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逃走、盾役少女  作者: 善信
第三章 天使大降臨祭り
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08 生ける屍再生計画

……えっと、これはマシアラはウェネニーヴに語りかけていたのに、自分に話しかけてきてると思ってたセイライが応対していたって事よね?

でも、相手は彼の事がまったく眼中に無くて……うわぁ、これは勘違いしてたセイライがひたすら恥ずかしいパターンなのでは?

ソッと覗き見ると案の定、耳まで真っ赤になった彼は、両手で顔を隠してしゃがみこんでいた。

格好つける事に情熱を燃やすセイライにしてみれば、精神的なダメージは大きかったのかもしれないわね……。


まぁ、それはさておき。

「ねぇ、あのアンデッドって、ウェネニーヴの知り合い?」

「いえいえ、あんな骨に顔見知りなどいません!」

骨って……。

まぁ、なぜかマシアラが彼女の名前を出してきたから、一応は聞いておいただけなんだけどね。

ウェネニーヴがあまりに必死な感じでブンブンと首を左右に振るから、なんか逆に悪い気がしてきたわ。


「グフフ、確かに小生とウェネニーヴたんは初対面であります……」

イヤらしく嗤うマシアラに、なんだか生理的な嫌悪感を覚える。っていうか、初対面の相手に「~たん」なんて愛称をつけて呼ぶのは止めなさいよね!

「しかし、ベルウルフ氏やルマルグ氏を退けた彼女の姿を見た時に、運命を感じたのでござるよ!」

くっ、聞いちゃいないわね、こいつ。

さっきのセイライ同様、私の事は目に入っていないようで、視線はウェネニーヴをロックオンしたままだ。

熱の入った言葉と舐め回すような視線を感じてか、心なしか青ざめたウェネニーヴが私の手をキュッと握ってくる。

うん、わかるわ……アイツ、スゴい気持ち悪い。


そもそも、会ったこともない十代前半くらいの美少女(私より胸は大きいけど……)に、運命だなんだと言い寄ろうとする辺りが、もう犯罪チックでしょう。

場所が場所なら、衛兵を呼ばれてもおかしくない。

しかも、アンデッドのくせに妙に紅潮した顔で、ジリジリと近付いて来てる。


そんなマシアラに怯えるウェネニーヴを背中に回して、私は彼女を守るように両者の間に立ちふさがった。

すると、ようやく私を視界に入れたらしいマシアラの、虚ろな眼窩に光る炎がスッと細められる。多分、睨んでるんだろうな。

「ほほぅ、愛し合う二人を邪魔しようと……ぶべっ!」

誰が愛し合ってるのよ!とツッコむ前に、マシアラの頭が何かに弾かれて大きく仰け反った!

奴の頭部を狙い撃ったのは……。

「ふむ……結構、素早く伸びるんだな」

感心したように呟き、マシアラに向けて槍を構えていたモジャさんだった!


