Noir-06 ワンコとヘビと所により敵襲
「オラオラオラァッ!」
ウロボロスはあくどい笑みを浮かべて、襲いかかるゾンビ達を片っ端から素手でぶっ飛ばしていた。
「こんなんであたしの足を止められると思ったら大間違いですよっ!」
100を超える魔力弾を一瞬で作り上げ、周囲へと無差別にぶちまくウロボロス。一応、後からワンコとあのクソムカツク男がやってくる方向にもぶん投げておいた。巻き込まれたらそれこそザマア(笑)である。
これまでウロボロスの魔力に当てられて一定の距離を置いていたゾンビだったが、流石に主要な建物に近寄ろうとすれば話は別らしい。本能を上回る命令が、ウロボロスへと勝てるはずのない特攻を仕掛けさせていた。
有象無象とは言え数が数だ、ウロボロスの足止めを目的としているのだろうが──
「無限相手にたかだか100や200で足止めしようってのがおこがましいんですよっ!」
光り輝く魔力弾が雨あられと降り注ぎ、ゾンビを片っ端から消し飛ばす。焼け野原と化した瓦礫後を飛び去っていくウロボロスは、殆どその飛行速度を落とさぬまま博物館へと向かっていた。
龍殺し野郎の指示に従うのは業腹だが、さっさと片付けて紘也の家に戻りたいウロボロスだ。速度最優先とするため、手加減無しにゾンビを片付け空を飛んでいく。
なんなら、あの腹立たしい口だけ男が到着するまでに全て終わらせ、「今頃来たんですかノロマすぎませんかねプギャーwww」と言ってやりたいくらいである。
が──
「やーっと、追いついた。おーい」
聞き覚えのある青年の声に、ウロボロスは迷わず魔力弾を投げつけた。
「おわあっ!?」
驚愕の声を上げた竜胆は、まさかのフレンドリーファイアを辛うじて避ける。魔力弾はそのまま数メートル先に着弾し、周囲のゾンビを残らず吹き飛ばした。
竜胆は速度を上げてウロボロスに追いつき、飛びかかってきたゾンビを蹴り飛ばしながら抗議の声を上げる。
「おいっ、なんで攻撃してくんだよ!?」
「あたしの敵だからです!」
「いや味方だろ!?」
「あのくそったれ口だけ野郎の仲間って時点であたしの敵です!!」
「それはいくら何でも暴論だろうが!?」
声を荒げた竜胆だったが、ウロボロスは譲らない。あの男に呼び出されてあの男と協力関係にある時点で敵、ごく当たり前の道理である。別に結構ガチで飛んでるウロボロスにあっさり追いつかれたのがむかついたわけではない。
言い合いをしている間にも彼らの周囲を埋める勢いでゾンビが飛びかかってくるが、殆どはウロボロスの魔力弾に消し飛び、討ち漏らしは竜胆の拳に蹴りに散っていく。
「つか、瀧宮羽黒の指示だろ! こういう時に作戦を無視すんのは自爆行為だぞ!?」
「はっ、誰に向かって言ってんですか? このウロボロスさんが自爆なんかするわけないでしょうに!」
そう言いつつウロボロスは横合いから襲ってきたゾンビの頭を鷲掴み、竜胆へと投げつけた。
「ついさっきまで自分の作った爆弾でへばってたじゃねえか、よ!」
竜胆は投げつけられたゾンビの首根っこを器用に掴み取ると、ウロボロスに投げ返す。
「ああん? 何か言いましたか首輪付いたワンコ風情で!」
ウロボロスは黄金色の剣<ウロボロカリバー>を無限空間からとりだしバッティングの要領でゾンビを打ち返した。が、大した力を持たないゾンビは、剣に触れただけで消滅する。仕方が無いので、その辺のゾンビをひっつかんでサッカーの要領で蹴り飛ばした。
「ワンコ言うなつってんだろ! つか、首輪付きはてめーもだろうがっ!」
ゾンビの頭を地面に叩き潰した竜胆が牙を剥くように威嚇してきたが、ウロボロスは堂々と胸を張った。
「あたしの紘也君は、あんなお馬鹿でドジで、このウロボロスさんの身体を使ってもなおヘンテコな結界しか生み出せないへっぽこサボり魔なんぞとは月とすっぽんなんですよ!」
