あと十分は持つな。あの闇の勇者と毒姉弟、どっちを相手にした方がいい?」

ウェネニーヴとは対照的に、モジャさんは冷静な態度で私がやり易い方を選べと、提案してきた。

これはありがたい。

「そうね……じゃあ、モジャさんはルマルグ達をお願い!」

私は、少し思案してから、そう結論を出した。

「大丈夫なのか?」

「ええ。そっちの方が、たぶん生き残れる可能性が高いわ」

念のために確認してくるモジャさんに、私は力強く頷いた。

確かに、一度戦った事のある相手の方が組みしやすいかもしれないけど、私の盾では二人同時に相手をするには相性が悪すぎる。

その点、無敵の《加護》があるモジャさんなら、あいつらの魔法に的にされても平気だもんね。


もちろん、闇の勇者であるザラゲールはヤバいとは思うけど、剣がメイン武器である以上は複数方向からの攻撃が無いだけ助かる。

「盾の《神器》を最重量にして、亀になって防御に徹すれば時間稼ぎくらいはできるってものよ!」

「……確かに、そうかもしれないな」

「お姉さまも、無理はなさらないでくださいね!」

心配してくれるウェネニーヴの頭を撫でながら、私は毒霧の外側にいるセイライに声をかけた。


「セイライ!皆の援護をお願い!」

「任せておけ!すでに俺の【天から見下ろす眼(サテライトビュー)】で、全員の位置は把握している!」

視界が悪いせいで彼の姿は見えないけれど、たぶん格好いいポーズを決めているであろう事は予測できる。

うん、見えなくて良かった。


「……とにかくだ!さっさと解毒剤を飲ませて、戦線に復帰させろ!」

「フッ……私達、姉弟(きょうだい)の毒がそう簡単に抜けると思うなら、甘く見られたものね」

「何をドヤ顔してんだ、お前はぁ!」

「ひだい!ひだい!ほっぺたひっぱらないひぇ!」

「おい!姉上に直接手を出すのは、反則だろうがっ!」

「何が反則だ!っていうか、お前がオヤツなんぞ……むっ!」

ごちゃごちゃと揉めていた魔族達だったけど、上空から飛来するセイライの矢に気づき、素早く散開して攻撃をかわす!


「そんな雑な奇襲が……」

「当たるとは思っちゃいないさ!」

矢を避けたベルウルフの言葉が終わらぬ内に、避けた方向で待ち構えていたモジャさんが、彼の体を捕らえた!

「うおぉぉぉぉっ!」

モジャさんは自分ごと大地を転がり、何度もベルウルフを地面に叩きつけてダメージを与えていく!

「ぐはっ!」

「ベルくん!」

血を吐くベルウルフの姿に、ルマルグが悲痛な声を上げた!


「このぉ!うちの弟に何してくれてるのよっ!」

怒りの咆哮と共に、ルマルグは炎魔法をモジャさんに放つけど、《加護》の力で無敵になっているモジャさんは、構わず彼女に向かって走っていく!

「くっ!」

迎撃の毒炎が、さらに雨霰と撃ち込まれるけど、モジャさんの足は止まらない!

そのまま走り抜けたモジャさんは、ついにルマルグに組みついた!


「っ!?」

投げられる事を覚悟したルマルグが、ビクリとしながら目を瞑る!

しかし、モジャさんはそこから身動きしなくなってしまった。

「どうしたの、モジャさん!?」

「ヤバい!ルマルグってば、すっげえ柔らかいし、めっちゃいい匂いがする!おじさん、ちょっと下半身の事情で動けない!」

口にしないでよ、そういう事は!っていうか、戦闘の最中にそっちの方向で行動不能になるとか、かなり最低なんですけどっ!

「いやぁぁ!おっさんの体毛と加齢臭がぁ!」

モジャさんに密着されて、涙目で叫ぶルマルグ。敵とはいえ同じ女として、素直に同情しちゃうわ……。


「姉上から離れろ、この変態がぁ!」

ルマルグのピンチに、ダメージを推してベルウルフが水魔法を放つ!

それを顔面に受けたモジャさんは、たまらずルマルグから離れた。

「がはっ!は、鼻に水がっ!」

そんな隙だらけでむせるモジャさんへと向かって、いつの間にか肉薄したザラゲールが大剣を振りかぶる!


「ふん!」

気合いの声と共に、ザラゲールは大剣を振り下ろした!

しかし、すんでの所で彼等の間に飛び込んだ私は、その一撃をなんとか盾で防ぐ!

