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逃走、盾役少女  作者: 善信
第五章 邪神軍の進行
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03 脅威を語る少女達

なぜだか会議に出席する事となった私は、ただいま絶賛緊張中だった。

会議室の中央には、見事な装飾の施された立派な長テーブルがひとつあり、一番奥が王様の席になっているみたい。

いまだに王様はこの部屋へ訪れてはいないけど、他の重鎮達はすでに着席して、部外者である私達に鋭い視線を向けていた。

ちなみに、王様の席から見て右側には、大臣やら国政を司る人達が。そして左側には、ひとつだけ空きがあるけど教会のお偉いさん達が陣取っていた。

そんな(レルール以外の)偉い人達に睨まれていれば、一般市民でしかない私なんて、肩身が狭くて仕方がない。

まぁ、こんな雰囲気になったのにも、理由はあるんだけど……。


事の起こりは、レルールに続いて私達が会議室に入ろうとした時だった。

部屋の入り口にいた衛兵が、どう見ても場違いな私をちょっと乱暴に捕まえようとしたのだ。

まぁ、アーモリーの《神器》使いであるジムリさん達でさえ廊下で控えていたんだから、衛兵の人の行動は間違ってはいないと思う。

でも、レルールが「その人は……」と衛兵を止めようとした時、反射的に動いたウェネニーヴの一撃 (すごいデコピン)で、その衛兵は廊下の果てまで吹っ飛んでいってしまったのだ。

「手加減はしてあります。死んではいないでしょう。死んでは!」

なんで、死んでない事をアピールするの?逆に怖くない?


……まぁ、そんな事があって、こうして「なんじゃ、こいつら……」という視線に晒されながら、針のムシロを味わっている訳です。

なお、今も私の隣にぴったりと寄り添いながら、お偉いさんに睨みを効かすウェネニーヴと、それを見て頭の痛そうなレルールの姿が悲痛だった。

ごめんね……。


色々な意味で緊張感が漂う中、一人の衛兵が扉をノックして室内に入ってきた。

「陛下と教皇様が参られました」

その一言に、会議室の空気が変わる。

ううむ、いよいよアーモリーの王様と教会のトップの人が現れるのね。

そんなに偉い人と会うのは、うちの国王様以来だわ。

ちょっとドキドキしながら身構えていると、部屋の扉が大きく開かれ、初老の人物がふたり、室内へと歩み入ってきた。


「やあやあ、みんな。待たせてすまなかったね」

「申し訳なかったな。すぐにでも、会議を始めよう」

先に入ってきた方は、簡易式の王冠を身に付けて、朗らかな笑みを浮かべながら一番奥の席に向かう。

もうひとり方は、仏頂面と言ってもいいくらいの厳格な顔つきで、教会サイドの一番奥の席へ座った。


はー……この方達が、アーモリー現国王リングラン様と、教会の最高責任者、教皇オーダムラー様かぁ。


イメージよりも柔らかそうな王様と、イメージ以上に堅そうな教皇様に、私はみんなを見習って一礼した。

「何やら一悶着あったようだけど、大丈夫だったかな?」

「そ、その通りです陛下!かの聖女殿が連れてきた他国の《神器》使いが、兵に対して狼藉を……」

あ、なんだか変な火種になりそう。

ここは面倒なやり取りが始まる前に、謝罪して話を終わらせておこう。

「申し訳ありません、皆様。私の仲間が大変失礼しました」

先手をうって私が頭を下げると、それを見たウェネニーヴも不承不承、私に倣う。


「ふん!謝れば良いというものではない!衛兵一人の損失が、国へどれだけ迷惑をかけるか……」

……なんだか、随分とネチネチ責めてくるなぁ。

いや、私に(・・)というより私を連れてきた(・・・・・・・)レルールに対しての嫌みなのかな?

このお城に登城する前に、ちらりとだけど国政側と教会側で、権力闘争みたいな物があると噂で聞いた。

今は魔族との戦いもあって、聖女であるレルールを擁する教会側の発言権が大きくなっているとかなんとか……。

んもう……こんな時期に、そういう面倒事は持ち込まないでほしいわ。


「この者達の事だけではありません!聖女殿は、国へ許可もなく他国へ激を飛ばし、《神器》使いを招集しようとしておるのです!」

いつの間にか、明確にレルールへ標的を変えた大臣の一人は、彼女の取った行動に文句をつけはじめた。

何よ、現場での事も知らないくせに!

安全な場所で話を聞いただけの人に、命がけで魔族と戦っていたレルールが責められているのが、すごく腹立たしい!


「……確かに、大臣殿の言われる通り、レルールの行動は軽率でしたな」

そう言ったのは、意外にも教皇オーダムラー様。

ちょっと、お爺ちゃん!

あなたはレルールの上司なら、彼女を庇ってあげるべきじゃないの!?