竜胆の顔が思い切り引き攣る。クリティカルダメージをくらったのか、がっくりと肩を落とした。
「くっそ……んっとに、なんであんなのが俺の主なんだろ……」
「いっそ清々しいほどの敗北宣言ですねえ」
基本的に契約相手には忠実になるのが幻獣だ。中でも特に忠実といわれるイヌ科をしてここまで言わせるとは、あの何故か死なない少年の駄目度合いが伺えるというものである。
どれ程竜胆が落ち込もうとゾンビは構わず襲いかかってくる。その事実に気を取り直したのか、飛びかかってきたゾンビを纏めて蹴り飛ばしながら、竜胆は声を上げた。
「とにかく聞け、ウロボロス」
「なんですかワンコ」
「だからワンコじゃねえっ! 俺はオオカミだっ!」
「大差ないでしょうに、とゆーかオオカミだと主張するなら耳と尻尾でも見せて証明して見せなさい」
ほれほれ、と促すと、竜胆は思い切り顔を引き攣らせた。ぎゃあと喚くように叫ぶ。
「んな情けねえ格好、なれっかっ!」
どうやら、耳尻尾の出た姿は嫌らしい。いや確かにウロボロスも、このごっつい体格の竜胆がふさふさの耳と尻尾を出している姿はあんまり見たくないが、ここまで嫌がるとなると是非とも見たいものである。
「それはとにかくっ。一旦、瑠依の情けなさは忘れるとしてだ!」
「いや、アレは忘れないでどーにかしたほうが」
「忘れるとしてっ!」
現実逃避はよろしくないと思うのだが、牙を剥いて主張するワンコに、一旦は耳を傾けてやるウロボロス。我ながら心の広さが無限である。
「処分する魔術書がどれか、俺やあんたじゃ判断つかねーだろ。魔術の知識に関しちゃ、あいつは相当なもんだぞ。それくらい仕事させてもいんじゃねえの」
言い方を選んでウロボロスを説得しようとする竜胆を、ウロボロスは一笑に付した。
「そんなもん、紙切れ1つ残さず全て消滅させてやればいいんですよ」
「雑かよ!?」
竜胆が目を見張ったが、ウロボロス的には何もおかしいことは言ってない。そもそも、あの口だけ男がまともに処分すべき魔術書をウロボロスに教えるわけがないのだ。だったら全て纏めて消滅させてしまう方が効率的である。
「ま、とはいえ──」
「!」
ウロボロスが彼方へ視線を向けると同時、竜胆が体ごとそちらを向き、身構えた。流石の嗅覚、強い緊張をその身に纏っている。
「──そうは問屋が卸さないらしいですねえ」
「あっはー、もうばれちゃった? まじうけるっ!」
調子外れに陽気な声が響き、青白い炎が2人へと向けて轟! と渦巻いた。
「はんっ、腐れ火龍よりもちゃちな炎であたしを燃やそうと思わないことですね」
鼻で笑ったウロボロスが、龍麟を纏わせた腕で火炎を払いのけようとするが──
「うぁっちいぃいっ!!??」
じゅっと音がしてウロボロスの腕もろとも燃え上がった青白い炎に、ウロボロスは思わず悲鳴を上げた。
更に燃えた炎は姿を変え、ヘドロのように腕に纏わり付く。どろりと、ウロボロスの皮膚が腐り落ちた。
「ぎゃあああっ、あたしの紘也君にしか触れてもらったことの無い玉の肌が!?」
「……厄介なもんが来たな」
ウロボロスのツッコミどころ満載な悲鳴はスルーし、竜胆は鋭く炎が飛んできた方向を睨み付ける。
「死者の怨念と討たれたドラゴンの無念を込めた、呪詛の炎……だったか。今時いるんだな、ドラゴン・ゾンビなんぞ作る奴」
「あはっ、正体までばれちゃったゾ☆ 超うける!」
ケタケタと笑いながら、ドラゴン・ゾンビは空から舞い降りてきた。骨だけの翼で空を飛ぶ黒衣の少女に、竜胆はぐっと眉を寄せる。
「ったく……ここの頭っつうのはよっぽどイカれてやがるな」
「死者の国の王様気取りなんて、まともな頭だった方が怖いでしょうよ。ふんっ」
