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25話 迷惑な手紙と贈り物

 


「――お話中失礼致します」


 会話途中、アイナクラ公爵家に仕える侍女が頭を下げながら、私達に声をかけた。


「ユウナ様、お手紙と贈り物がシャイナクル侯爵令息であるルキ様から届いております」


 げっ、またか……噂をすればなんとやらですね。


「いつものように送り返して」


「お手紙もですか?」


「ええ、どうせいつも似たようなことしか書かれていないもの」


「承知しました」


 私の返答を聞くと、優秀なアイナクラ公爵家の侍女は、持って来た手紙と贈り物をそのまま持ち帰った。


「とりあえず、ルキがユウナを狙っているのは分かるよ」


「本当に迷惑なんですけどね」


 メルトでの一件以降、ルキ様からは定期的に手紙や贈り物が届くようになった。正直、大変迷惑している。


 まだ既婚者であることを考慮してか、直接的なデートのお誘いでは無く、今までの非礼を詫びるために、何かご馳走したいだの、贈り物を渡したいだの、一緒に宴に参加したいだの、意味不明な誘いをしてくるから、『婚約破棄した相手とお出掛けしたくありません。顔も見たくありません。贈り物も受け取る間柄では無いので送って来ないで下さい、迷惑です』と返信したが、それでも届く手紙に贈り物。

 恐怖だよ最早。てか執拗い!

 今まであれだけ邪険に扱っていた相手に、よくこんな手のひら返し出来るなと軽蔑しています。


「……ユウナは、本当にルキが好きじゃない?」


「そうですね、大嫌いですね」


 どうしてそんなことを聞かれます? 私、少しでもルキ様に好意的な態度を取ったでしょうか? 過去、私を選んでくれた婚約者だと思って、関係を良好に保とうと努力したことはありましたが、今となっては心から無駄な時間だったと思っています。


「なら良かった」


「……」


 なら良かった? それはどういう意味? それは、私が誰を好きかを気になっているということ――?

 駄目だ、深読みしてしまう。レイン様が、少しでも私に気があるんじゃないか。なんて、有り得ない妄想。


「ユウナ、今度行われる《ファイナブル帝国の聖女を祝う宴》については聞いた?」


「はい、陛下から聞きました」


 《ファイナブル帝国の聖女を祝う宴》

 それは即ち、私を祝うために開かれる、皇室主催の宴のこと――

 そんなもの開かなくていいと言ってみたけど、歴代聖女が現れた時には必ずしている催しだと言われた。


「無理に出席しなくても良いとは言って下さったんですが、陛下にはお世話になっていますし……ファイナブル帝国の聖女として出席することにしました」


 目立つことが苦手な私を考慮して、出席せずとも、名前だけは貸して宴を開かせて欲しいと言われた。

 確かに苦手ですが……皇室主催で私を祝ってくれているのに、その主役が出ないとか、私には出来ない!


「そう、なら、僕がユウナのパートナー役を務めてもいい?」


「っ!」


 未婚の男女の場合は社交会に出会いを求めるが、既婚や決められた相手がいる場合、パートナーを連れ添って入場することで、自分にはもう相手がいると示すことになる。


 レイン様がパートナー……!? 恐れ多い……! そもそも、私なんかがレイン様のパートナーになったら、レイン様のお邪魔になるのでは……? レイン様なら引く手数多でしょうし、私ではつり合いが……! そもそも、レイン様ほどの人なら相手の一人や二人いてもおかしくない。


「レ、レイン様は私がパートナーでいいんですか? 婚約者などは……」

「いないよ」

「レイン様の出会いを奪ってしまうことにはなりませんか?」

「大丈夫、僕に新しい出会いは必要ないから」


 ど、どういう意味?


「ユウナにはパートナーが必要だと思うよ。それこそ、ルキが君にしつこく付きまとう可能性が高いし」


「あ……」


 皇室主催の宴には、それこそ全ての貴族が招かれる。その中には、シャイナクル侯爵令息であるルキ様も、当然含まれる。


 そんな公の場でしつこく迫られたら確かに困る。てか迷惑。


「……お言葉に甘えてもいいんですか?」

「勿論」


 それなら……甘えさせてもらおうかな。

 アイナクラ公爵令息であるレイン様と一緒なら、ルキ様も余計なちょっかいはかけられないでしょうし。安全な気がする。


「では……その、よろしくお願いしますレイン様」


「こちらこそ」



誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。

いいね、ブックマーク、評価、読んで下さる皆様、ありがとうございます。

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