「事は急を擁するとはいえ、せめて我々に一足早く連絡を入れてから、他国へ使者を出すべきであった」

「はい。配慮が足りず、申し訳ありません」

教皇様に言われて、レルールは素直に頭を下げる。

それを見て、大臣がさらに何かを言おうとした時、先に口を開いたのは国王リングラン様だった。


「まぁ、彼女ほどの者がそう判断したんだ、それだけ緊急事態だったんだろう。邪神や魔族との戦いの前だし、今回は不問にしよう」

世界の危機だ、他国の王も理解してくれるさと、王様はまた朗らかに笑った。

「し、しかし……下手をすれば、他国につけ込まれるかも……」

「それをさせないために、君達がいるんだろ?期待しているぞ」

国王にそう言われては、大臣もこれ以上レルールに何も言えない。面倒な仕事が増えた事に不満気ではあったけど、大臣はおとなしく席に座る。


「さて、それよりも本題は我が国に攻めてくるという、魔族の大幹部……魔界十将軍とやらについてだ」

魔界十将軍……その名を聞いて、室内に一瞬の沈黙が訪れる。

「これまでも、散発的に魔界からの攻撃はありました。しかし、まともな幹部クラスの襲撃は、吸血鬼のライアランが初でしたな」

確認するようなオーダムラー様の言葉に、国政側の騎士長らしき人がコクりと頷く。

「しかし、私がライアランを捕らえたのも、奴等の計画の一部でした。捕らえられたフリをして、内側から蝕んでいくという計画の……」

「あ、ここだけじゃ無いですよ。ウグズマでも、似たような事案がありました」

大司教という立場がありながら、自らの未熟さを暴露するレルールの心境はいかほどのものだろう。

彼女をカバーするため、私もとある領主に入れ替わろうとしていた魔界十将軍の一人の話をした。


さすがに、内容がショッキングだったせいか、今回は嫌味な大臣達もツッコんではこない。

「敵は中々に周到ですな」

「そうだな……ひょっとしたら、他の国にも何らかの工作しているかもしれん」

教皇の言葉に同意し、王様も難しい顔をする。

「その件に関しては、注意勧告を行っておこう。それで、端的に聞くが半分近くにまで減っているという魔界十将軍が全員で攻めてきた場合、我が国は対抗できるのかね?」

王様はズバリ、そう尋ねてきた。

その答えは……。


「おそらく、無理でしょう」

ハッキリと答えたレルールの返答に、国政側の人達が顔色を曇らせる。

「今まで、魔界十将軍と相対してきた皆さんから話を聞いて総合した結果、私はそう判断しました」

《神器》使いであり、自らも魔族との戦いに出ているレルールの言葉は、この場にいる誰よりも説得力があった。

そうよね……私達は相性や運があって今まで無事だったけど、普通に戦っていたら最初のジャズゴにも勝てたかどうかわからないもの。


「ですが、まったく希望が無いわけではありません」

「と、言うと?」

「はい。それが《神器》の覚醒なのです」

守護天使の試練に打ち勝つ事で、《神器》の真の力を引き出す事ができる。その力があれば、魔界十将軍にも対抗できるはずと聞いて、少しだけ場にホッとしたような空気が流れた。


「それに、私達にはエアル様がいらっしゃいます!」

そうそう、エアル様が……って、私!?

いきなり話に出されて、周囲の人達以上にギョッとしてしまった。

「エアル様は、初めての《神器》の覚醒を成功させた方であり、魔界十将軍と何度も戦いながら勝ち続けてきた強者です。さらに、竜を支配下に置き、なんと魔界十将軍のうち二人をこちらの陣営に引き込んだ実績もあります。また、堕落しかけた勇者様を立ち直らせた人格者で、未熟な私達を窮地から救ってくださいました!」

まるで憧れのヒーローを語るみたいに、軽く興奮しながら早口になるレルール。

普段は聖女として凛としているであろう彼女のそんな姿に、国政側の人達も戸惑っているようだった。


いや、しかし結果だけ見ればレルールの言う通りかもしれないけど、ちょっと話を盛りすぎじゃない?

こっそり彼女に視線を向けると、それに気付いたレルールはパチッとウインクを返してきた。

ひょっとしたら、最初のイザコザで悪くなっていた私の印象を払拭するために、あえて持ち上げてくれたのかもしれない。

でも、期待値上げすぎじゃないの!?

過度に期待されても、プレッシャーで胃が痛くなるだけなんですけど!?


