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逃走、盾役少女  作者: 善信
第六章 人と魔族の総力戦
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05 頼もしい仲間

準備を終えたジムリさんが達が集まり、ひとまずお説教は終了する。

まだグズってるウェネニーブの姿に胸が痛むけれど、ここは姉のような者として、心を鬼にしなければ。


「……私の事は案じてくれないの?」

また心を読んだみたいに、涙を拭いながらエイジェステリアがポツリと漏らす。

……ちょっと不思議だったんだけど、勘が鋭すぎない?それとも天使の能力なの?

「私とエアルちゃんは《神器》で繋がってるから……」

ポッとなぜか頬を赤らめて、エイジェステリアはまた私が頭に浮かべた疑問に答える。

あー、そういう事かぁ……。

とりあえず、そういう事は止めてよね(次にやったらまた正座させて、お説教するぞ♥)と注意したら、すごい勢いで頷いていたから、しばらくは思考を読まれる事も無くなるだろう。


「では、出発いたしましょうか」

こちらの話が終わるタイミングを見計らって、レルールが声をかけてくる。

そうね、脱線しててごめんなさい。

「移動は馬車を用意してあります。近隣で替えの馬車も手配しておく予定なので、街道を乗り継ぎながら急げば、おそらく三日後にはヌイアー砦へ到着すると思います」

むぅ、結構遠いのね。

まぁ、魔族と戦う最前線だし、そのくらいは離れててもおかしくはないか。


「そんなに時間をかける必要は、ないんじゃないでしょうか?私に乗れば、二時間ほどで到着しますよ」

唐突なウェネニーブの提案に、皆が彼女に注目する。

うーん……確かに時間短縮はありがたいけど、さすがに竜の姿の彼女は目立ち過ぎて、奇襲ができなくなちゃうしなぁ。

「……いえ、敵の方も私達の移動時間を計算に入れているとすれば、相手の迎撃準備が整う前に先手をとれるかもしれません」

むむ、そういう考えもあるか。

つまり、相手に気づかれずに奇襲を優先するか、相手の計算を覆すくらい早い進行をするか……どっちにしても賭けだわね。


「それなら、ウェネニーブに乗って行った方がいいだろうな」

「ああ、兵は神速を尊ぶとも言うしな」

皆で思案していると、ふいに横合いから声がかかった。

こ、この声はっ!

慌ててそちらに目をやると、予想通りの人物が二人、こちらに軽く手をあげて近づいてきた。


「モジャさん!セイライ!」

私達と共に旅をしてきたモジャさんと、元魔界十将軍のエルフであるセイライ。

エルフ族の協力を得るために、パーティを離れていた彼等が、このタイミングで再び私達に合流してくれるなんて!

これはさい先がいいわ。


でも、いつの間にこの国にたどり着いたのかしら……?

「……いや、実は昨日の内に着いてたんだが、なぜか通してもらえなくてな。今日は《神器》を見せることで、やっと信用してもらえたよ」

「んもう!その格好じゃ当たり前じゃない!」

苦笑いする彼は、相変わらず褌一丁で濃い体毛に包まれた肉体を隠そうともしない。

今さら感が強すぎて特になんとも思わなかったけど、傍目から見れば完全に変質者だもんね。慣れって怖いわ。

あと、そんなモジャさんに熱い視線を送るジムリさんも、ちょっと怖い。

まぁ、なにはともあれ心強い味方が戦線復帰してくれる事は、心底ありがたい。


「ところで……小耳に挟んだのだが、ラトーガに襲われたそうだな。よく一人の死者も出さなかったものだ」

呆れているのか、感心しているのか(多分、後者っぽい)、セイライが肩をすくめながら私達を見回した。

「ふふふ、悪かったわね、あなたの出番を取っちゃったみたいで」

「まったくだ。皆が暗殺者に翻弄される中、冷静に奴を射抜くクールな俺の姿を見せられただろうに……」

相変わらずの格好つけたがりだなぁ、このエルフは。


「ほんとにあんたって人は……でも、私達がピンチの時に颯爽と現れようとかしなかっただけでも、マシになったのかしら?」

「それも考えていたが、置いていかれては話にならんし、モジャの奴が……」

考えてたんかい!

