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逃走、盾役少女  作者: 善信
第五章 邪神軍の進行
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11 暗殺者の本体

「お姉さま、ご無事でしたか!?」

ラトーガDを一瞬で倒したウェネニーヴは、心配そうな顔付きで、私に向かって振り返った。

そんな彼女に、私は思いっきり抱きつく!

「あ"り"がどう"、ウェネニーヴゥゥ!」

「お、お姉さまっ!?」

絶体絶命の一歩手前まで追い詰められた所からの逆転に、感極まった私はウェネニーヴに頬擦りする!

そんな私に、さすがの彼女も戸惑っているみたいだったけど、そんな様子に構わず、私は彼女をさらに抱き締めた!


「本当にウェネニーヴは、強いわ!可愛いわ!最高だわ!」

思い付く限りの称賛の言葉と共に、しばらくの間ウェネニーヴを撫で回す。

そうして少し落ち着いた頃……ちょっぴり妖しげな目付きで、私を見ている彼女の視線に気づいた。

「お姉さまぁ……♥」

ペロリと舌なめずりをしながら、ウェネニーヴは私を抱き締め返してくる。

あ、あら……?ウェネニーヴ……さん?


「お姉さまが、こんなに情熱的にワタクシを求めてくださるなんて……ついに、お姉さまと結ばれる時が来たのですねっ!」

ち、違っ……!私、そんなつもりじゃ……!

弁解しようと何か言おうとしたけれど、それよりも早くウェネニーヴの唇で、私の口が塞がれた!

ちょ、ちょっとおぉぉぉっ!何をしてるのよ、あんたはあぁぁぁ!

「ん、んんっんっっ!!」

「んふぅ……んんっ」

混乱しながらもなんとかウェネニーヴから離れようとしたけれど、ガッチリと頭部をホールドされ逃げる事ができない!

さらに彼女の熱烈な口づけは、私の酸素と思考能力を少しずつ奪っていった。


「………………っぷはっ!」

ようやくウェネニーヴが離れるまで、どれ程の時が経ったのだろう……。

ぼんやりと霞がかかる頭で、そんな事を考える。

でも、思い出されるのは、ウェネニーヴに唇を貪られ、口中を蹂躙された感触ばかりだ……。

よ、汚されちゃったよぅ……。

妹同然と思えるくらい、ウェネニーヴには好意を持っているけれど、ハードな口づけまでされるとショックの方が大きい。

私は長女だったからギリギリ精神を保っていられたけれど、これが次女だったらきっと耐えられなかったでしょうね……。

そんな訳のわからない考えが頭の中で回っていると、私はぐいっと体を押されて、コロンと床に転がされた。


「はぇ……?」

上手く回らない頭で、現状を確認してみる。

えっと……私は床に寝転がされていて、私を組伏せるみたいにしてウェネニーヴが上になっていて、それでもって彼女のスカートの下から固いモノが……って、ストオッップッ!!!!


「待った!それはマジでヤバいわ、ウェネニーヴッ!?」

「お姉さまがいけないんです。ワタクシの気持ちを知っているのに、ずっと焦らしていて……」

ハァハァと荒く息をしながら、ウェネニーヴは紅潮した顔を近づけ、私の頬をペロペロと舐めてきた。

「ああっ……もう、止まれません!」

ゾクゾクと身震いしながら、彼女は私に覆い被さるとモゾモゾと体を擦り付けてくる。

「ちょ、ちょっと、ウェネニーヴ!ダメだッたら!」

「大丈夫です (フゥフゥ)、絶対に気持ちよくさせますから(ハァハァ)……」

全然、大丈夫そうじゃないっ!


お願いだから落ち着いてよ、今はこんな事をしてる場合じゃないでしょう!

「ぐぬぬ……」

私の上にいるウェネニーヴを、どうにかしてひっくり返せないかと暴れて見るけれど、押さえつけてくる彼女の力は強く、私の全力をもってしてもビクともしない!

「さあ、お姉さま!一緒に天国へと……」

ら、らめぇっ!


この小説は全年齢対(ストップ・ザ)象の健全な作品です(・過剰サービス)!」


ウェネニーヴが私にのし掛かって来たのと同時に、横から飛び込んできた影が彼女を吹き飛ばす!

「やり過ぎて、怒られたらどうするつもりですか、反省なさい竜っ娘!」

全力でウェネニーヴを弾いたエイジェステリアが、ポーズを決めながら啖呵をきった!

