表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃走、盾役少女  作者: 善信
第五章 邪神軍の進行
58/96

01 命の洗濯

「はふう……」

巨大な浴場で心地よい湯に浸かりながら、グッと全身で伸びをする。そんな私の口から、思わずため息を漏れていた。

くあぁぁ……気持ちいい!

文字通り、疲労が体から溶けて出ていく感じがする。

実家の狭い風呂桶と違って、こんなにもゆったり入れるお風呂なんて、すごく贅沢だわ。

さすがは、アーモリーの大神殿にある上位神官専用の大浴場ね。


さて、なんで私がこんな風に湯治を楽しんでいるかと言うと……。


「お姉さま~!」

回想しようとする私の思考を遮るように、ウェネニーヴの声が浴室に響いた。

そして、そのまま勢いよく駆けてきた彼女は、一気に湯槽へ飛び込む!と同時に、派手に水飛沫がとびちり、水面が大きく波打った!

あぁん、もう!

そんなにはしゃいだらダメじゃない、ウェネニーヴ!


「すみません!ですけど……」

怒られたのにニコニコしながら、ウェネニーヴは私の隣にピタリとくっついた。

「お姉さまと裸の付き合いができるのが、嬉しくて嬉しくて……ウフフ」

んんん、確かにウェネニーヴと一緒にお風呂に入るなんて、彼女が仲間に加わった最初の辺りぶりくらいかしら。

あの頃は、まだ人間に変化したばかりで、常識的なものがわかってなかったからなぁ。

だから、ウェネニーヴがはしゃぐのも無理はないかもしれない。

でも、今のところ利用者が私達だけとはいえ、マナーはちゃんと守りなさい!

はーい!と返事だけは良いものの、ウェネニーヴはそれでも私から離れようとしない。

ふぅ、やれやれ。


……しかし、こうして全裸で密着してこられると、嫌が応にも感じられるのが、圧倒的な彼女の(パワー)

私より背は低いのに、そこのサイズだけは比べ物にならないわ……。

その存在感を強調するみたいに、ウェネニーヴは豊満な胸を押し付けてくる。

「お姉さまぁ♥」

……あらやだ、この娘もしかして発情してる?

「ワタクシ……もう辛抱たまりません!」

「ちょ、ちょっと!待ちなさい、ウェネニーヴったら!」

「浴場では、お静かに願います!」

私を組み敷こうとしたウェネニーヴに抵抗していると、横合いから抗議の声が投げ掛けられた。その隙に、私は彼女の虎口から脱出する。

あ、危なかった……。


「ありがとう……助かったわ、レルール」

私がお礼を言うと、顔を真っ赤にしながらレルールは「どういたしまして……」と、か細く答えた。

「あの……それと、ウェネニーヴ様……お願いですから……ま、前を隠してくださいませっ!」

いい所で邪魔をされ、少し膨れっ面で仁王立ちになってる彼女に、レルールは顔を手で覆いながらお願いする。いや、顔を隠してはいるけど、指の間から見えてるわね、アレは……。

だけど、ウェネニーヴの方はその申し出に応える気は無さそうだった。

「何を隠せと言うのですか。ワタクシとお姉さまの愛の前には、何も必要はありませんよ!」

いや、必要でしょ。もうちょっと、慎みを持ちなさい!

私からも促され、ウェネニーヴは渋々タオルで体の前面を隠す。それでようやくホッとしたように、レルールも小さなため息を吐いた。


「それにしても……ウェネニーヴ様の正体が、竜であるというのには驚きました」

「両性というのにも驚きましたけど……」

「人間である私達には、まだまだ図りかねる事が多いですね」

風呂に入る前からのぼせそうになっていたレルールを助けるように、部下であるジムリさん達も湯槽に入ってくる。

むむ……法衣の上からではわからなかったけど、みんなかなりのナイスプロポーション。

腹筋も割れるほど鍛え上げられているけど、出るところは出ている辺り、マニアには堪らないでしょうね。

まさにボンッ!キュッ!ボンッ!って擬音が聞こえてきそうな彼女達に比べて、年相応な控え目ボディのレルールが微笑ましく見えるわ。

うちの妹も、あのくらいだったかな……。


「……せっかくお姉さまと、久しぶりにイチャイチャできると思っていたのに」

レルールを見て実家での生活を思い出し、ひとり和んでいた私の様子を見てウェネニーヴがまた抱きついてくる。

「お姉さまは、もっとワタクシを見てください!」

んん?何か変な邪推してない?しょうがないなぁ……。

ちょっとふてくされるウェネニーヴを宥めていると、レルールが小さく呟いた。

「や、やはりお二人はそういうご関係で……」

「違う違う!あくまで、この娘は妹みたいな物だから!」

そこは、即座に否定させてもらう!

「そ、そうですか。いえ、なんだかエアル様はウェネニーヴ様の裸を見ても、動揺していらっしゃらないようなので、深い仲なのかと……」

「いや、動揺してない分けじゃないのよ?ただ、実家ではよく弟とかお風呂に入れてあげてたし、ちょっとは耐性があるってだけ」

「なるほど……」

納得したのかしてないのか、レルールはなんだか曖昧な返事をしてきた。


「それにしても、レルール様には少し刺激が強すぎましたね」

「う……あ、貴女は平気だというの、ルマッティーノ!?」

「私は、婚約者がいますから」

えっ!そうなの!?