いや、それでもモジャさんが嗜めてくれていたのね。

さすが、見た目は変質者だけど、一組織を率いていただけの事はあるわ。

「うう……モジャの絞め技が……体毛が……やめろ、加齢臭がキツいんだ……」

気がつけば、セイライは頭を抱えてガクガクと震えながら何事かを呟いている。

むぅ……モジャさんたら、いったいどんな嗜め方をしたっていうのかしら……。


「なんにしても、こうやって戦いに間に合って良かった……ところで、なんで天使がここにいるんだ?」

ああ、モジャさんの疑問ももっともね。

まぁ、一から説明してたら長くなりそうだし、それは道すがら話すとしましょう。

それもそうだと納得してもらい、いよいよ私達は魔界十将軍によって破壊されたヌイアー砦へ向かう!

あ、でもその前にちょっと確認しておかなくちゃ……。


「ウェネニーブ、モジャさん達が増えたけど、あなたにかかる負担は大丈夫?」

いくら彼女が竜だとはいえ、あまり大人数を長距離で運んだら、疲れが溜まってしまうかもしれない。

作戦では、この戦いを決めるキーパーソンである彼女に、万全の状態を保ってもらいたいもんね。

「おっさん二人が増えた程度では、どうという事はありません。むしろ、お姉さまへの弾除けが増えた事は喜ばしい事です……」

ん?後半が小声だったからよく聞こえなかった上に、誰がおっさんだと不満げなセイライの声で掻き消されてしまった。

まぁ、彼女が大丈夫だと言うなら、心配ないわね。

ヨシ!そうと決まれば、善は急げだ。

「それでは皆さん、参りましょう!ヌイアー砦へ!」

再度、宣言するレルールに、私達は声を合わせて『応っ!』と返した!


それから私達は神殿を出ると、用意された馬車に乗って、街の外を目指した。

まさか、こんな街中でウェネニーブを竜の姿にさせる訳にはいかないもんね。

それにしても、街中は少し慌ただしい。

すでにヌイアー砦が落ちた情報は広まってるみたいで、誰も不安がっているようだった。

「良い報せを届けたい物です……」

呟いたレルールの言葉に、私も小さく頷いてみせた。


さて、空路を行くにあたり、なるべくウェネニーブに負担を与えないよう、彼女が私達を運びやすいにようにしなければならないと思う。

そのため、いま私達が乗っているこの馬車から馬を外し、荷台だけとなったところへ再び私達が乗り込む。そこを、ウェネニーブなや抱えていってもらうという事になった。

まぁ、初めてモジャさん達と共同戦線をはった時にも似たような事はやってたから、要領はわかってると思う。

ただ、あの時よりも飛ぶ距離は長くなるのが、ちょっと心配な所かしら。


「疲れたらすぐに言うのよ?」

「はい。その時は、お姉さまが癒してくださいね!」

愛らしい笑顔を見せながら、ウェネニーブが答える。

うーん、癒してって言われても……何を要求されるのかしら……。

そんな一抹の不安を抱く私をよそに、人化を解いたウェネニーブの姿が、美少女から巨大な竜へと変化していった。


『では、行きます』

竜の姿に戻ったウェネニーブが、私達の乗り込んだ馬車の荷台をガッシリと抱える。そうして、翼をはためかせると、ゆっくりと上昇していった。

「はぁー。思ったよりも厳ついのね、竜っ娘」

自力で飛べるため、並走していたエイジェステリアが、そんな感想を口にする。

マジマジと彼女を眺める天使に、ウェネニーブはニヤリと口の端を歪めて見せた。


『怖じ気づきましたか?お姉さまを諦めるなら、今のうちですよ?』

「はっ!その程度で諦めてたら、天使の名が廃るってもんよ」

『ふん……だったら、ちょうど良い機会です。どちらが先にヌイアー砦へ到着するか、勝負しませんか?』

「ほほう、面白いじゃない。それじゃあ、勝った方がエアルちゃんとキスできるって事でどうよ?」

『いいでしょう、その勝負受けました!』

「ちょっとおぉ!何、さりげなく人の事を賞品にしてくれてるのよおぉっ!」

降って沸いた二人の会話に、私は思わず抗議の声をあげる!

しかし、竜と天使はそんな声を聞こえないフリをして、プイッと視線をそらした。

そういう時だけ、息がぴったりねアンタらはっ!


『いざ!』

「ヌイアー砦へっ!」

大きく羽ばたき、初速から最高速に達する勢いで飛び出した竜の巨体と天使の体は、風を切って北の空へと向かう!

眼下に流れ景色を楽しむ間もないくらい高速で競う二人は、さらなる加速をしていった。

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