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無黒語  作者: 吾桜紫苑&山大&夙多史
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Cent-08 呪術×呪詛

 亜音速で飛来してきたその物体は、当然のように瑠依を巻き込みながら地面に衝突し、周囲にド派手な砂埃を巻き上げた。

「へぶぁあっ!?」

「なんだ!?」

 羽黒の後ろをえっちらおっちら追いかけてきていた瑠依の突然の悲鳴に振り向くと、砂埃の奥に人影が一つ増えている。

 衝撃で崩れてきた瓦礫に首から上が埋まりながらも何故か生きている瑠依はどうでもいいとして、どういうバランス感覚なのか、その腹に斜め四十五度の角度で頭から突き刺さるように直立姿勢でめり込んでいる少女の方は見覚えがない。

 朽ちかけの黒衣に闇色の髪、骨のみの翼を背中に生やした血色の悪い少女はしばし呻いた後、突如何かを思い出したかのように声高らかに爆笑し始めた。

「アハハ、超ウケる! 翼あるのにブン投げられちゃったゾ! ビックリしすぎて心臓止まるかと思った、もう止まってるけど!」

 アハハ! と再び爆笑する。瑠依に突き刺さったまま。

「……何だこいつ」

 いや、正体については大よそ見当はつく。全身からあふれるアンデット特有の負のオーラと、それを差し引いてもなお隠し切れないドラゴン族特有の臭い――十中八九間違いなく、ドラゴンゾンビである。人化できるほど高位の個体には出くわしたことはなかったが、その種そのものとは何度か戦ったことがある。戦いというか、一方的な殺戮という方が正しいが。

 前情報にはなかったため、恐らくは敵側の切り札の一体と考えるのが順当なのだろうが――

「アハハ! ふ、ふひっ! アハハハハ!!」

 この緊張感のない笑い声はなんなのだろう。先ほどのギュルヴィ腐書といい、アスク・ラピウスは際物でも集める趣味があるのだろうか。

 とりあえず、いい加減耳障りになってきたため、黙らせる意味を兼ねて話を聞くためにドラゴンゾンビを瑠依から引っこ抜いた。

「オウ? 宙ぶらりん? アハハハハ!」

 再びの爆笑。羽黒は早くもこいつを黙らせるのは難しいかもしれないと諦める。こいつどんだけ笑いのツボが浅いんだ。

「……ん?」

 と、直にドラゴンゾンビに触れ、羽黒は違和感に気付く。こいつ、本当にアスク・ラピウスの配下――契約幻獣か?

「おら、てめぇも起きろ、寝てんじゃねえ」

「へぶっ!? ……はっ、なに!?」

 目を回していた瑠依を軽く蹴り、叩き起こす。またぞろ呪術が制御を離れてフラフラ出歩かれては困る。

 瓦礫の下からはい出てきた瑠依は周囲を見渡し、羽黒がぶらんと少女の足を持って宙吊りにしているのを見て引き攣った顔を浮かべる。

「えっと、そちら様は……?」

「知らん。お前の腹に突き刺さってた」

「嘘つけ!?」

「今回ばかりは嘘じゃあねんだがな……」

 と、ドラゴンゾンビが妙に静かだと気付く。今こそ爆笑の瞬間だろうと思いながら、やはりアンデットの笑いのツボは意味不明だと諦めながら様子を窺う。

「……ア……ハハ……」

 ドラゴンゾンビは、先程までの鬱陶しいほど屈託のない爆笑を引っ込め、乾いて引き攣った笑みを顔面に張り付け、小刻みに震えていた。アンデットのくせに、目元に涙まで浮かべている。