《神器》使いなんて危険な役に着いてるのに、婚約者がいるなんて……ちょっと興味がわくじゃない!

それに、慣れてる的な物言いって事は、そういう事よね(・・・・・・・)

年齢も上だけど、そっちの経験も上みたいなルマッティーノさんには、いずれ色々と聞いてみたいものだわ。


「わ、私はレルール様の味方です!」

「ありがとう、モナイム……」

控え目な感じのする天秤の《神器》使いであるモナイムさんが、ここぞとばかりに前のめりでレルールに迫った。

その勢いに、さすがのレルールも少したじろいでるみたい。

うーん、ライアランの件では、いの一番に奴の手にかかっていたからなぁ。彼女は真面目そうだし、挽回するために気合いが入っているんだろうか。

でも、なんだろう……がっちりレルールの手を握ってるし、妙に熱が入ってるような……?

「あの《神器》使い……ワタクシと似たニオイ(・・・)を感じますね」

フフンと小さく笑いながら、ウェネニーヴが呟く。……怖いから、深く追求するのはやめておこう。


「あの……少しお訊きしてもよろしいでしょうか?」

ふと、レルール達から離れて私達の所へ来たジムリが、ヒソヒソと小声で尋ねてきた。

「え?どうしたんですか?」

「あの……その……」

顔を赤らめて、モジモジと指先を所在無さげに弄るジムリ。しかし、意を決したように、キッと私の目を見据えた。

「モ、モジャ様にお、お付き合いしている方はおられるのでしょうか!?」

……はい?

モジャ様って……うちのモジャさんの事?

念のため確認すると、至極真面目な顔付きで頷き返してきた。

え……ええええっ!?

「えっと、モジャさんにそういう人(・・・・・)はいないハズですけど……」

そう答えると、ジムリさんは心底ホッとしたような安堵の表情を浮かべた。

こ、この反応は間違い無さそう。

「あの……ジムリさんは、モジャさんが好きなんですか?」

ストレートに尋ねると、彼女の顔から火が飛びだす!器用ねっ!?

「すすすすすす、好きとか嫌いとかそういうのじゃなくて……」

絵に描いたように慌てる彼女の様子で、もう丸わかりである。語るに落ちるとは、このことよね。


へぇ~、あのモジャさんをね……。

いったい、どの辺が好きになったのかしら?いつも褌一丁で、体毛もモジャモジャなのに。

本当にどうして……?

本気でわからなかったので、私もジムリさんに尋ねてみた。

「あ、あの人と最初に戦った時、私の攻撃を平然と受け止めてて、すごく逞しい人だなって……」

ああ、確か一定時間ダメージ無効になる《加護》持ってたっけ。

「それに、私に怪我をさせないようにするためでしょうか、抱き締めようと迫ってくる姿が男らしいかったので……」

それはたぶん、捕まえて投げるつもりだったんだと思う。

実際、彼女がライアランに操られていた時はそうしてたし。


うーん、でも多少の誤解はあるみたいだけど、ここであれこれと言うのは野暮ってものよね。

せっかくモジャさんにも春が訪れるかもしれない、こチャンスだろうし。

それに、私だって年頃の娘として、自他を問わずに色恋沙汰に興味があるわ。ここはひとつ、恋バナとかに花を咲かせてみようじゃないの。

「安心して、ジムリさん!私も、あなた達が上手くいくように応援するから!」

「エアル様……」

瞳を潤ませるジムリさんと、力強く頷いた私は、ガッと突き出した拳を合わせた。


──それから二時間ほど、乙女トークで盛り上がった私達は、ようやくお風呂からあがって、用意してもらった服に着替えた。

はー、ちょっとのぼせたけど、なかなか有意義な時間だったわ。

やっぱり時々はこんな会話をして、心に潤いを与えないとね。

晴れやかな気持ちでウェネニーヴを拭いてあげていると、何やら浮かない顔のレルールと目が合った。

どうかしたのかしら?


「いえ……クロウラーの街へ向かった勇者様達と、エルフの国へ向かったモジャ様達が少し心配で……」

……………はっ!?

そ、そうだった!

ついのんびりしていたけど、私達が別れて行動していたのも、理由があっての事だったんだ!

しかも、その中で一番の激戦区になるかもしれないのが、ここアーモリー。

うう……英気を養い、疲れを取ってから、これから始まる儀式に挑む彼女達をサポートしなきゃならないのに。うっかり、お風呂で気を抜きすぎてたわ。

ひょっとすると、若干の現実逃避が入っていたかもしれないけど。


さて、なぜ私達が先行してアーモリーに入ったか。

今度こそ、その訳を語らなければならないわね。

そう、それはセイライが持ってきた、『魔界十将軍全員での、人間界へ向けた進行作戦が計画されている』という情報が発端だった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