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逃走、盾役少女  作者: 善信
第四章 勇者、覚醒
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10 四つの戦場

「小生は鉄球の《神器》使いをやりますぞ!」

「なら俺は鎚の《神器》使いだな」

「ワタクシは魔界十将軍(ライアラン)を仕止めます」


各々が戦うべき相手を見定めて、それに向かっていく。

んー、そういう事なら、私の相手は天秤の《神器》使いよね。

基本的に攻撃力の無い者同士なら、盾を投げれるだけ私の方が有利になるかもしれないし。

そう思って、モナイムに狙いを定めようとした時!

「!?」

空気を裂き、鞭のようにうねる鎖が、私の行く手を阻んだ!


「エアル様のお相手は、私がさせていただきますわ」

左右の手で二本の鎖を振るい、楽しげなレルールが私とコーヘイさんの前に立ちはだかる。

「オイオイオイ、そりゃ一人で俺達二人を相手するって事か?」

舐められたもんだなと、コーヘイさんが私の隣に並び立つ。

「ウフフ……勇者と英雄を同時にお相手できるなんて、聖女などと呼ばれる身としては、この上なく光栄ですわ」

どうやら、本気で私達を相手にするつもりらしい。

ううん、さすがにそれは甘く見すぎじゃないかしら?


「生意気な子供には、大人げない大人の力を見せてやる」

なんて、言うほどコーヘイさんも大人じゃないでしょうに。

まぁ、年長者を甘く見る子供には、ちょっとお仕置きが必要かもね。

聖女とか言われていても、レルールは年相応の体格しかしていないし、鎖の《神器》に注意して組付いてしまえば、簡単に押さえ込めるハズ。

まぁ、コーヘイさんがやったら絵面がヤバい気がするから、私が押さえ込まなきゃならないだろう。


「フフ、エアル様達のお考えは読めておりますわよ。ですが、そうは参りません」

むっ!何か奥の手でもあるって言うの!?

警戒する私達を前に、レルールは両手を組んで天を仰いだ。

「偉大なる天上の神よ……あなたの下僕たる、このか弱き信徒に困難に打ち勝つ勇気をお与えください!」

祈りの言葉を天に唱え、彼女は一心に祈りを捧げた。

すると、その変化は突然現れた!

ビキビキと音を立てながら、レルールの華奢な肉体が膨らんでいく。

太ったとか言うわけではなくて、彼女の筋肉が膨張していってるのだ!


「おお!神よ!」

ハーブか何かキマッているみたいな、恍惚の表情で自らの肉体に現れた変化に、感謝の言葉を口にするレルール。

二回りほど大きくなった彼女は、ゆっくりとこちらに顔を向けた。

も、もしかして、これが彼女に与えられた《加護》のひとつ【超・信仰】能力なのかしら!?

たしか、信仰心の高さによってパワーアップする能力だったハズだけど、こんなにも姿形にまで影響を与えるなんて……。

まるで可憐な一輪の花が、堅牢な樫の大木にでも変わったかのような印象だわ。


「と、とにかく近付いて押さえ込んじまえば、なんとかなるだろ……」

「そ、そうね……」

私が押さえ込もうとか、絵面を気にしてる場合じゃないわ。ここは確実に、コーヘイさんにレルールを捕まえてもらわなきゃ。

なんて事を話していた次の瞬間、私の横をヒュッと風が通り抜けた。と同時に、爆発じみた音が響いて、地面が大きく抉り取られる!

な、なによ、この破壊力は!?


「あら……まだ力を上手くコントロール出来ませんわね」

呆気に取られる私達の前で、ペロッと舌を出すレルール。

その可愛らしい仕草とは裏腹に、繰り出される攻撃のえげつなさは半端ではなかった。

「今度は外しませんわよ。『聖教流(せいきょうりゅう)縛鎖術(ばくさじゅつ)』、たっぷりと味わってくださいませ」

ひ、ひいぃぃっ!


            ◆


「行けっ!我がゴーレム達よ!」

マシアラの作り出した重戦士型のゴーレム三体が、鉄球の《神器》使いルマッティーノに迫る!

「はぁっ!」

ゴーレム達の攻撃を避けながらも、鍛えぬかれた彼女の反撃は、正確に敵の頭部を捉えていた。

本来なら、《神器》の能力で勝負はついている所だろう。しかし、意識を奪おうにも肝心の脳が無いゴーレム達は、平然と体勢を立て直す。


「グフフ、無駄ですぞ。お主の《神器》は、生物相手にしか能力を発揮できますまい」

勝ち誇ったように言うマシアラに、ルマッティーノは小さく舌打ちをする。

「舐めないでいただきたい。私の鉄球(じんき)が、この程度のゴーレムを打ち砕けないとでも?」

「ならば、試してみるといいでござるよ。モジャ氏との組み手の間に、攻撃を捌く事を学んだ小生のゴーレムを、砕けるかどうかねっ!」

「上等ですわ!」

鉄球の《神器》を振りかざし、再びルマッティーノはマシアラのゴーレムへ立ち向かっていった。


            ◆


「おおぉっ!」

雄叫びと共に、ジムリの(メイス)がモジャの胸板に叩き込まれる!

