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逃走、盾役少女  作者: 善信
第三章 天使大降臨祭り
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06 新たなる力

「見事だったぞ。よくぞ我々、守護天使の試練を乗り越えた」

イヨウテルミルが私達を誉めて、満足そうに頷いている。

だけど、私はそんな彼の言葉も素通りするくらい、浮かれた気分だった。

ようやく……これでようやく《神器》から解放されるのね!

田舎の村から出て旅をするといった経験が、嫌な思い出ばかりだったかと言えばそんな事はないけど、これで普通の生活に戻れると思うとやっぱり嬉しい。


「お姉さま……お姉さまが《神器》を手放しても、ワタクシは着いていってもいいですよね?」

ちょっと不安そうに聞いてくるウェネニーヴだったけど、そんな彼女を私は抱きしめてあげる。

「当たり前じゃない!むしろ私の方が、ウェネニーヴから見て魅力が無くなったんじゃないかなって、心配しちゃうわよ」

「そ、そんな事はありません!お姉さまは強さだけでなく、色々な意味で魅力的です!」

いやー、照れますな。

力説してくるウェネニーヴを、テンションの上がっていた私はさらに力強くハグして撫で回す。

そんな状況に、まるで猫のように体を預けてくる彼女がまた愛らしくて、しばらくそのまま撫で続けていた。


「その辺にしておきなさい」

私とウェネニーヴの間に、目を覚ましたエイジェステリアが割り込んできた。

心地よい一時を邪魔されて、ウェネニーヴが天使を睨み付けるけど、確かにちょっと浮かれすぎていたかも。

よしよしと竜の少女を宥めつつ、私は彼女から離れて天使達に顔を向ける。


「それでは、そろそろ君達の《神器》を解放しようか」

ん?《神器》()解放?

やーね、それを言うなら「《神器》から(・・)解放」じゃないの。

うっかりさんねと、イヨウテルミルに間違ってると伝えると、キョトンとした顔で彼は首を傾げた。

「いや、何も間違えていないぞ。真なる《神器》の力を解放すると我は告げたのだ」

……それって、どういう事よ?


「だから、我々守護天使の試練を乗り越えた君達に、真の《神器》使いとして……」

「じゃなくてっ!?」

思わず言葉を遮り、大声を出してしまった。

「私とモジャさんは、あなた達に勝ったら《神器》から解放されるんじゃなかったの!?」

そんな私の訴えに、天使達は肩をすくめる。

「いやいや、我々の試練を乗り越える者が、《神器》使いとして不適格な訳がないじゃないか」

「で、でも、望みを叶えたくば勝利してみろって、言うから……」

「それは心構えの話だよ。最初から手を抜かれたら、こちらも実力を測れないしね」

「それに、《神器》を没収とかする方法なんて、使い手が死ぬくらいしかないわ」

悪びれた様子もなく、天使達は顔を見合わせて無理無理とか言い合ってる。

……だ、騙された。


「待ってください。たしかセイライの弓の《神器》は、かつての使い手がこのエルフの国に奉納し、特定の使い手でなくても使用ができると聞きました。つまり、所有者が権利を放棄する方法は有るのでしょう?」

はっ!そうよ、確かそんな事を言ってた気がする!

「……それには、裏話があってな」

ちょっと言いづらそうに、イヨウテルミルが口ごもる。

でも、裏話って何よ!こっちだって今後の人生がかかってるんだから、隠し事は無しにしてちょうだい!

「……実は、先代の弓の守護天使と《神器》使いが恋仲になってな。それで互いが使命を放棄したから、弓の《神器》はそんな特殊な状態になっていたのだ」

一応は天界の汚点になるからと、イヨウテルミルは少々バツが悪そうに理由を語った。

ふうん、そんな恋物語(ラブストーリー)があったのね。……って、知らんわそんなのっ!


だいたい、話をまとめると私が死ぬか、守護天使……エイジェステリアと恋仲になって使命を一緒に放棄するしかないって事でしょ!?

そんな事、あり得ないじゃないの!

