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逃走、盾役少女  作者: 善信
第六章 人と魔族の総力戦
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07 闇の勇者、その人は……

「んもう!ドヤ顔で作戦を読んだつもりの俺が、馬鹿みたいじゃないっ!」

「だ、大丈夫よ、ベルくん!ちゃんと賢そうだったわよ!」

いまいち、慰めてるのか塩を塗り込んでいるのかわからないルマルグに肩を抱かれ、ベルウルフは耳まで真っ赤になっている。

まぁ、あれは恥ずかしいわよね……。


「それにしても……人間(おまえら)の切り札である勇者抜きで魔界十将軍(おれたち)に挑んで来るとは、安く見られた物だな」

そう、不機嫌そうにザラゲールは吐き捨てた。

「勘違いをするなよ?今は所用でいないっただけで、ちゃんとこちらには向かって来てるさ」

「ふん……我々、魔界十将軍を相手にする事以上の用事など、あるとは思えないがな」

まぁ、普通ならその通りだし、不審に思われるのも無理はないわ。

でも、その切り札が《加護》の力に溺れてやらかしたから、その後始末をしに行ってるとは言いづらい……。


「そんなに勇者とケリを付けたいなら、ちょっとした提案があるんだ」

おそらく、相手が物足りなさを感じたであろうこのタイミングで、セイライが動いた。

「勇者が来るまでの間、俺達《神器》使いとお前ら魔界十将軍で、一対一のチーム勝負を申し込む!」

その申し出に、敵陣はザワリと揺らぐ。


そう、これがさっきセイライが言っていた、『男ならほぼ乗ってくるであろう』作戦というやつである。

戦士なら、そして男なら一対一(タイマン)が大好きだからね!とは、セイライの談。

まぁ、モジャさんなんかは「わかるー!」って言ってたし、そんなモジャさんに密かな想いを寄せてるらしいジムリさんも、「なきにしもあらずー!」とは乗ってきてはいた。


家にも男家族は居たから、その理屈(ノリ)はわからないでもないけどさぁ……。

正直な所、完全に時間稼ぎが目的の申し出に、乗ってくるとはとても思えないのよね。

「ククク……なかなか、面白い事を言ってくれるじゃねぇか」

え、乗ってきたの!?

向こうの獅子人間……バウドルクだっけ?が、何やら肯定的な返事を返してきた。

「いいぜ、じっくりと強さの差って物を見せつけて……」

「却下だ」

バウドルクの言葉を遮り、敵のリーダーであるザラゲールがキッパリと断りを入れる。


「おいおい、余興も必要だろ?」

「余興……だと?」

食い下がろうとするバウドルクに、ザラゲールは冷たい瞳と声で彼を見据えた。

「おい、俺達の使命はなんだ?」

「そ、そりゃ……人間界の神を封じるか倒す事だ」

「そうだな、そんな大仕事があるっていうのに、こちらが有利な状況を放棄してまで、遊ぶ必要があるのか?」

「な、ないですぅ……」

正論で追い詰められ、さらに気圧されるようなオーラでプレッシャーをかけられたバウドルクは、半べそになりながらリーダーへ謝罪の言葉を口にする。

大丈夫なの、獅子人間!?威厳がゼロよ、獅子人間!?


「くっ……あのバウドルクがあの様とは。相変わらず恐ろしい上に真面目な男だぜ、ザラゲール……」

元魔界十将軍で、彼等と面識のあるセイライがポツリと呟く。

「ねぇ……あのザラゲールって人は、そんなに桁違いな人物なの?」

「ああ……他の魔界将軍に比べて、なんて言うか……もうすんごい男だ!」

そして真面目だとセイライは付け加えた。

何よ、そのふわっとした印象は!?真面目って事以外、情報が無いじゃないのっ!

うーん、この調子じゃあ弱点とかも知らないだろうなぁ。

一応は聞いてみたけど、案の定「そんなの俺が知りたいわ!」と逆ギレされてしまった。


しかし、同格であるはずの魔界の将軍達が、これほど恐れるザラゲールとはいったい何者なんだろう。

ただ、腕っぷしが強いだけっていうなら、ここまで恐れられないわよね……。

ひょっとしたら、すんごい《加護》でも持っているのかもしれないわ。

そう思った私は、自身の《加護》である【加護看破】を久々に発動させて、ザラゲールを観察してみた。


「……ぬぁっ!」

思わず、変な声が漏れる!

な、何よあれ……。

驚愕する私の目には、十個を軽く越える数の《加護》がずらりと並んでいるのが見えていた!

こんなの……勇者であるコーヘイさんよりも、授かった《加護》の数が多いじゃないのっ!?

普通なら、魔族は人間よりも基本的に強いせいか、《加護》はほとんどないなんて話も聞くのに、これじゃまるで……はっ!

そこまで考えた時、私の脳裏に閃く物があった!