激しい金属音が響き、凄まじい衝撃が私の体に伝わってきた!

ヤバっ!すごっ!

盾の《神器》はすでに最重量にしてある。にも関わらず、ザラゲールの一撃で弾かれそうになってしまった。

砕けない《神器》だったから良かったものの、並の盾なら私ごとモジャさんも真っ二つだったと思うわ。


「モジャさん、大丈夫!?」

「お、おう!」

体勢を立て直す私とモジャさん。と、その背後の霧の中から、小さな人影が飛び出してきた!

『もらった!』

鋭い刺突針剣(エストック)の切っ先が、私達を狙う!

「させません!」

しかし、横から突っ込んできたウェネニーヴの蹴りが、人影(ラトーガ)を吹き飛ばした!

「まずは一体」

ウェネニーヴに蹴り飛ばされたラトーガが消滅するのを見て、彼女はそう呟いた。

うん、あれはラトーガの作った分身体だったみたいね。

「ちっ!」

間髪入れずに攻め込もうとするザラゲール達だったけど、そこへタイミングよくセイライの矢が飛んできて、彼等の足を止めた。


ふぅ……なかなか、いい感じじゃない?

確かに個々の能力は向こうの方が上っぽいけど、お互いをフォローしあうコンビネーションは、私達の方が上みたいだわ。

伊達に、最初の頃から旅をしてきたメンバーじゃないわね。

これなら、ウェネニーヴの力を温存しつつ、レルール達の結界が晴れるまで時間を稼げそうだわ。

……なんて思った矢先。


「うっ!」

突然、モジャさんが青い顔をして膝をついた!

「ど、どうしたの!?」

「……無敵時間が切れたっぽい」

弱々しく答えるモジャさん。いや、早くない!?

「さっき、十分くらいはもつぜって豪語してたじゃない!? な、なんで急に……」

「い、いや……平時に試していた時は、確かにそのくらいは持っていたんだが……」

ええ!? それじゃあ、どうして……。


「もしかしてですが……無敵の最中に、受けるダメージ量によって有効時間が減るタイプなのでは?」

「あ、それかも……」

ウェネニーヴの仮説に、モジャさんが納得したように頷いた。

確かに今はルマルグ達が作り出した毒の霧の中にいるから、毒の耐性が有るわけじゃないモジャさんは、常にダメージを受け続けているようなものかも。

想定してた時間よりも早く無敵が切れたのは、そのためか……。


「無敵の《加護》は、強過ぎるが故に条件付きだったのかもしれませんね」

そう言われると、納得はいくけどさ……でも、そんな重要な要素をなんで本人が知らないのよ?

槍の守護天使(クルボアナクエル)は、何も言って無かったし……」

おのれ、怠慢天使!

機会があったら、思いきり文句を言ってやるわ!

「ひとまず、解毒して外に毒霧の外に放り出します!」

言うが早いか、ウェネニーヴはモジャさんを軽々と持ち上げると、毒を吸い出して放り投げた!

雑は雑だけど、エイジェステリアの時よりは、少しだけ丁寧ね。


「何をしているのか知らんが、どうやら仲間の一人はリタイアらしいな」

モジャさんを逃がした私達に、ザラゲール達が笑みを浮かべる。

うぅ……一転して大ピンチだわ。

私は防御が精一杯だし、いくらウェネニーヴが強くても、彼等全員を相手にして無事にすむとは思えない。

どうしよう……迷っている間にも、敵はジリジリと間合いを詰めてくる。

しかし、その時!


「お待たせしました、エアル様!結界、完成です!」

レルールゥ!

すごいわ、まだ制限時間前だっていうのにっ!

素敵っ!まさに聖女!そして美少女!

心の中では絶賛しながら、私はウェネニーヴの手をとった!

「ウェネニーヴ!最終段階、行くわよっ!」

「了解しましたっ!」

私の呼び掛けに答え、ウェネニーヴは美少女から、再び巨大な竜へと姿を変える!


『ゴオォォォォォッ!!!!』


魂を揺るがす咆哮と、暴風のような羽ばたきをもって、ウェネニーヴは私を乗せたまま空へと舞い上がった!

一瞬で上空数十メートルほどまで到達した彼女は、眼下を見下ろして風圧に当てられたザラゲール達へ狙いを定める!


『グオォォォォォォッ!!!!』


先程よりも更に大きな咆哮を上げ、ウェネニーヴは連続でドラゴンブレスを放つ!

魔族達が叫んだであろう、断末魔の声すら掻き消し、竜の爆撃は轟音と共に地表を抉って、大地を揺るがしていった!

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