気合いを入れるような声と共に、黒く腐りかけていた腕を回復させたウロボロスが前に進み出た。
「おい?」
「ワンコ如きにドラゴンが相手出来るわけないでしょうが。ウロボロスさんなら瞬殺ですけど」
「っ、だからワンコじゃねえっつの」
言い返しながらも、竜胆は1歩引き下がった。此方彼方の実力差くらいは把握出来るらしい。
「あははっ、オオカミさん来ないのっ? そんな弱気じゃ死んじゃうぞ☆」
「いや別に、こっちのワンコが死んでもあたしの心はひとっつも痛まないのですが」
「おい!」
「きゃはは、仲間われーっ!」
晴れやかに笑うドラゴン・ゾンビに、ウロボロスは凄みのある笑みを浮かべる。
「あの腹黒男に「任務も果たせないノロマ」という称号を押っつけるためにも、ここは瞬殺して魔術書を消滅させてやりますよ!」
「あんたの行動基準はそれかっ!」
竜胆が鮮やかな突っ込みを入れたと同時、全身の毛を逆立てた。
「っ、ウロボロス……!」
「あん? あんたは他の雑魚処理でもちまちましてなさい、邪魔です」
「いや、これやべえ! 無理!」
「はあ? 何言ってんですか……」
と、その時ウロボロスも気付く。ああ、と声を漏らして、ドラゴン・ゾンビから目を逸らし、竜胆を視界の端に確認する。
竜胆は鼻をつまみ、半ば涙目で一点を見つめていた。
「……そーいや、今まで何で平気なのかと思ってましたが。やっぱ駄目なんですねえ」
「ある程度は訓練で何とかしてるけどアレは無理だ……っ!?」
全力で訴えた竜胆の視線の先、鎧姿のガイコツ然とした男がぬっと現れた。
「主ノ敵。滅ボス」
「あははっ。やっぱドラウグルってば片言! ちょーおかしい!」
「煩イ」
ばんばんと地面を蹴りつけて笑うドラゴン・ゾンビを睨み付け、ドラウグルは禍々しい剣を腰から抜きはらった。
「来イ。我ガ相手ヲシテヤル」
「ちょ、待て……っ」
「あ、あたしはこっちで手一杯なんでワンコ頑張ってくださいねー」
「嘘だろおっ!?」
ドラウグル。
黒く腫れた死体の姿をしている描写が多いが、超人的な力を発揮し、体を巨大化させ重量も増加させるという。北欧やアイスランドの神話のいくつかでは、宝物を守り、生き物に損害をもたらし、彼らを不当に扱う物を苦しめるという、言わばアンデッドの番人のような扱いを受けている。
片言ながら言葉を話せると言うことは知性が多少なりとも残っているわけで、おそらく神話の影響を受けた個体なのだろう。立っているだけで、呪いを振り撒くようなおぞましい魔力を撒き散らしている。
だが、そんなものは鬼狩りの中でもチートと呼ばれる竜胆にはほぼ支障ない。神力を操れるものならば、呪いのひとつやふたつ、防ぐのはさして難しいことではない。
が。ドラウグルの特徴そのものが、臭いで魔力すらもかぎ分けられる竜胆にとって最悪の相性なのだ。
──物を腐らせる悪臭を放つ。
フェンリルの末裔とも呼ばれる竜胆にとって、悪夢のような敵が牙を剥く。
***
「ふぁ……」
ウロボロスと竜胆を追って博物館へ向かう疾は、歩きながら欠伸を漏らすという、のんびりという表現がまさに当て嵌まる様子だった。
「……怠ぃ」
体力的には問題ない。瀧宮羽黒と合流する前に仮眠はしっかりとったし、一夜戦い抜いた程度でへばるようなヤワな鍛え方はしていない。が、精神的には割と疲弊していた。
「くっそ、あの駄蛇……」
いっそ人格が反転した方が遥かにマシだった、と疾は舌打ちを漏らす。黒歴史だかなんだか知らないが、別に性格単位で切り替えられようがそれを丸ごと記憶していようが、割とどうでも良い。何なら人格が反転したまま報復する方法だって思い付く。
が。
「馬鹿の神力整えるとか、マジでやってられっかよ」
