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逃走、盾役少女  作者: 善信
第三章 天使大降臨祭り
35/96

05 自由のための戦い

「ほいじゃ、この対戦は第三者である我々が、ジャッジさすてもらいっちい(もらいたい)んだげんじょ」

エルフ王の申し出に、天使達は頷く。特に異論はない私達も、素直に同意した。

「ただ、一つ……始める前に言っておく事がある」

「なんだべか?」

「いい加減に、その格好はやめないか?」

セクシー衣装のままで審判役をかって出たエルフの長老達に、さすがの天使達もツッコまずにはいられなかったようだ。

うーん、奉納の舞いに必要な格好だっていうから、てっきり天使の趣味かと思っていたけど、そういうわけではないのね。


「いや、美女がやってるならまだしも、おっさんがやってたらダメな格好だろう?」

私の内心が顔に出ていたのか、イヨウテルミルはげんなりした表情でもっともな事を言う。

ともかく、集中できないからと着替えてくる事を促すと、王様と長老達はしぶしぶ着替えのために席を外していった。

……っていうか、なんでしぶしぶなのよ。あの格好、実は気に入っていたのかしら……?


それから十分ほどして、着替えを終えた王様達が戻ってきた。

今度は、最初に会ったときのような威厳のある落ち着いた格好だ。

「これでいいでしょう(いがっぺ)。んだば、改めで我々が審判役を務めさせてもらうがんなし」

「うむ。まぁ、いいだろう」

「ええ、よろしくお願いします」

両者の同意を得られ、王様はうんうんと満足そうに頷く。

「そんではこれより、《神器》の守護天使ど《神器》使い達どの、一騎討ちの試合を始める!」

宣言と同時に、客席のエルフ達から大きな歓声があがった!


「んでは、初め(はずめ)の対戦は……盾の守護天使エイジェステリアど、盾の《神器》使いエアル!」

おおっと、いきなり私から!?……まぁ、いいわ。

心の準備は、すでにできているわ。私がこんな目に会っている、諸悪の根源である守護天使に、一発かましてやる!


「うふふ……安心してね、エアル。優しくしてあげるわ」

情欲のこもった顔付きで、私を舐めるように見るエイジェステリアは、天使といより淫魔に見えた。

ぐぬぬ……やっぱり、彼女もそっち系の人なのね。でも、私ってそんなに同姓から性的に見られる容姿をしてるんだろうか?だとしたら、ちょっとツラい。

なんにせよ、何をされるかわからないし絶対に負けたくないなと意気込んでいると、そんな彼女と私の間にスッ……と音もなくウェネニーヴが入り込んできた。

え、どうしたの?


「お姉さまに害のある者は、ワタクシが排除します!」

守護(まも)らねば……とウェネニーヴは呟く。いや、その気持ちは嬉しいけど……助っ人ってアリなの?

審判役のエルフ達の方に顔を向けると、何やら話し合っていた彼等から「×」のジェスチャーが出された。


「そこな娘よ。これは《神器》使いと、その守護天使が行う儀式でもあるのだ。第三者が手を出せば、ただちに反則負けとなるぞ」

エルフ達からよりも先にイヨウテルミル達から釘を刺され、ウェネニーヴは悔しそうに唸り声を漏らす。

うん、ありがとうウェネニーヴ。

私のためにって気持ちはありがたいわ。でも、ここは私が自分自身でケリをつけなきゃいけないの!


「頑張ってください、お姉さま。万が一、お姉さまの貞操がピンチの時には、エイジェステリア(アイツ)を殺してでも止めますから……」

こ、怖いこと言うなぁ。

本気なのか冗談なのか、ちょっとわかりかねる不穏な事を事を言って、心配そうにステージを下りるウェネニーヴを見送り、私はエイジェステリアに向き直る。

それを戦闘準備が整ったと判断したのか、エルフ王がバッと手を掲げた。

「んでは、試合開始!」

振り下ろされた手を合図に、観客から期待の声が沸き上がった!


「速攻で決めてあげるわ!」

宣言と同時に、エイジェステリアの羽が大きく開いて、炎のような魔力が噴き出してくる!

「こ、これは……」

ステージ下のウェネニーヴの呟きが耳に届き、私は内心でちょっと焦っていた。

あのウェネニーヴが……竜である彼女が言葉につまるほど、エイジェステリアの魔力はすさまじいって事なの!?

いや、なんとなくすごいなーっていうのは分かるのよ?

だけど、それがどうすごいのか、いまいち戦闘の素人に近い私では測りかねるのだ。

でも、ウェネニーヴの反応からして、まともにこの攻撃を食らったらダメって事は感じられたわ。


「……万が一、死んだら私が天界で可愛がってあげるから、心配しないでね」

って、おいっ!殺す気なの!?優しくするとか言ってたくせに!

ウィンクされながらそんな事を言われても、普通は心配するわよ!

なんにしても、エイジェステリアが本気で繰り出す最大級の攻撃をかわすことなんて出来ないだろう。だったら、受け止めるしかないっ!

覚悟を決めた私は、《神器》を構えて、彼女の攻撃に耐える姿勢をとった。

「最大加重……」

盾の《神器》の、重さを変える能力を最大に駆使して、私は来るであろう衝撃にそなえる。

よーし、いつでも来いやぁ!(できれば来ないで!)


「必殺!天使彗星拳!」

次の瞬間、エイジェステリアが光を纏って突っ込んで来るのが、辛うじてみえた!だけど、体が反応するよりも速く彼女の攻撃は私に迫る!

