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逃走、盾役少女  作者: 善信
第四章 勇者、覚醒
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06 勇者パーティ陥落

前衛でアーケラード様が剣を振るい、後衛のリモーレ様が魔法で援護するオーソドックスな戦術に対し、レルール側は鎚と鉄球の《神器》使いが前に出て、隙あらば後衛を潰そうとする攻撃的な戦法を取っていた。

両者とも連携は見事な物で、一進一退の攻防を繰り広げている。


「ワタクシだったら、毒で足止めしてからの踏みつけで終わってますけどね」

解説のウェネニーヴさん、ありがとうございます。

まぁ、竜の彼女には人間の戦闘はかったるく見えるのかもしれないわね。

「それより気になるのは、天秤の《神器》使いだな」

モジャさんが、ウェネニーヴに代わって興味深そうに呟いた。

ほほう、このこころは?

「どう見ても戦闘向きではありません故、何か特殊な能力があってもおかしくありませんからなぁ」

「そうだ、その能力次第によっちゃ、勝敗を左右するかもしれんからな」

マシアラの言葉を補足して、モジャさん達は再び戦いに目を向ける。

うーん、一応は一緒に旅をした事のあるアーケラード様達に頑張ってもらいたいけど、どうなるのかしら……。

なんて、端から解説者を気取って傍観していたら、両者共にいったん距離を取った。


「やるではないか、さすがは大司教直属の精鋭だな」

「そちらこそ、剣の《神器》に相応しい腕前。色ボケしていると思っておりましたが、見直しましたわ」

最初の攻防で互いの力量を測った《神器》使い達は、良き好敵手に向かって笑みを浮かべる。

「ですが、お遊びはこの辺にしておきましょう」

そう言うと、天秤の《神器》使い (たしかモナイムだっけ?)が歩み出た。


「何をする気か知らないけど……やらせない!」

リモーレ様が、速攻重視で詠唱無しの火球を放つ!

しかし、その奇襲はジムリとルマッティーノの円形盾によって、簡単に防がれてしまった!

「威力が足りなかった……」

悔しげに呟くリモーレ様。それに反撃するように、モナイムが《神器》を発動させた!


「正義の名の元に!我が眼前のに立つ、使い手達の力を封じたまえ!」

モナイムが魔法の詠唱みたいな力強い言葉を放つと、彼女の持つ天秤が大きく傾いた。

すると《神器》から激しい光が溢れだし、アーケラード様とリモーレ様を襲う!


「ぐっ!」

「うっ!」

光を避けきれずに直撃した二人だったけど、少ししてから首を傾げて手足を動かしていた。

どうやらダメージは無かったらしく、拍子抜けといった表情でアーケラード様はモナイムに顔を向ける。

「何をするつもりだったか知らないが、どうやら失敗したようだな」

「いいえ、私の攻撃は成功していますよ」

勝ち誇るアーケラード様に、モナイムはフッと小さく笑う。

そんな彼女に帯して、怪訝そうな顔をするアーケラード様に、後方のリモーレ様が震える声で呼び掛けてきた。

「おかしい……。魔力が回復しない。アーケラード、私達の《神器》が力を失っている!」

「なっ!」

驚愕に顔を歪めて、アーケラード様も自分の《神器》を確認する。けど、見た目に変化は無いものの、やはり能力が失われているようだった。いったい何が起きたの!?


「私の天秤の《神器》には、殺傷能力はいっさいありません。ですが、道を踏み外した《神器》使いの、あらゆる能力を封じる事ができるのです」

な、なんですってー!?

「つまり、対《神器》用の《神器》って事か……」

隣のモジャさんも、緊張した様子で呟く。

あの天秤にかかったら、私の盾もモジャさんの槍も、能力を封じられてしまうのかも……なんて恐ろしい。まぁ、モジャさんは槍を使えないから、あんまり問題じゃないだろうけど。


「でも安心してくださいね。永遠に能力を封じる訳ではなく、ほんの小一時間ほどの間だけです」

その言葉に、アーケラード様達は少しホッとしたようだったけど、すぐにある可能性に気づいて真顔に戻った。

「能力を封じられた状態で、うちの《神器》使いを止められますか?」

ニヤリと笑うモナイム。それと同時に、二人の《神器》使い達が一気に詰め寄った!


「ふんっ!」

鎚の《神器》が弧を描くような軌道で、アーケラード様の腹部を狙う。

しかし、間一髪の所でその攻撃を、剣の腹で受け止めた!

だけど!

「ごふぁっ!」

吐瀉物を撒き散らし、アーケラード様は腹部を押さえて崩れ落ちる。

「よく止めた……と言いたい所ですが、私の《神器》はあらゆる防御を貫いて、任意の場所に衝撃を伝える事ができますの」

おそらくもう聞こえていないアーケラード様に、ジムリは自慢するみたいに能力を説明した。

っていうか、なにその能力!?それじゃ、私の盾も役に立たないって事!?

倒れたアーケラード様と、鎚の《神器》のヤバい能力におののいていると、鉄球の《神器》使いのルマッティーノが、リモーレ様に迫っていた!


「くっ!」

強い魔法を使う間はないと判断したリモーレ様は、再び詠唱無しで火球を放つ!

「はあっ!」

でも、ルマッティーノの振るった鉄球が地面を砕き、その破片で火球は相殺されてしまった!