「ぐっ……話を遮って攻撃してくるとは、無粋なご仁ですな……」

ザックリと槍の穂先が頭部を貫いたにも拘らず、平然とした様子でアンデッドは立ち上がる。

「なるほど。鋭すぎる穂先より、石突き(こっち)で砕いた方が良かったか」

伸びた穂先を手元に戻し、突きがあまり効果が無いことを確認して、槍を軽く振り回しながらモジャさんが言う。

その姿はまるで槍の達人みたいで、槍術のド素人にはとても見えないわ。恐らく今の攻撃が当たったのもまぐれだし……雰囲気とハッタリって大事ね。


「おうおう!ウチの可愛い娘ちゃん達を口説いてんじゃねーぞ、骨野郎!」

「んんんっ!オタクのような褌一丁の変態に、侮辱される謂れはありませんぞ!」

バチバチと視線の火花を散らす、モジャさんとマシアラ。

しかし、急にマシアラは何かに気付いたような顔になった。

「ハッ!も、もしや……貴方はウェネニーヴたんのお父様では!?」

「!?」

ま、まぁ、モジャさんの歳からすればウェネニーヴくらいの子供がいてもおかしくないけど……悲しいけど、彼は童貞なのよね。

「……違うよ。ただのパーティメンバーだよ」

天を仰いで涙が見えないようにしながら、モジャさんは小さな声で答える。

いい歳で独り身な現実を突きつけられた彼の心情は、私みたいな小娘には計り知れないわ。


「ふん、そうでござるか。なら、オタクのような変態が近くにいては、ウェネニーヴたんの教育上よろしくないので排除させてもらうでござる」

「教育上よろしくないのはそっちもでしょうが!」

「小生はガチに愛してるからセーフでござる!」

なんよ、その都合のいい独自理論!

だけど、なんて取り繕っても、怯える美少女に無理矢理迫る変態(アンデッド)なんてアウトなんだからね!


「フン!もはや問答は不用!さあ、小生の前にウェネニーヴたんをお迎えするでござるよ!」

マシアラの号令が下ると、ぼんやりと立ち尽くしていたアンデッドの群れが一斉に動きだした!

うひゃあ……半分腐ったゾンビやら、カタカタ骨を鳴らすスケルトンがこちらに向かってくる様は、やっぱりおぞましいの一言だわ。

だけど、そんな死者の群れの先頭集団が、何かに引っ掛かったみたいに突然つんのめって転倒する。

よく見ればその足元には草木の茎や根が絡まっていて、後方のエルフ達が植物魔法を使ってくれたのだとわかった。

ナイスタイミング!

これで奴らの出足を止められ……。


「あっ」

思わず声が出た。

倒れた敵のせいで止まると思ったアンデッド達だったけど、味方を踏み潰す事を厭う事なく、どんどんと前進してくる。

中には巻き添えで転ぶやつもいたけれど、関係なく屍を乗り越えてくる死者の群れに、今更ながら死兵の恐ろしさを知った気分だわ。

そんな時、ふとおじいちゃんが冒険者時代の話をしてくれた事を思い出す。

『アンデッドに殺されると、奴等の仲間にされてしまう事があるんじゃ……』

つまり、ゾンビに殺されたら、私もゾンビの仲間入りって事になるのね!?うう、冗談じゃない!

絶対にそれだけは勘弁してもらいたいわ。


「よし、俺達も行くぞ!」

モジャさんに声をかけられ、私達はハッとした。

そうだわ、私達が奴等の数を減らす役目だもんね!

正直、アンデッドを殴る役は今でも嫌だけど、生き残るためには贅沢を言ってられない!

「ウェネニーヴ!」

「はい!お姉さま!」

私の呼び掛けに元気よく答えた彼女と一緒に、私は盾を振りかぶりながら死者の群れに突っ込んでいく!

私達の役目、アンデッドを蹴散らして、マシアラへの道を作るために。


「うおぉぉぉぉぉっ!」

叫び声と共に、加重した盾を横凪ぎに振るうと、それだけで数体のゾンビが粉々になって吹っ飛んだ!

元々脆い事もあってか、やはり打撃は有効みたいね。

意外にもすんなり行けそうで、私はウェネニーヴの様子をチラリと窺う。

すると、彼女の方には私の倍以上のアンデッドが殺到しているじゃないの!?

どうやら、マシアラの命令に従って、ウェネニーヴを捕らえる事に重点を置いているようだ。


「はあぁぁぁぁっ!」

手に纏わせた竜の爪を思わせる闘気を振るい、寄せてくるアンデッド達を次々とウェネニーヴは砕いていく。

しかし、どれだけ致命傷を負わされても怯む事はない奴等に、さすがの彼女も辟易しているようだった。

でも、これはチャンスだわ!

彼女に敵が集中している間に、マシアラを倒す!

私とモジャさんは頷きあうと、一気に敵の首魁に向けて距離を縮めていった。


「グフフ、オタクらの相手はこいつらがしますぞ」

迫る私達を迎え撃つため、再びマシアラは影からアンデッドを生み出す。

「くそっ!」

モジャさんのラリアットと、私の盾の一撃が新手を砕くけれど、その間にも次々とアンデッドは数を増やしていった。

ええい、どこにこれだけの死体を貯めてっ……あれ!?