「っ!!!!」

構えた盾に、殺しきれなかった衝撃が伝わってきて、私はなんとかその場に踏ん張るのが精一杯!

そして、フワリと抵抗が無くなったと同時に、横に移動して次の攻撃に備えようとした。だが!


(……エイジェステリアがいない!?)

追い討ちしてくるであろう守護天使に備えたつもりだったけど追撃は無く、彼女の姿も私は完全に見失っていた。

(どこにっ!?)

今この瞬間にも襲われそうで、慌ててエイジェステリアの姿を探す!そんな私に、ステージ下から叫ぶウェネニーヴの声が届いた。

「お姉さま、下です!」

下?下って……攻撃が来るって事っ!?

どうりで姿が見えない訳だわ、まさか天使が地を這うような攻撃をしてくるなんて想像もしてなかった!

間に合うかどうかはわからないけど、私は慌てて盾を下段に向けた!……って、あれ?

下方から迫る攻撃を想像していた私の目に、まったく想定外な光景が飛び込んでくる。

それは大きなコブを作り、目を回して倒れ伏すエイジェステリアの姿だった。

……ああ、さっきの突進技で、盾に真正面からぶつかって頭部を強打、それで気絶したと……って、それじゃあ完全に自爆じゃないのっ!


『それまでっ!勝者、エアル!』

風魔法にのせた王様の声が、私の勝利を会場全体に伝える。

ええ……いいのかな、これ。

いまいちしっくりこない物を胸に抱えつつ、私は客席へと手を振ってみた。が、やはり観客も不完全燃焼だったのか、反応は思わしくない。

いや、別に興行やってる訳じゃないから、反応が悪くてもいいんだけどね。


「お姉さま、ご無事で何よりです!」

ステージから下りると、ウェネニーヴが抱きついてくる。

いやー、訳のわからないけど内に勝ってしまったけど、怪我もなく《神器》とお別れできるし、結果オーライよね。

ウェネニーヴを宥めながらそんな事を考えていると、次の試合をするモジャさんがステージ上にあがっていく。

対戦相手はもちろん、槍の《神器》の守護天使、クルボアナクエル。

でも、槍を使えないモジャさんは、どうやってかの守護天使と戦うつもりなのかしら……。


『始めえぇ!』

開始の合図と同時に、槍を投げ出して駆け出したモジャさんとクルボアナクエルの両者が、ステージ中央でぶつかり合う!

そのまま激しい打撃戦になったかと思えば、流れるようにテクニカルな寝技の応酬へと変化を遂げる。

目まぐるしく変わる状況に、観客のエルフ達からは興奮したエールが送られていた。

その一進一退の攻防は三十分ほど続けられていたのだけれど……


「これが『プロレ・スリング』三大奥義の一つ!究極の(アルティメット)極め技(・スパーク)じゃーい!」


モジャさんは相手を上空で締め上げてダメージを与え、複雑な形で捕らえながら落下してステージに叩きつける!

すさまじい衝撃が響き、クルボアナクエルが苦しげな声を漏らしながらマットに沈む。と同時に、モジャさんの勝利と試合終了を告げるゴングがけたたましく鳴り響いた!

失神したクルボアナクエルから離れ、観客の歓声に手を振って答えるモジャさん。

でも、そろそろ誰かツッコんでほしい。

槍の《神器》、まったく使ってないじゃないか、と。

そして、槍がまだ放置されたまんまじゃないか、と。


最後に残った弓の《神器》の守護天使、イヨウテルミルと、真の《神器》使いとなって汚名を返上しようとする、セイライとの一戦。この試合は、モジャさんとは違う意味で盛り上がった。

イヨウテルミルから放たれる無数の魔力球を、セイライが次々と射落としていくという、一見するとみごとな大道芸わ思わせる。

でも、あらゆる方向、あらゆる角度から緩急をつけて襲いかかる天使の魔力球を、一つ残らず正確に落としていくセイライの腕前は、さすがエルフの国一番の射手だと納得せざるを得ない。


「……認めよう、君の勝ちだ」

数百の魔力球を落とされ、イヨウテルミルはそう言葉を発した。

「ふぅ……」

相手の降参の言葉に一息ついたセイライだけど、彼の体には一発たりとも被弾していない。

いや、これはすごいなんてもんじゃないわ。彼が早々に魔界十将軍から離脱してくれたのは、行幸だったかもしれないわね。


『これにて、すべての試合を終了する。見事に守護天使達に勝利した《神器》使いの彼等に、盛大な拍手を!』

試合が終わり、ステージ上の私達の健闘を讃える拍手が沸き上がってくる。

盛り上がる試合をしたモジャさんとセイライに比べ、私には若干「しょっぱい試合しやがって」みたいな、否定的な意見もあったけど、内容からするとそう言われても仕方ないわ。


ああ……でも、今はそんな事どうでもいい。

これで、ようやく私が旅立つ原因となった《神器》とお別れできるのだ。

やっぱり、私みたいな普通の女の子には、穏やかな日常が似合ってるってものよ。

まぁ、振り返れば楽しかったような気もするし、ここは美しい思い出って事にしておきましょう。


──そんな風に浮かれていた私は、この時はまだ何も気付いていなかった。

私達のいるこのエルフの国に向かって、ドス黒い邪悪な存在が迫って来ていたという事を……。

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