同意を求めて、エイジェステリアに声をかけると、何故だか彼女は頬を赤く染めて目線を逸らした。……その気になってるんじゃないわよ。

「グルルル……」

あー、ほら。ウェネニーヴも、威嚇の唸り声を出すのはやめなさい!

とにかく、何度も言うけど私はノーマルなんで、その方法はパスさせてください。


「後はそうだな……邪神を倒すか封印するかして、世界の脅威を取り除く事か」

ここにきて、無口だった槍の守護天使(クルボアナクエル)が口を開いた。

でも、それは勇者の仕事じゃない?わざわざ、異世界から呼び寄せたんだし。

「いや、それをサポートするのも|《神器》使い《きみたち》の仕事だろう?」

うっ……それを言われるとそうなんどけど。

で、でも、勇者だってハーレム作ったり、なんか調味料を作ってたりして、真面目に仕事しないから……。

「神さまはなにも禁止なんかしてない」

「愛してる」

「愛してる」

なんか歌っぽく台詞を繋げてんじゃないわよ!


「でもね、現実問題として勇者に協力して、邪神を倒すのが一番の近道じゃない?」

そう諭してくるエイジェステリアの言葉は……悔しいけど正論だわ。

「それとも……私と結婚する?」

いや、それはノーサンキューで。

エイジェステリアの申し出をバッサリと断り、私は「再び勇者に協力する」という可能性を思案する。


《神器》使いの役割が、元々勇者と共に邪神と戦う事な訳だし、守護天使達の言い分はもっともなのよね。ハーレムとか言い出さなければ。

でも……よくよく考えてみれば、私はそんなのに入らなくてもいいんじゃないかな?

なんせ、勇者の回りにはアーケラード様やリモーレ様といった、素敵な美女でしかも貴族といった方々がいる。

それに、今後は様々な《神器》使いが勇者の元にやって来るのだろうから、その人達に比べれば私みたいな普通の村娘は、ハーレム入りさせる優先順位は低いんじゃないかしら。

いや、むしろ審査で弾かれるかもしれないわね。……まぁ、年頃の女子としては、それはそれでちょっと悲しい気もするけど。


「お前さんが決めたんなら、俺達も付き合ってやるさ。だから、あんまり深く考えすぎるなよ」

悩む私に、モジャさんとウェネニーヴが、力強く頷いて見せる。

……ありがとう。本当に心強いわ。

勇者よりも、私に協力してくれると言ってくれる二人の存在がとてもありがたい。

「……俺は俺は勝手にやらせてもらうがな」

聞いてないのに、セイライが聞こえるように呟いた。

どうやら、一匹狼ムーヴは続けるみたいね。


「なんにせよ、《神器》使いとしての使命を全うする事だ」

それしか自由になる術はないと締めくくって、イヨウテルミルは咳払いを一つした。

「それでは、改めて我々の試練を乗り越えた君達の《神器》を解放する。まぁ、早い話がパワーアップだな」

そう言って、守護天使達は各々が担当する《神器》に触れる。

次の瞬間、《神器》を通して何か力が伝わってくるのを感じた!

「こ、これは……」

私達が驚いていると、守護天使達がパワーアップした《神器》の説明をしてくれた。


まず、私の盾。

いままでは最大重量が五十トンだったけど、倍の百トンにまで重くする事ができるようになった。

それでいて、私にかかる負担は軽減されたというのだから、仮に振り回すだけでもこれはちょっとした兵器である。

……盾って防御に使う物なのに、なんでここまで凶悪にするのかしら。

続いて、モジャさんの槍。

こちらは擬装能力に加えて、伸縮能力を得た。

伸び縮みする槍は、戦闘以外でも役に立ってくれそうね……物干し竿代わりとか。

そして、セイライの弓。

こちらは魔力を込める事で、矢の飛距離と貫通力が増すとの事だった。

割りとシンプルだけど、それゆえに単純に怖い事になりそうね。


さて、さらにモジャさんとセイライには、守護天使達から《加護》が与えられる事になった。

まぁ、モジャさんは《加護》を受ける前に泥棒と間違えてクルボアナクエルを叩きのめしちゃったし、弓の《神器》は使用者がいなかったから《加護》の与えようがなかったから、ということらしい。