「エアルちゃん!大丈夫だった!?」

すんでの所で私を助けられ、呆然としていた私を、彼女は支えて起こしてくれた。


「え……ええ、ありがとう」

はぁ、まだ少しボーッとするわ……。

《加護》があっても、こういう内側から沸いてきた精神的ショックは、どうしようもないのね。

「エアルちゃんには、きれいな体のまま天に召されてほしいだから、あんな竜っ娘に汚されたらダメだからね!」

この天使も、相変わらず何を言っているんだろう……。

あ!それよりもウェネニーヴは!?

いくら獣欲が暴走していたとはいえ、あんな無防備な状態でエイジェステリアの一撃を受けたら、無事じゃすまないかもしれない。


心配になって、彼女が吹き飛ばされた方に目を向けると、そこには……ラトーガ達(・・・・・)を巻き込んで(・・・・・・)、床に転がっているウェネニーヴの姿があった。

あー……どうやら、乱戦中に叩き込まれてこうなったみたいだけど……これは、ラッキーと言っていいのかしら?

暗殺者達と交戦していたレルール達も、突然の事態に困惑してるのかキョトンとした顔でウェネニーヴとラトーガ達を見ながら立ち尽くしている。


『くっ……いきなり何が……』

頭を振りながら、フラフラとラトーガ達が起き上がろうとする。

『ん?』

そんな暗殺者の体に、レルールの鎖がスルスルと巻き付いていった。

「神よ!この好機に感謝いたします!」

『ちょっ、ズルっ……!』

抗議の言葉を口にするよりも速く、電撃魔法でも食らったみたいに、ラトーガ達は大きく跳ねると意識を失った。

「やりました……今度こそ、本当に魔界十将軍を捕らえられました!」

クフフと、小さく含み笑いを漏らすレルール。

そっか……前にライアランを捕らえた時は、奴の策略に踊らされていたからだったけど、今度はそういう事は無さそうだもんね。

ある意味リベンジを果たせたて、彼女の中ではようやく汚名を返上できたって事なんだろう。

完全に棚ぼただったけど、まぁ本人が納得してるならいいか。


「これで……ようやく終わったのか?」

王様と教皇様が重い腰を上げて、周囲を見回す。

「そうですね……ひとまずは、脅威は去ったと思ます」

「そうか……」

答えた私に、彼等は大きく息を吐き出すと、突然レルールに向かってダッシュした!

「レルール!大丈夫か、怪我はないか!?」

「魔族の大幹部を虜にしたんだな、さすがはレルールだ!」

「お、お爺様方!皆さんの前ですから……」

だだの孫バカになってレルールにまとわり着く二人に、さすがの彼女も困り顔だわ。

私も緊張感の消え失せた騒ぎっぷりを横目で見ながら、ウェネニーヴの元まで小走りで駆けていった。


「しっかりして、ウェネニーヴ!」

「んあ……」

やっぱりダメージがあったのか、いまいちぼんやりした表情で彼女は私を見上げる。

「お姉さま……」

「大丈夫?私の事、わかる?」

「はい……でも、なんでしょう。何か、いい夢を見ていたような気が……」

んん?これはひょっとして、暴走状態だった事に加えて不意打ちの強い衝撃で、ちょっと記憶が飛んでる?

戦闘中とかに、時々そういう事があるって話は聞いたことがあるけど、竜にもそんな現象が起こるのね。

「あら、正気に戻ったのね竜っ娘」

フワリと飛来したエイジェステリアが、ウェネニーヴを見下ろしながら様子を伺う。そんな天使に向かって、ウェネニーヴは小さく威嚇するように唸り声を漏らしていた。

「なんでしょう……凄く、この天使が腹立たしいです」

うん、まぁ無理もないわ。


なんにしろ、ラトーガとの戦いは終わった。

まさか皆のパワーアップ直後に戦闘になるとは思ってなかったし、危ない所ではあったけど、結果的に見れば良かったかもしれない。

なんせ、これでこの後に攻めてくる、魔界十将軍の人数を減らせたっていうのが大きいわ。

それに、レルールの鎖で隷属化したラトーガから情報を聞き出せれば、魔族に対する対抗処置も取りやすくなるってものよ。

うん、結果オーライね!


