Infi-12 決戦へ向けて
「よーし、とりあえず状況を整理するぞ」
なんだか久々に攻め込んだ当初のメンバー全員+@が揃ったところで、羽黒が注目させるように手を叩きながらそう言った。
「必要ないだろ。時間の無駄だ」
疾が即座に切って捨てた。確かに敵陣のド真ん中で悠長に話し合いをしている暇はない。だが、王宮に到着したばかりのウロボロスにはそれでは困る。
「あぁ? あたしらは今来たばかりなんですよ! 今北産業なんですよ! だから三行で説明しやがれ龍殺し!」
「俺たちは敵の本陣に攻め込んだ。
BL本が暴れて面倒だった。
お前らが飛んできた。
なんやかんやでいよいよラスボスへ」
「三行つってんでしょうが!」
それでもいろいろはしょり過ぎの説明だったが、本作戦が大詰めに近づいてきたことだけはわかった。
「てめえと瑠依は今すぐ消してやりたいところだが、今は用事を済ます方を優先してやる」
疾が物凄い形相でウロボロスと瑠依を睨む。殺意がオーラとなって可視化しているような姿をこの場の誰もが幻視した。
「疾がかつてないくらいブチ切れてる帰りたい!?」
「なんでですかー? あたし別に悪いことしてませんよー?」
「煽るなウロボロス!?」
大枚叩いてでも喧嘩を買うスタイルのウロボロスを竜胆が諌めつつ、片手で逃げようとしている瑠依の襟首を掴んで引き留める。そんな緊張感の欠片もない様子にドラゴン・ゾンビが「アハハ、ウケる!」と爆笑していた。
「ほ、本当にドラゴン・ゾンビを仲間にしたんですわね」
白羽が戸惑った様子で腹を抱えてやかましく笑うドラゴン・ゾンビを見る。説明はされていたようだが、実物と出会うのはこれが初めてだからだろう。
仮とはいえ鬼狩りがアンデッドと契約したのだ。戸惑うのも無理はない。
「その辺含めて、お互い情報の齟齬がないよう一から整理する必要がある。討ち漏らした敵の確認と、これ以上、味方同士で足を引っ張らねえためにもな」
***
アスク・ラピウスは王宮の玉座に腰を下ろし、悪くなる一方でしかない戦況に苛立ちを募らせていた。
「奴らが規格外なことはわかっていたが、まさかここまで追い詰められるとはな」
魔法士の青年から聞いていた情報に偽りはなかった。それ相応の戦力をぶつけたつもりだった。だが、それでも敵はアスク・ラピウスを上回ってきたのだから、見積が甘かったとしか言いようがない。
特に予測不能だったのは呪術を使う少年である。ドラゴン・ゾンビが相手をしているかと思えば、まさか仮契約状態になって裏切っているとは。
契約は先程こちらから切った。
よって仮契約状態でしかないドラゴン・ゾンビにはもはや魔力は供給されない。ただ腐り落ちてもドラゴン族であるため、しばらくは問題なく活動できてしまうところは悩ましいが。
と、アスク・ラピウスの眼前に四つの魔法陣が出現した。そこからペプレド、エニュオ、ディノのグライアイ三人と、魔法士のワイトが転移してくる。
「戻ったか」
アスク・ラピウスが声をかけると、膝まづいたグライアイ三人の内、ペプレドが代表して顔を上げた。
「グライアイ三名、およびワイト一名、ただいま帰還しました。敗走につき、謝罪の言葉もありません」
「よい。お前たちにはまだ役に立ってもらう」
とはいえ、見るからに満身創痍の彼女たちを再び戦場に繰り出しても結果は知れている。
幹部クラスのアンデッドも二体が消滅し、一体が裏切り、最後の一体はグライアイたちよりも徹底的に壊されている状態だ。普通に考えればアスク・ラピウスに勝ち目はない。
だが、まだ切っていない切り札があれば話は別だ。
「〝ペルシス〟を使う」
「「「――!?」」」
アスク・ラピウスが告げると、グライアイたちは緊張した面持ちに変わった。
「魔法士のワイトも〝ペルシス〟へと組み込む。その核を取り込むことで、より強力になるはずだ」
そこまでする必要はないかもしれないが、これまで敵はアスク・ラピウスの策を悉く打ち破ってきた。もはや油断はない。それに壊れかけのワイトの有効活用としては最適だろう。
「覚悟はよいな?」
「ラピウス様の御心のままに」
「アハ」
「無問題」
グライアイたちが立ち上がる。彼女たちは手を繋ぎ、魔法士のワイトを囲んで輪を作った。
「奴らはすぐこの場所へ辿り着く。始めるぞ」
アスク・ラピウスが杖の尻で床を小突く。
巨大な魔法陣がグライアイたちを中心に、玉座の間いっぱいに広がった。
***
王宮外周部。
天明朔夜は周辺のゾンビが王宮へ雪崩れ込まないように処理していた。
そこへ一羽の折り鶴が飛んでくる。
葛木修吾の式神だ。
『やあ、朔夜君。首尾はどうだい?』
折り鶴が淡く明滅し、修吾の声が聞こえてきた。
「正直人手が足りないな。ただの一般人がゾンビの群れを処理するのは骨が折れる」
『ハハハ、それは重労働をさせてしまってすまない。報酬は弾むよ』
『それより『ただの一般人』についてツッコミを入れなくていいんですか?』
同じ折り鶴から女性の声が遠く聞こえた。あの女魔術師も近くにいるのだろう。
「ところで、君は感じているかい? 嫌な魔力が一気に膨れ上がったのを」
「オレらは魔力を感知できないが……そうだな、臭ぇ匂いはするな」
朔夜は王宮を見やる。その奥に、ただのアンデッドや幹部級とも違う異質で強大ななにかが現れた。それは間違いない。
「言っておくが、このクラスのアンデッドの暗殺は不可能だ。オレが斬っても殺せねえからな」
『わかっているよ。でも彼らの力にはなれるはずだ。行ってくれるかい?』
「狼使いが荒いな」
『ハハハ、そう言わないでさ。決定打にはなれなくても、戦力は少しでも多い方がいい』
爽やかに笑っている修吾だが、どうもそこに余裕があるとは思えなかった。
『だから場合によっては、僕たちも乗り込む必要があるかもしれないね』