武装すらしていない、褌一丁の彼が相手なら、今の一撃は肉を裂き、骨を砕いているはずだった。

しかし、モジャはそんな彼女の攻撃に、まるでダメージを受けていない。

「防御されても、肉体の方に衝撃ダメージを与えるってのは大したものだが、残念ながら俺には効かない」

彼の有する《加護》である【無敵装甲(スーパーアーマー)】は、あらゆるダメージを一定時間の間だけ無効化する事ができる。

しかし、その事を知らないジムリからしてみれば、まるで《神器》の力そのものが無効にされたかのような、そんか錯覚すら覚えるだろう。


「くっ……こんな馬鹿な」

「お前さん達は、俺達の前で能力を見せすぎたのさ」

仮にモジャとマシアラの相手が逆だったら、彼等は敗北していたかもしれない。

だが、こうして対策を練り、自分達に有利な状況に持ってこれた時点で、モジャは勝利を確信していた。

だが、そんな逆境に追い込まれたにも関わらず、ジムリから戦闘の意思は消えていない。

「どれだけ不利な状況でも……我が信仰がある限り、背を向けはしません!」

「そうか……なら、なるべく痛くしないようにするからな」

不退転の覚悟を見せるジムリに対して、モジャはスッと腰を落として低く構えをとった。


            ◆


「ふぅ……」

ウェネニーヴを前に、大きくため息を吐くライアランに、彼女は怪訝そうな表情を浮かべる。

「……何やら、不服そうですね」

「ああ、まったくもって不服だ」

ライアランは大袈裟な身ぶりと共に、ウェネニーヴを爪先から頭のてっぺんまで見回した。


「なぜ、かくも美しい少女である君に、巨乳(ムダな肉)がついているのか」

「……は?」

「その、ムダに大きい胸のぜい肉さえ無ければ、私の配下に迎えて優遇してあげられたものを……これを悲劇と言わずして、なんと言おう!」

何かに酔っぱらっているかのようなライアランを、氷点下の眼差しで見つめるウェネニーヴ。


「せめて、私に血を吸われる栄誉……ぶっ!」

まだ言葉を続けようとしたライアランの顔面に、竜の闘気を纏ったウェネニーヴの拳が突き刺さった!

「前が見えねぇ……」

視界を奪われるほど陥没した顔面で、フラフラと虚空に手を伸ばす吸血鬼。そんな彼に、冷たい笑顔を向けて、竜の少女はその両膝に蹴りを叩き込んだ!

関節を砕かれ、悲鳴と共に地面にライアランが転がる!

さらにウェネニーヴは、吸血鬼を踏みつけて、彼の動きを止めた。


「お姉さまになら兎も角、お前ごときにワタクシの体型をどうこう言われる筋合いは、ありませんよ?」

「ひ、ひぃ……」

「そうですね……吸血鬼は再生能力に長けているらしいですから、試してみますか」

そう言った次の瞬間、ウェネニーヴによる速射砲のような拳の連打が、憐れな吸血鬼に打ち込まれていった!


            ◆


「うおぉぉぉぉっ!」

「ひえぇぇぇぇっ!」

コーヘイさんと私の悲鳴が重なる。

レルールから繰り出される、怒濤のような鎖攻撃を前にして、私達は成す術なく盾の後ろに隠れる事しかできなかった。


「この攻撃を受けて、一歩も下がらないのは、さすがですわぁ!」

洒落にならない威力の攻撃だけど、盾の重量を増す事でなんとか私達はその場に踏みとどまっている。

「おっと!」

しかし、防御をすり抜けてきた鎖の一撃を、コーヘイさんが即座に弾き返した!

これなんだ、問題なのはっ!


時々、奇妙な軌道を描いて、盾の後ろにいる私達に鎖が襲いかかってくるのだ。

今は距離が開いてるから、鎖の長さにあまり余裕はないみたいだけど、迂闊に距離を縮めれば鎖にも余裕ができて、変則的な攻撃が増えるだろう。

しかも、いつ天秤の《神器》によって、盾の能力が封じられるかもわからない。

そうなると、あっさり捕まってしまう事は目に見えているから、今は一進一退の防御に徹するしか手がないのだ。


でも、こんな硬直状態も長続きはしないだろう。

なんとか、この状況を打破できないものか……その手立てを探していた私の耳に、コーヘイさんの呟きが届いた。

「せめて、レルールの鎖が一本なら、反撃は可能なのに……」

え!?それって、本当に!?

期待を込めてコーヘイさんに尋ねると、彼は自信をもって頷いた。

「攻撃のパターンはだいたいわかった。一本だけなら、鎖を掻い潜って、レルールに迫れるはずだ!」

おおっ、なんだか初めてコーヘイさんが勇者っぽく見えたわ!


「そう……なら、彼女の鎖を一本は私が止めるわ!」

「……できるのか?」

「できるかどうかは分からないけど、やるしかないじゃない!」

どうせこのままでは、反撃のしようはないし、向こうにはモナイムも控えている。

だったら、多少は無茶でもやれる事をやるしかないわっ!


「やっぱりスゲェよ、あんたは」

ん?なんか誉められた?

こんな時に、何を言ってるのよ、まったく!

気を取り直して、レルールの攻撃に意識を集中する。

タイミングを計り、あえて敵の攻撃に絡め取られるのだ(・・・・・・・・)

そして来る、盾を避けて私に迫る鎖の攻撃!

ここだっ!

私はギリギリでその攻撃を受け止めると、体ごと回転させて、私自身にめちゃくちゃに鎖を絡ませた!


「っ!?これは!」

パワーアップしているレルールは、私の体ごと鎖を引き戻そうとしたけど、そうは問屋がおろさない!

盾はすでに、数十トンの重さへと加重してある。いくら今のレルールでも、ピクリとも動かせまい!

「いまよっ!」

鎖でグルグル巻きになった私の合図を受けて、コーヘイさんがレルールに向かって走り出したっ!

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