なんだか気分が楽になった私は、ウェネニーヴに手を差し出して立ち上がらせると、静かになったレルール達の方へ向かう。

あ、なんか王様と教皇様が、仁王立ちするレルールの前に正座させられてる……。きっとレルールがキレるまで、構い続けたんだろうな。

でも、王族のこういう悲しい絵面って、見ても大丈夫なのかしら……。


「あ、エアル様にウェネニーヴ様」

そちらに歩いていく私達を見て、レルールがにっこりと微笑む。それで一応、スーパーお説教タイムは終了になったみたいで、王様達の表情にもホッとしたような雰囲気が浮かんでいた。

「お恥ずかしい所をお見せしてしまい、申し訳ありません」

「いやいや、どこの家でも孫を溺愛するお爺ちゃんなんて、同じようなものよ」

「そ、そういうものでしょうか……」

まぁ、確かに王様達のは愛が重い気もするけどね。


「さて、あまり気を抜いてばかりもいられません。慌ただしくはありますけど、ラトーガから情報を聞き出しましょう」

レルールは、自身の鎖の先に捕らえられているラトーガ達に視線を移しながら、キッとした大司教の顔へと気持ちを切り替える。

ライアランの時の事は参考にならないから、一応は隷属しているとはいえ、どこまで自由意思を奪えているのかを試すつもりみたいね。

場合によっては、拷問チックな事を行うのも想定しての、仕事モードなんだろう。

いまだに意識を失っているラトーガ達を、強引に起き上がらせようとして、レルールは鎖の《神器》を引き寄せる。

だけど、その時!

私達が予想もしていない事が起こった!


突然、ラトーガ達の体が崩れ去り、消滅してしまったのだ!

「なっ……」

その場にいた全員が、二の句を繋げないでいる。

だって、あの消え方は奴の分身が消滅する時といっしょだったから。


つまり、本体は別にいる(・・・・・・・)


その事実に気づいた私達は、一瞬で警戒体制に入った!

うう、でもまさかラトーガが四人とも分身だったなんて……実際には、何人まで分身できるのよ、あの暗殺者は!

最初が四人だったから、あんまり大人数にはなれないのかもしれないけど、もう一度分身が来たら……今度こそ耐えられない。

背中合わせになり、王様達を中心として円陣を組んだ私達は、視界の範囲ばかりでなく、上からの奇襲にも注意を払ってラトーガが出方を待った。

相手は神出鬼没の暗殺者、どこから来るのか……。


緊張感で張り詰めた空気で室内が満たされる。と、その時。

『あれ……?』

なんとも普通に、入り口の扉を開いて室内に入ってきたラトーガの間の抜けた声が耳に届いた。

え?本体は部屋の外にいたってこと!?

てっきり室内で機を伺ってばかりいると思っていた私達は、完全に虚を突かれた!

しかし、予想外だったのは向こうも同じだったらしく、驚愕した様子で固まっている。


『え……ええっ!?わ、私の分身体が、全員やられたのかっ!?』

ようやく状況を理解した暗殺者は、わかりやすいくらいに動揺しながら、こちらの戦力を確認すると、再び驚きの声を上げた。

『う、嘘っ!一人も殺れてないじゃないかっ!?ま、まさかそこの天使どもが、力を貸したんじゃないだろうな!』

「ウホッ!」

『いや、ゴリラの返事じゃ、なに言ってるのかちょっとわかんない!』

「ゴリラエル様は『そんなことはしていない』とおっしゃっています!」

すかさず、ゴリラエルさんのフォローに入るソルアハル。うん、できる美少年は素敵よ!


『くっ……まさか、本体(わたし)が少し外してる間に、こんな事になるなんて……』

悔しげにラトーガは呟く。まぁ、実際はたまたまの偶然が重なっただけなんだけどね。

「……分身に暗殺を任せて、本体であるあなたは、一体なにをしていたのですか?」

鎖の《神器》を構えながら、レルールが問いかける。

言われてみれば、確かにそうだ。この場にいるのは、どの面子も魔族にとっては邪魔になる存在だもんね。

それを分身に放り投げて、本体は姿をくらましていた。

そこから予想できるのは、私達以外の標的を狙ったか、もしくは今後のために罠でも仕掛けたか……。

なんにせよ、ここに戻って来るまで何をしていたのか、聞き出す必要はあるわね。


「ん!?」

不意に、ウェネニーヴが鼻を鳴らしながら、怪訝な表情をする。

どうしたのかしら……あ!もしかして、匂いでラトーガが何をしていたのか、検討がついたとか!?

「ま、まさか……信じられません……」

「ど、どうしたの、ウェネニーヴ?」

驚きを隠せない彼女は、ただ事ではなさそう。

彼女は、目の前の敵から一体なにを感じ取ったというのだろうか。

「魔界十将軍の一人、ラトーガ……あいつは……」

うんうん、あいつは?