「なるほど、それほどの方が……」

「して、そのエアル様なる人物はどちらに?」

希望を見いだした偉い人達の言葉に、レルールはこちらの方です!と、私を示唆した。

その瞬間、私達を除く全ての人が、「思ってたのと違う……」といった表情になる。

そうよね、救世主の登場かと思ってたら、村人Aが出てきたんだもん、そんな顔にもなるわよね。なんかすいません……。


「見かけで判断なされない方がよろしいですよ。エアル様も、そしてお隣のウェネニーヴ様も」

思ったより食い付きか悪かったお偉いさん達に、少し不満そうなレルールがそう強調する。

「た、確かにあの小さい方は、指一本で衛兵を吹き飛ばしたという……」

「それは、魔法の類いではないのか?」

「なんにせよ、ただ者でない事は確かだろう……」

会議前の一悶着で実力の片鱗を見せていた、ウェネニーヴに対する評価は極めて高いみたい。


「で、もうひとりの娘は?」

「小さい方の姉のようだが、あの盾は《神器》のようだな」

「盾……盾かぁ……」

外見でハッタリの効かない私に対する評価は、いまいち微妙みたいだった。

まぁ、変に勘違いされるよりは、よっぽどいいけど。


「うちのお姉さまをナメてると、張り倒しますよ?」

低い声で脅すウェネニーヴに、私を値踏みしていたお偉いさん達がビクリと震えた。

あー、別にいいのに。

「ふむう……その話が本当なら、どうやら盾の《神器》使い殿は随分と頼もしい方のようだ。よければ後学のために、君が戦った魔界十将軍の特徴などを教えてもらえるかな?」

話し半分ではあるけれど、レルールの言を聞いていた王様に、そう促される。まぁ、隠すような事もないし、それは構わない。

そんな訳で、私は今まで戦った敵の詳細を、覚えている限り詳しく語った。


「……とまあ、こんな感じですね」

私が話を終えると、ウェネニーヴを除くみんながポカンとした顔をしている。

あらやだ、何か呆れてる?

確かに荒唐無稽かもしれないけど、本当の事だしなぁ。

「……あり得ないだろ、そんな話」

ポツリと誰かが呟きを漏らす。

「あ、もちろん私だけの力じゃないですよ?仲間のお陰で……」

「そういう問題じゃない!」

急に興奮した国政側の人達が、ドンとテーブルを叩く!

「なんだ?毒の属性を付与した炎や水の魔法を使う魔族だの、無限に湧き出すアンデッドみたいなゴーレムを使うだの……そんなもの、いくら《神器》使いとはいえ、数人でどうこうできる相手じゃないだろうがっ!」

そ、そんな事言われても……なんとかなったんだから、いい事じゃない。


「しかも、敵にはさらに強い奴等もいるだと……」

マシアラやセイライから聞いていた、魔界十将軍の上位には、さらにとんでもない強さの化け物がいるって事も話しちゃったけど……失敗だったかな?

「まぁ、《神器》使い達が集結すれば、なんとかなりますよ」

私達だけでもなんとかなったんだ、もっと強い人達にさが集まれば、きっと大丈夫よね。


しかし、すっかりビビってしまっている大臣達は、まったく聞く耳を持ったくれない。

「黙れ!お主の言うことは虚飾に溢れておる!第一、配下の竜とやらはどこにいるのだ!」

えー、そこから?

しょうがないなぁ……と思いながら、私とついでにレルールがウェネニーヴを指差した。


「……ふざけているのか?」

あ、やっぱり信じないか。

まぁ、こんな可憐な美少女が竜ですって言っても、すぐには信じられないわよね。

それじゃ、仕方ない。

「ウェネニーヴ、ちょっとだけ力を見せられる?」

「お安いご用です!」

私に良いところが見せられると、ウェネニーヴは張り切って会議室の窓の方へ歩いていく。


そうして窓を開けると、一瞬だけ深呼吸をして……腹の底まで響くような咆哮と共に、竜のブレスを上空へと撃ち放った!

遠くに見える巨大な雲が貫かれると同時に爆散し、たまたま近くを飛んでいた小飛竜(ワイバーン)らしき物を撃ち落とされて地上に落ちていく!


「……ふぅ」

可愛らしくため息を吐いて、ウェネニーヴがこちらに向かってフワリと振り返った。

そうして、腰を抜かしていた大臣達へ、にっこりと笑いかける。

「納得していただけましたか?」

「は………は、い」

失神寸前で、国政側の人達辛うじて答えるけど、やはり耐えきれなかったのか、ガクリとそのまま失神してしまった。

まあ、無理もないか。


「すごい物だね……」

さすがに失神こそはしなかったものの、王様や教皇様もカタカタと震えている。

「やべ……ちょっとオシッコ漏れた……」

「私もです……」

おじいちゃん達……。


その呟きは、ウェネニーヴにキラキラした目を向けているレルールには聞こえていなかったようだ。

……うん、私も黙っていよう。

バラしたら処刑されるかも……と、少しだけ怖い考えが頭を過ったけど、戻ってきたウェネニーヴの頭を撫でて、私は気持ちを落ち着かせるのだった。

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