 まるで力ない幼子が猛獣の前に放り出されたかのような反応である。そんな少女の足をつかんで宙吊りにする羽黒は、瑠依の目から見るとさぞや極悪人に映るだろう。

「な、なんだ、どうしたお前」

 さすがの羽黒も意味が分からず、とりあえずドラゴンゾンビを地面に下す。するとドラゴンゾンビは怯えた子ウサギのように震えながら、何故か瑠依の背後へと隠れた。

「羽黒さん……」

「ちげえ! 俺は何もしてない!」

「じゃあ何でこんなに怯えてんですかこの子!」

「知るか! そもそもドラゴンゾンビが何かに怯えるってことが意味不明――」


☆氏名:瀧宮羽黒

☆職業:龍殺し(ドラゴンスレイヤー)


「あー……」

「え、ドラゴンゾンビ!? なにそれ格好いい! RPGの中ボスで出てくるやつ! 物理攻撃がほとんど効かなくて厄介なんだよなー。炎属性の魔法か、アンデット特攻の武器を用意しないといけないから」

「そ、そうだ! そんなやべえ奴がただの人間の術者にビビるなんて――」


 ☆人物相関図☆

   瀧宮羽黒

  服従↑↓支配

 魔王級吸血鬼の残滓


「……畜生、否定する要素がなくなった!」

 しかもよりにもよって、先ほどのやり取りで羽黒の体にはたっぷりとアレの残り香が染みついている。高位だろうが何だろうが、ドラゴンゾンビが尻尾を巻いて逃げる要素しかない。

「ひぃっ!?」

「あー、よしよし、落ちつけ。怖くない怖くなーい」

 羽黒のセルフツッコミの声量にさらに震えるドラゴンゾンビ。もはや最初の鬱陶しい爆笑もなりを潜め、どこに出しても恥ずかしくない小動物系女子である。本来は幻獣界の生態系でもかなり上位に君するかなり強大な力を秘めた存在なのだが、今や瑠依にすら頭を撫でられている。

「……アハ☆」

 それに気を良くしたのかドラゴンゾンビは涙目を細め、にぱっと八重歯をのぞかせながら笑みを浮かべた。

「んん……?」

 これにはいい加減、羽黒の中の違和感も無視できない。アンデットとは言え、ドラゴン族が契約者以外の人間(ゴミ)相手に頭を撫でられ、リラックスしている? 物理的に腐っていても、ドラゴンゾンビはプライド高いドラゴン族。支配は受けても服従はしないというスタンスをとる個体すらいるというのに、なんだこいつは。どこぞのクソ蛇・腐れ火竜・色欲蛇の三馬鹿を見習った方が良い。

 ……いや、いくら自身の属性に突き刺さる天敵を目の前にして動転しているとはいえ、様子がおかしい。

 改めて、羽黒は瑠依に頭を撫でられてニッコニコご機嫌なドラゴンゾンビの観察をする。

 そして、すぐに気付いた。

「おいおいマジかよ……」

 頭が痛い。

 疾と竜胆はよくもこんなバグを常に発生させ続けている奴と行動できるな、と今更ながらに世界の不具合(いまき)の脅威に背筋を冷やした。

「おい、瑠依君や」

「はい?」

「ちょっとお前、そのドラゴンゾンビの魔力リンクを辿ってみろ」

「ほえ? 魔力リンク?」

「……お前とあのワンコ――竜胆を繋いでる魔力の紐みたいなやつだ」

「えー、俺そんな高等技術できないっすよ」

「…………じゃあお前から出てる魔力の紐数えてみろ。今、何本ある」

「そんなの、竜胆との一本だけですよ」

「確認しろっつってんだ」

 どこまでもマイペースな瑠依に苛立ちながらも、我慢強く自分で気づくように促す羽黒。睨まれ、ようやく「えーと、魔力の紐ねえ……」とのんびりと集中し始める瑠依。そしてしばらく目を瞑ったあたりで、「あれ?」と首を傾げた。