「あいつは、ここの部屋に来る前に、食事をしてきていますっ!」


……はい?

「ですから、ワタクシ達との戦いは分身に任せ、本体(あいつ)はついさっきまで外で食事をしていたんです!」

「えーっと、あの……食事って、何かの暗喩じゃなくて?」

「はい!この香りは間違いありません!おそらくは、この国の名物料理のひとつ、『セイントサーモンの茸とバターの包み焼き』ですね!?」

ズバリとラトーガを指差しながら、ウェネニーヴは問い詰める!

するとラトーガは、ククク……と、肩を小さく揺らして含み笑いを漏らした。


そして、

正解(エサクタ)!」

見事だと、ウェネニーヴを称えながら、拍手で返してきた。

あー、確かにあれは美味しいけどさ……。

「……なぜ、今、食事(そんなこと)を?」

全くもって理解できないといった顔で、レルールが言葉を絞り出した。


『なぜと言われれば……』

そこに何か、重要な理由でもあるのだろうか?

ラトーガの返答を、レルール達は聞き逃すまいと息を飲んで言葉を待つ。

『朝御飯を食べてなかったから、お腹が空いたから……かな?』

普通だっ!あまりにも普通の答えだった!


「そ、そんな理由で納得できるとでも、お思いですかっ!」

『暗殺は分身体に任せて、本体はエネルギーの補充をしてくる……割りとまっとうな理由だと思うがね』

「ぬっ……」

まぁ、ギリギリで筋は通っているラトーガの意見に、レルールは言葉に詰まる。

しかし、そんな暗殺者の言葉に意を唱えたのは、ウェネニーヴであった。

「気に入りませんね。つまり、あなたはワタクシ達など分身ごとき(・・・・・)で十分だと判断するくらい、こちらを舐めていたという事でしょう?」

『まぁ……そういう事になるかな?』

「でしたら、その不遜な態度の対価を、受けとるといいでしょう」


プライドの高い竜だけに、ラトーガの態度は許せないようで、ウェネニーヴの両手に、竜の鉤爪にも似たオーラが炎のように燃え上がる。

それを見たラトーガは、はぁ……と、ため息をついた。

『なるほど、恐ろしいな……。分身体(わたしたち)を倒せたのも、得心がいった』

勝ち目が無い的な事を言っている割りには、何だか余裕のように見えるわね……まだ奥の手があるのかしら?


『まぁ、メインの仕事はしくじったけど、サブプランはクリアか……戦果としては、十分でしょう』

「本来の仕事?サブプラン?」

耳ざとくラトーガの呟きを聞き付けたレルールが、なにやら企みを感じる単語にピクリと反応した。

ええい、この期に及んでまだなにか企んでいるの!?

『フフフ……まぁ、隠すほどでもないし、教えてあげよう』

調子に乗りやすいのか、単に話して自慢したいだけだったのか。

戸惑うような私達へ向けて、ラトーガは丁寧にその企みについて簡単に話してくれた。


『本命は王族や、《神器》使い達の暗殺。そしてサブプランは、あなた達の戦力を計ること……』

うん、思ったよりもまともだった。でも、本当にそれだけぇ?

『フフフ、まぁ信じる信じないは好きにするといい。なんにせよ、目的は果たせた……』

言いながら、ラトーガは懐から何かボールのような物を取り出すと、思いきり床に叩きつける!

すると、凄まじい煙が巻き起こり、室内を白く染めて暗殺者の姿を隠していった!

くっ、なに?煙幕かなにか!?


『それでは……また会おう、《神器》使いの諸君……』

フハハハ!と何故か高笑いするラトーガの声が遠くなっていく。

やがて煙が晴れると、あの暗殺者の姿は影も形も無くなっていた。

「くっ……取り逃がして終いましたか……」

本当に悔しそうなレルール。ひょっとしたら、彼女中ではリベンジが失敗した事になったのかしら。

そんな彼女を、他の《神器》使い達はなだめていた。


それにしても……また会おう!か。

「来ますね、奴等が」

「ええ、魔界十将軍が……今度は全員でね」

そう、セイライから聞いていた通り、今度はラトーガ単体の暗殺や諜報などではなく、国を……私達を打ち崩すために、魔界の最高戦力が現れるのだ。

まだ見ぬ魔族の最高峰を想像して、私の体はブルリと震える。

いや、武者震いとかじゃなくて、単にビビってるだけだけです……。

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