舌打ちをしたリモーレ様が次の魔法を放つよりも早く、鉄球が彼女の頭部に叩き込まれる!

ゴシャッ!という、鈍い音が大きく響いた。

うわっ、これは死んだ!そう、誰もがそう思っただろう。

だけど、ルマッティーノは倒れたリモーレ様をひょいと持ち上げて、ニッコリと笑みを浮かべる。

「安心してくださいな。私の《神器》は、頭部に当たった時だけ、無傷のまま意識を刈り取る事ができるんですよ」

彼女の言う通り、鉄球が直撃したはずのリモーレ様の顔には傷ひとつ付いていない。

意識を失い、ぐったりしている彼女をアーケラード様の隣に横たえて、仕事を終えた彼女達は主であるレルールの元へ戻った。


「これで貴方を守る者は居なくなりました。さぁ、覚悟なさい」

鎖の《神器》をジャラリと鳴らし、レルールがコーヘイさんに近づいていく。

ああ、いけない。そろそろ止めなきゃ。

とりあえずレルールに声をかけようとした時、失神していたはずのアーケラード様達が、再び立ち上がろうとしているのが視界に入った。


「コーヘイは……やらせんぞ……」

「私達は……まだ、戦える……」

満身創痍ながらも気力を振り絞る二人に向かって、レルールは憐れむような表情を浮かべた。

「その忠誠心は見事なものです。ですが、植え付けられた偽りの感情を剥がしても、立ち上がれますか?」

そう言って振り返ると、レルールは鎖に繋がれた魔界十将軍のライアランに命令する。

「勇者の《加護》を封じなさい」

「了解です、我が主!」

答えた瞬間、鎖が消えて自由になったライアランは、私達が止める間もなくコーヘイさんに組みついた!


「な、何をするデブ!」

「やかましい!私だって男なんぞ捕まえたく無いわっ!」

本当に嫌そうな顔で大きく口を開くと、そのままコーヘイさんの肩口に牙を立てて噛みついた!

『ぐあっ!』

二つの悲鳴が重なる!って、なんで噛みついたライアランまで悲鳴をあげてるのよ!?

「まっず!勇者の血、超まっず!」

コーヘイさんにを放り出し、ぺっぺっと唾を吐きながら、口元を拭うライアラン。

そうか、奴は吸血鬼なのね。

「くっ……なんで、吸血鬼が真っ昼間から……」

肩口を押さえて呟くコーヘイさんの言葉に、皆が首を傾げる。

吸血鬼が昼間に出ても、別におかしくないのでは?


「マジかよ、そんなの詐欺じゃねーか!」

どうやらコーヘイさんの世界では、吸血鬼って昼間出歩けないらしい。なによ、その欠点は。

きっと彼の世界では、吸血鬼なんて雑魚扱いなんだろうな。

まぁ、そんな事は置いといて、さっきレルールがライアランに命令した事の方が気になるわ。

『《加護》を封じろ』って言ってたけど、吸血行為と関係があるのかしら。


「私は、相手の血を吸うことで弱体化させる事ができる。そして、奪った血の量で《加護》を封じたり、傀儡の呪いをかけたりすることが出来るのだ!」

もっとも、お前の血は不味すぎて《加護》を封じるのが精一杯だったと、ライアランは不愉快そうに鼻を鳴らした。

まさか、本当にそんな事が……?


いまいち信じられなかった私は、【加護看破】でコーヘイさんを観察してみる。

すると、彼の【好感度上昇】の《加護》が、なぜだかボヤけて見えた。

「……勇者から出ていた、あの不快な匂いが消えましたね」

鼻を鳴らしたウェネニーヴの言う不快な匂いっていうのは、たぶん勇者フェロモンの事だろう。それが消えたということは、本当に《加護》が封印されてしまったのね。

あ、ということは……。

私は、立ち上がろうとしていたアーケラード様達の方へ目を向ける。

すると、さっきまでの必死の形相とはうって変わって、なんだかすごい真顔で勇者の事を見つめていた。


「なんだ……この、『憧れだった強く優雅な仮面の騎士だけど、素顔が絶妙に残念だった』時のような、微妙な気持ちは……」

「『老化を止めた大魔術師だけど、その時点でヨボヨボだった』ような、ガッカリ感……」

二人とも勇者フェロモンの影響が無くなったとたん、ボロクソに言うなぁ……。

まぁ、今のファットマンなコーヘイさんの姿を冷静に見たら、そうなるかもしれないけど。


「ア、アーケラード、リモーレ!いったい、どうしたんデブか!?」

状況が掴めていないコーヘイさんに呼ばれ、アーケラード様達は少し悩んだような仕草をした。その後、ばたりと倒れ込んで気を失ってしまう。

頼れる仲間を失ったコーヘイさんは、青い顔をしながらその場に立ち尽くしていた。


「もう、貴方に他人を魅了する《加護》は無いのです。諦めてはいかがてすか?」

「《加護》……?《加護》のお陰で、俺は……」

さすがにモテていたのが自分の魅力では無かった事にショックを受けたのか、コーヘイさんはガックリと項垂れ、膝をついた。

「お疲れさまでした、異世界からの勇者様。今後は何も考えなくていい……私の犬として、誠心誠意仕えてくださいな」

年齢に似合わぬ妖艶な笑みと共に、コーヘイさんの首めがけてレルールの鎖が放たれた。

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