「なんか、二本あるんスけど……」

「一本は竜胆として、もう一本はどこにつながってる?」

「えーと……」

 流石に察しの悪い瑠依でも嫌な予感を覚え始めたのか、目を泳がせている。そして何度か確かめるように自分の魔力の伸びる先を手繰り、いやいやと頭を振る。

 それを何度も繰り返し、いい加減スルーしきれなくなったのか、瑠依は引き攣った顔で羽黒を見ながら、震える手で指し示した。


「お? お? どうした()()()()()? ウチの顔になんかついてる? アハハ! 何その顔超ウケる!」


 ――目の前の、ドラゴンゾンビを。



          * * *



 術式の構築を阻害していた鬱陶しい耳鳴りがだいぶん治まり、白羽たちは再び自由に動き回れるようになっていた。が、ジャミングにより動きを阻害されていた時に返り血を避けることも煩わしくなり、全身真っ赤に染まりながら白刃を振るっていた白羽は、一瞬だけ手を止めた。

「ん……? 今、牛乳を吸った臭い雑巾を引き裂くような醜い悲鳴が聞こえませんでした?」

「えー? 何か聞こえたー?」

 白羽と同じく双刃を振るい続けていたフージュ――こちらはどういう理窟か、返り血一つもらっていない――は、手を止めずに聞き返す。

「いえ、気のせいであれば全然いいのですが」

 再び太刀を握る手に力を籠め、目の前に迫ってきていた大鉈を持ち主ごと細切れにする。

「アッハハハハハハハ!!」

 細切れにされた肉片の背後から、別のエニュオが突撃してくる。それを今度はいなし、そっ首を跳ね飛ばす。

 肉片も、離れ離れになった首と胴体も、そこから再生することなく地面に転がる。

 正確には、地面と思しきものに散らばった。

「ふう、いい感じに押し切れそうですわね」

 二人の足元は、まさに地獄そのものと化していた。

 血の池地獄に大小様々な肉塊と骨片を散りばめ、ぐちゃぐちゃに踏み荒らした赤い平原――これが、全てエニュオ一人から生まれたものだとは、この光景を作り出した一人である白羽からしてもさすがにぞっとする。

「シラツユちゃんのいうとおりに斬ったらうまくいったね!」

 天真爛漫に、さらに五人のエニュオを切り刻みながらフージュは笑う。よく見れば、飛び散った鮮血はフージュに届く前に消滅していた。どうなってんだ、アレ。

「まあ、これだけ斬り刻めば嫌でも慣れますわよ……」

 最初に気付いたのは白羽の方だった。当然というかなんというか、フージュは終始一貫して目の前の敵を斬り刻むことしかしていなかったため気付いていなかったようだが、戦い続けてしばらく経った頃、襲い掛かる大量のエニュオの中に極稀に体の部位が欠損している個体が現れ始めた。再生途中の個体なのだろうかと考え、白羽も普通になぎ倒していたのだが、その不完全個体が徐々にではあるが増え始めた。

 最初は魔力切れによる不完全な再生かと考えたが、それにしては相も変わらず敵の勢いは衰えるどころか斬れば斬るほど増えていく。では原因は何なのかと頭の片隅に置きながら斬り続け、試行回数を重ねること三桁も後半に差し掛かった頃、ようやく気付けた。

『フージュさん! こいつら、寸分たがわず同じ個所を斬れば再生しませんわ!』

 斬り落とした首が再生した個体を、全く同じ箇所で斬りつけてみたところ、再生できずに鮮血を撒き散らしながら地面に伏して力尽きた。さらに斬り飛ばした首から再生した個体でも試したところ、こちらも再生できずに力尽きた。


 理屈としては、エニュオの全身を満たすように貯蓄されている《複製》の特性を持つ魔力は、切断面から外気に触れるとその特性が発動する仕組みになっていた。そのため、仮に両断されるとそれぞれの傷口から失われた肉体が再生され、二人のエニュオが誕生するという事態となる。

 無論、全くの無制限にプラナリアよろしく分裂し続けるわけではない。

 本来、グライアイに《複製》の特性はない。アスク・ラピウスが研究の副産物として得た力をエニュオに植え付けた特殊な力である。それ故に、一度再生の起点となった部位の近辺に再び《複製》の魔力が溜まるまで、結構な時間を有するのだ。