「ごめんね、エアルちゃん!私も、もっと《加護》をあげたかったんだけど!」

エイジェステリアが私に抱きつこうとしながら(ウェネニーヴに止められたけど)、そんな事を言う。けれど、すでに三つも《加護》をもらっているんだから、これ以上はさすがに要らないと思うの。


「それでは、モジャよ。君に与える《加護》は、『無敵装甲(スーパーアーマー)』という」

「そして、セイライ。君には《加護》、『天から見下ろす眼(サテライトビュー)』を授けよう」

クルボアナクエルとイヨウテルミルから、モジャさん達に《加護》が与えられる。

うーん、いったいどんな能力なのかしら。

私は久しぶりに自分の持つ《加護》の一つ、『加護看破』を発動させて、二人の能力を調べてみる。


……なるほど、モジャさんの能力は「十分間だけ、あらゆる攻撃や魔法、状態異常を無効にして無敵になる」と言った物らしい。

組技が得意なモジャさんにぴったりだけど、本来なら槍の《神器》の能力と合わせて、すごい事になったんだろうな。モジャさん、槍を使えないけど。

そしてセイライの能力は、発動させると遥か上空から地上を見下ろすような視界が得られるとの事だった。

敵の位置情報が丸わかりになる上、長距離射撃が加われば鬼に金棒。これまた、恐ろしい能力だわ。


「……それでは、我々の役目は終わった。また天界に戻り、君達の活躍を期待するとしよう」

ふわりと宙に舞い上がりながら、天使達がゆっくりと天に昇っていく。

「勇者達と、ちゃんと和解してね」

エイジェステリアが手を振りながら、そう忠告してきたけど、こればかりは向こうの出方次第かなぁ。一応は、わかったと言ってはおくけど。

やがて、私達が見上げる中、天使達の姿は光に包まれて消えていった。

誰もが空を見上げ、シンと静まり返った世界樹の広場は、まるで皆で夢でも見ていたかのような、不思議な雰囲気に包まれている。

「……はぁ」

思わずため息を吐いた瞬間、突然けたたましい鐘の音が都中に鳴り響いた!

え、なに?ため息吐いたらマズかったの?


「いっだい、なにごどだ!?」

エルフ王が、警鐘の原因を報告させようとすると、ちょうど良く血相を変えた一人のエルフがこの広場に飛び込んで来た。

「た、大変です!ま、魔族による襲撃です!」

な、なんですって!

「大量のアンデッド達が森に侵入、この都を目指して進行してきています!」

その報告に、この場にいた全員がざわめいた。


            ◆


日の光が差し込み、心地よいはずの森の風景を蹂躙するかのように、暗黒のオーラを纏った死者の群れがゆっくりと進んでいく。

目指すのは、この先にあるというエルフの国の中心、世界樹の都。

そこに、標的である盾の《神器》使い一行がいるはず……そう確信している、この群れの主が含み笑いを漏らした。

その者こそ、魔界十将軍の一人、『壊護』のマシアラ。


骸骨に干からびた皮が張り付いただけといった、まさにアンデッドといった見た目にも関わらず、彼が笑みを浮かべていのが端から見ても良くわかる。

失われた眼球の代わりに宿った怪しい光が、彼の嬉しそうな感情を反映するかのように、ゆらゆらと揺れていた。


「グフフ……待っててくだされ、ウェネニーヴたん。今すぐ小生が会いに行きますぞ」

魔界将軍会議の席で、一目見た時から虜になった竜の少女の名をブツブツと呟きながら、マシアラは歩を進めていく。

そんな死者の主が発する魔力に触発されたのだろうか。土中からは次々と、半分腐った死体やら白骨化したスケルトンが沸き上がり、死の軍勢に加わっていく。

次々と数を増やしながら、死者の群れは確実にエルフの都へと近付きつつあった。

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