ま、まさか……。

「闇の……勇者……」

つい、私の口から漏れたその単語に、魔族達は一様に反応を示した。

ついでに言えば、こちらサイドのセイライも「知らなかった、そんなの……」といった顔をしているけど。


「ほぅ……それを見抜くとは。お前と戦った連中が、一番に警戒すべしと進言してくるのは、あながち間違いでは無さそうだ」

「いや、私みたいな庶民がそんなに高く買われていたなんて、こっちこそ心外だわ。だけど、否定しないって事は、やっぱりあなたは……」

「そうだ。俺は荒廃する魔界を救うため、邪神ギレザビーン様によってこの世界に召喚された、異世界の魔族だ!」

おおう、なんてこった……。

まさか、『闇の勇者』が魔族だったなんて……いや、それで正しいのかしら。

何となく『勇者』って、人間の専売特許なイメージだったから、違和感を感じてしまったけど、魔界を救うために人間を喚ぶ方が考えてみたらおかしいわよね。


それにしても、邪神って、個人名があったんだなぁ……なんて、考えていたら、こちらの神に使える天使エイジェステリアが、ザラゲールを睨み付けた。

「あなた……邪神とはいえ、神の御名を口にするとは、不敬ですよ!」

「フッ……この世界の者にとってはそうかもしれないが、異世界の者である俺には、むしろ親愛の証だぜ?」

あー、文化の違いってやつね。確かにこの世界では「神」は「神」としか呼ばないから、名前があるなんて知らなかったわ。

まぁ、エイジェステリアの剣幕から、あまりその辺は聞かない方が無難っぽい。


「……さて、そんな訳で俺達はお前らと遊ぶつもりはない。こちらが有利なら、そのまま押しきらせてもらおう」

そう言って、ザラゲールが背中の大剣を抜き放つと、他の魔界十将軍達も戦闘体勢に入る。

くっ……レルール達が結界を張り終えるまで、まだ少し時間がかかりそうだわ。

その間、私とモジャさんにセイライだけで、彼等を足止めできるかしら。

少し弱気に成りながらも、盾を構えて相手の攻撃に備えた、次の瞬間!

私の横をすり抜けて、小さな影が魔族へ向かって襲いかかった!


「むっ!」

迫る影の一撃を、ザラゲールは剣の腹で受け止める!

それと同時に、激しい衝撃音が周囲に響き渡った!

「フッ……これが竜の攻撃か。まともには、食らいたくないものだな」

「遠慮なさらず、好きなだけ食らってください」

ザラゲールに襲いかかった人影。それは、いつの間にか人の姿になっていたウェネニーヴだ!


「ウェネニーヴ!?あなた、どうして……」

「申し訳ありません、お姉さま!ですが作戦を変更しなければ、お姉さまが殺されていましたっ!」

野生で最強を誇る竜種の見立ては、たぶん合っている。

つまり私じゃ、ザラゲールを相手にしたら一瞬で殺されるという事だろう。

うん、知ってた。


でも、そうなると最初に立てた作戦、「エイジェステリアの機動力を活かして、敵を攪乱させる」が生きてくるんじゃないかしら!?

どうせこちらが圧倒的に不利なんだし、わちゃわちゃ掻き乱した方が反撃の糸口も見えて来るかもしれないもんね!

よーし、そうと決まれば!

「エイジェステリア!」

「心得たわっ!」

私の呼び声に意図を察した天使は、私の体を抱え込むために飛来してくる!

しかし、そんな彼女を妨害すべく、ルマルグとベルウルフが動いた!


「悪いが、余計な面子には離れていてもらおう!」

「天使が肩入れしちゃ、ダメじゃないの~!」

魔族の姉弟は、それぞれが得意とする、毒炎魔法と毒水魔法を発動させて、以前そうやったように猛毒の霧を発生させると、私達をその中に包み込んだ!


「何よこんなも……ぐえーっ!」

威勢よく毒霧に突っ込んできたエイジェステリアが、まるでカトンボのように地面に落ちる!

ちょっと!私に【状態異常無効】なんて《加護》を授けたくせに、本人には毒の耐性がなかったの!?

「役に立たない天使ですねっ!」

ウェネニーヴがザラゲールの相手をしながら、毒に侵されたエイジェステリアを罵倒する。

ごめん、さすがに擁護できないわ……。


「フハハハ!またこちらが、有利になったようだな!」

高笑いするザラゲールに少しイラッとしながらも、私は辺りを見回して味方の安否を確認した。

幸い、レルール達の所までは毒霧は届いていない。

私やウェネニーヴには毒は効かないし、モジャさんも一定時間あらゆる攻撃が無効化できる《加護》、【無敵装甲】を発動させた為に無事だったみたいね。

セイライはうまいこと巻き込まれる前に距離を取ったみたいだし、倒れているのはエイジェステリアと……バウドルクにジャルジャウ?


んんっ!?

思わず二度見した!

しかし、やっぱりどう見ても、敵の獅子人間と魚人間が地面に倒れ、ピクピクと痙攣している。

なんで味方の毒を食らってるのよ、こいつら……。

「何してんの、お前ら……」

まったく同感としか言い様のない、力の抜けたようなザラゲールのツッコミが、戦場の風にむなしく流されていった。

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