 そのために全く同じ箇所を斬られると複製できなくなり、普通に死滅する。

 ……これがもし、二人の保護者である黒い二人、もしくは疾がエニュオと対峙していれば、最初の二度か三度の分裂を確認した段階でカラクリに気付けただろう単純なものだ。

 それを二人で合わせると試行四桁以上繰り返し、観光地としての島の最大人口を凌駕する人数のエニュオを生み出してようやく対処方法に辿り着けたというのは、さすがに経験と思慮の浅さを指摘されても何も言い返せない。


 とは言え。


 辿り着いてしまえば、二人はその道の専門家である。

 必要最低限の太刀筋で二度そっ首を跳ね飛ばすことなど造作もなく、慣れてくればエニュオの体内の魔力のムラを見出し、それに沿って刃を這わせることも造作もない。

「フージュさん! そっちの奴、左あばらの一番下辺りから真横に一文字ですわ!」

「はーい! あ、シラツユちゃん、脳天から縦に真っ二つでおねがいねー」

 かくして、悪夢のような不死者の島に、地獄そのものをたった二人で築き上げるに至ったのだった。

 一時は視界を埋め尽くすエニュオで溢れ返っていた街の一角も、徐々にではあるがその数が減ってきた。エニュオの群れは変わらず、大鉈を振り回しながら愚直に白羽とフージュに襲い掛かってくる。


 ――戦場を見下ろせる小高い家屋の屋根の上で、一人のエニュオが目隠しの下に冷徹な光を瞳に宿しながら観察していたのに、二人は気付いていなかった。


「…………」

 無言のまま二人を見下ろしていたエニュオはおもむろに大鉈を自身の左腕にあてがい、細切れにする。

 屋根の上に飛び散る肉片――その一つ一つからじわじわと肉体が複製され、あっという間に新たに30人近いエニュオが生まれた。

「…………」

「…………」

「…………」

 彼女たちは無言で頷き合うと、現在白羽とフージュを相手にしているエニュオたちとは明らかに違う動きで二人の周囲に散らばる。それを見届けたエニュオは、ひっそりと大聖堂の本陣へつながる転移陣を通って姿を消した。



          * * *



「あだだだだだだっ!?」

「暴れんなクソが!!」

「アヒャヒャヒャヒャ! ゴシュジン何その顔チョーウケるんだけど! ぷひゅひゅひゃ! ……うぇっほ、っほい! 笑いすぎて咽たわ。……死んでんのに咽るってドユコト? マジウケんだけど☆」

「てめぇもうっぜえなクソドビー! 黙ってろや!」

「あががががががががががっ!?」

「ドビーってウチのこと? ドラゴンゾンビで、ドビー? あひゃー☆ 超ウケる! アハハハハ! 名前もらうのなんて生まれて初めてだわ! 死んでるけどね!」

「うるせえ!」

 白羽とフージュの戦場とは別の意味で、羽黒たちもある意味地獄絵図と化していた。

 瑠依自身だけでなく羽黒も何度も確認を重ねた結果、瑠依とドラゴンゾンビ――ドビーの現状が明らかになった。

 強いて言うならば『仮契約』状態である。

 ウロボロスとその主人が二人で《環》を作って契約したように、羽黒が白銀もみじと名乗る前の吸血鬼を屈服させて契約状態にさせたように、瑠依と竜胆がやや強引ではあったものの正規の手段で契約を結んだように、広義的に「幻獣」と呼ばれる存在と人間が協力関係を築く際にはそれぞれ相応の手順と魔力が必要となる。

 本来、自身が保有する魔力量が0であるはずのリッチのアスク・ラピウスが複数の駒と契約状態を維持できるのは、魔力の供給ではなく《呪詛》による隷属化によるものである。

 しかしドラゴンゾンビと契約を結ぶ際に必要な手順は、《呪詛》の交換である。つまり魔力がないアスク・ラピウスでも正規の手段でドラゴンゾンビとは契約状態を維持することができ、そのリンクは簡単に切れることがない。