「どうした、エアル!?」

急に動きを止めた私に、モジャさんが戸惑う。でも、そんな彼の言葉よりも、この場のある違和感に私の意識は向けられていた。


「……臭わない」

「は?」

「だから、こんなにもアンデッドの肉体が飛び散ってるのに、まったく腐臭が(・・・・・・・)しないんですよ(・・・・・・・)!」

「!?そういえば……」

私に言われて、モジャさんも気が付いたみたい。

もちろん、すでに鼻がバカになってるとか、そういう訳じゃない。

森特有の、土や木の匂いはそのまま感じられるもの。

ついでに言えば、今もウェネニーヴが群がるゾンビ達を砕きまくって、その肉片を周囲にばらまいている最中だ。まさか、ゾンビに防臭処理を施してから製造してる訳じゃあるまいし、これはいくらなんでも変でしょう?


「グフフ、よくそこに気が付いたでござるな」

やるねっ!といった感じで私を指差しながら、マシアラが笑う。その仕草に少しばかりイラッとしたけど、何か説明したさそうな雰囲気なので、奴の次の言葉を待った。

「貴女のお気づきの通り、小生が造り出すアンデッド達は、ちと特別製でしてな。なんと、死体をベースにした物ではござらん!」

死体を……使ってないアンデッド!?そんなの、矛盾してるじゃない!?

「正確に言えば、土塊から精製した死体型の人形に、小生の闇のオーラを付属してアンデッドの特性を持たせた物……言うなれば、アンデッド風ゴーレムでござる!」

な、なんですって!

いや……でもなんか、それはそれでスゴいんだろうけど、逆に面倒なんじゃないのかしら?


「小生は造形美にこだわるクチでしてな。死体から造り上げるアンデッドのバランスの悪さに、常日頃から不満を持っていたのでござるよ」

あれ……聞いてないのに語りだした。

これはアレかな?苦労話や自慢話がしたいタイプかな。

とりあえず、何かマシアラの弱点に繋がるようなポイントがあるかもしれないので、奴の話に耳を傾ける。

「そこで、思い付いたのが『アンデッド風ゴーレム』でござるよ。なにせ、死体要らずで小生の追求する造形美も実現できる!見てくだされ、この骨格のラインの美しさを!」

マシアラの隣に佇むスケルトンを、興奮気味に紹介されるけど……うーん、ハッキリ言って普通のスケルトンとの差がよくわからない。

「……造形うんぬんはよくわからんが、こだわりを追求する姿勢はよくわかるぜ」

何か感じる物があったのか、マシアラの言葉にモジャさんは頷いていた。男の人って、そういう所あるわよね。

でもまさか、この無数のアンデッド達がゴーレムだったとは。


「ククク。もちろん、ただのゴーレムではありませんぞ。ベースとなる死体を必要としない以上、たとえ破壊されたとしても、それらはすぐ土に帰るだけで、小生が闇のオーラを注いでやれば、すぐに復活するのでござるよ」

なによ、それ!

つまり、あんたの闇のオーラとやらが尽きるまで、無尽蔵にアンデッド風ゴーレムが作られるって事じゃない!?


「さらに、これらにはアンデッドの特性が付与してありますからな。よって、こやつらに殺されれば、本物のアンデッドになる事、請け合いですぞ!」

それって結局ヤバいやつじゃない!フェイクならフェイクらしく、そんな能力は付与なしなくていいのに。

「フハハハッ!仮初めの死者が、本物の死者を増やしていく……これが、小生の戦術、『生ける屍(アンデッド)再生計画(リボーンプロジェクト)』でござるよ!」

この場にいるすべての者に訴えかけるように、マシアラは高らかに宣言した。

変態すぎるアンデッドなだけだと思ってたけど、これまでの魔界十将軍の中で一番ヤバい相手かもしれないわ……。

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