「なのに何でこんな簡単に契約切れてんだクソが!」

「えー、ウチに言われてもどうしようもないしー?」

「てめぇに言わなきゃ誰に言えってんだ!」

「ラピウス様かな? 言えるもんならね! アハハ!」

 原因はまあ、大方の予想通り瑠依にあった。ドビーと衝突した衝撃で一瞬だが気を失い、制御を離れた呪術が垂れ流し状態となった。そしてドビーの端から制御する気のない常時垂れ流しの《呪詛》がお互いに流れ込み、契約に酷似した状態に陥っていた。

 ドビーとアスク・ラピウスの間にあったはずのリンクが綺麗さっぱり吹き飛んでいたのは謎。羽黒は早々に理屈を突き詰めるのは諦めた。本当にもう意味が分からない。

「ぎゃあああああああああああっ!!」

「うるせえってんだ阿呆!」

 とりあえず、このわけのわからない仮契約状態を何とかしようと試みているのだが、むやみやたらに器用な羽黒をして上手くいかない。瑠依の呪術とドビーの《呪詛》が釣り糸のように絡み合っていて全く解ける気配がない。しかもどんな呪いが込められているのか当人すら皆目見当もつかないため、無理に解呪するのも危険すぎる。本人だけでなく、周囲にどれほどの被害が出るか予想もできない。

 加えて、呪いによるリンクに羽黒が触れると瑠依には強烈痛みが奔るらしく、悲鳴が絶えない。羽黒自身も強めの電気風呂に手を突っ込んだような絶妙な痛みが絶えず流れるため鬱陶しくて作業が進まない。ドビーは特に反応がないため知らない。痛覚がないのかもしれない。

「つーか、てめぇは何呑気に眺めてんだ」

「テメェじゃなくってドビーって呼んでちょ☆ ウチ結構気に入ったわ。アハハ!」

 現状、瑠依という負担が大きすぎるうえ、うっかり退治してどんな影響が出るか分からないため下手に触れれない羽黒を「大した害意なし」と判断したらしいドビーは、元の鬱陶しい性格に戻って爆笑しながら二人を眺めていた。

「いやー、ウチ、元々『楽しそうだから』ってリユーでラピウス様と契約してたからさー。別にチューセーシン? とかそういうのないんだゾ☆ 今んとこ、新しいゴシュジンの方が面白そうだからしばらくはこのままでいいかなって。アハハ! ウチマジ薄情チョーウケる!」

「はーん。んじゃ、俺らの味方でもしてくれんの?」

「えーどうしよっかなー。アハハ!」

 瓦礫の上に寝転がり、ゴロゴロと転がるドビー。とりあえず興味の対象は瑠依に向いているらしく、今のところ敵意も感じない。

『楽しそうな方に着く』というスタンスの奴は、普通は作戦に組み込みにくい。興味が失せた瞬間に裏切る可能性が高いからだ。しかし相手がドラゴンゾンビである以上、羽黒からすれば障子紙程度の障害にしかならない。その上、興味の対象は『世界の不具合』である。

「……ふむ」

 羽黒はリンクをいたずらに弄くり回しながらしばし思考する。敵陣に甚大な混乱をバラ撒くにはうってつけの手駒ではないか?

「ぎゃあああああああああ痛い痛い痛い!?」

 瑠依の悲鳴が木霊する中、羽黒は軽薄な笑みを浮かべてドビーに向き直る。

「なあ、ドビーや」

「なんだよ龍殺しのおっちゃん」

「お前さん、もっと面白いモン見たくないか?」

「えっ、なんだヨなんだヨ☆ アハハ!」

 まだ何も言っていないのに既に乗り気なようで、ドビーは前屈みになって羽黒の言葉に耳を傾ける。


「お前ちょっとコイツを大聖堂の上に落としてこい。とんでもなく面白いモンが見れるぞ」

「……!☆」


 白く濁った瞳孔を輝かせながら、ドビーは満面の笑みを浮かべた。


「あんぎゃああああああえあっ!?」


 瑠依は自分の悲鳴で何も聞こえていなかった。

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