呪術が暴走しないよう、ぐちゃぐちゃなまま掌握もされていない力を他人の身体で制御するというのは、素晴らしく大変だった。しかも暴走した力が中途半端に呪術として形を為していたせいで、体感的には魔力酔いを何十倍にも濃縮したような気分の悪さを覚えながらの制御と来た。
いっそ自滅させてくれようかとも思ったが、あの状況では自身にどんな悪影響を及ぼすのか全く分からなかったのだから、実にタチが悪い。
「なんで俺があの大戯けの為に手間暇掛けるんだか」
おまけに、ウロボロスが普段の感覚で人の体を使うものだから、目が覚めた時、疾の身体は割と深刻な魔力不足に陥っていた。直ぐにウロボロスチャージを利用したとは言え、魔力不足による身体への負荷が消えて無くなるわけではない。
そんなあれこれのせいで、疾は現在、地味に疲労感と戦っていた。身体強化魔術を使って2人に追いつくのも出来なくはなかったが、疲労度を考えて急ぐのはやめている。わざわざ雑魚掃除をしてくれるなら急いで手伝う必要など無いとばかりに、ゆったりと博物館へ向かっていた。彼らがまだ到着していないのは魔力の流れで把握している、到着したら少し急げばよかろう。
「けどあんまりサボるとまた暇人がな……」
ちら、と視線を明後日の方向に向け、疾はぼやく。一応鬼狩りの仕事だと促されてしまった以上、サボりがすぎるとまた白羽の矢が飛んでくるだろう。
……どうでも良いが、あの人外はいちいち急所目掛けて射るのをやめろ。飛行艇内でも割とギリギリだったのだが、頭を撃ち抜かれて死なないとでも思っているのだろうか。
「はー……面倒くせえ」
大きく溜息をついて、疾は拾った瓦礫をぽいっとその辺に投げ捨てた。更に近くの瓦礫を無造作に蹴り飛ばし、また欠伸を漏らす。
疾がここまでやる気が出ない理由は、もう1つ。ウロボロスに散々口だけだの似非だの言われ放題されても聞き流しているのは、何も面倒だからというだけではない。
「どーゆーつもりなのかねえ……」
しれっとエーシュリオン破壊作戦に巻き込むのみでは飽き足らず、序盤から指揮権を投げ渡してみたり、それにケチを付けてみたり、今また手綱を握らないと好き勝手しそうな駄蛇と組ませてみたり。あれこれと指示を出しながら自身は動きを見せない瀧宮羽黒を、疾は何よりも警戒していた。
白羽もウロボロスも、警戒の範囲外だ。前者は未熟すぎて騙す前から気付いていないし、後者はマイペースな上に絶対の強者という驕りのために関心がない。馬鹿と竜胆は言わずもがな、外野はこの島の儀式化魔術で中の様子を窺えないから論外。
しかし、瀧宮羽黒は。
「……最悪の黒。最高の青。瀧宮を破門となった異端児。吸血鬼の、主」
集めた情報を口の中で転がしつつ、疾はまた瓦礫を拾って投げた。子供の手遊びのようなそれを繰り返しながら、疾は思考を遊ばせる。
世界を跨ぎ多方面の組織に警戒されている存在が、手札を隠しこちらの出方を窺うような素振りを見せるとなると、そこには何の意図があるのか。
「陽動。実験。試練。情報収集。指導……はっ、あほらし」
苦笑して、疾は瓦礫を後ろに蹴りのけた。ポケットから取り出した魔石で手遊びをしながら、疾は独りごちる。
「あんたが魔法士協会に嫌われていようが、俺の敵になりかねねぇのは変わんねえだろうによ」
であれば、疾は羽黒に情報を渡すわけにはいかない。魔法士協会の敵として、守るべきものを持つ身として、劇薬にも等しいこの男に、弱みに繋がる情報を掴まれるわけにはいかない。
が。ただ無視して無力のふりをするわけにはいかないのも、また同じ理由から。
「……雑貨屋、何でも屋。あんたの価値は嫌っつうほど分かるんだがなあ」
さてどうしたものか、と嘆息する。どの程度の価値を見出しているのか分からない以上、どこまで働きを見せてやるか、さじ加減が難しい。
「利害の一致程度の関係を築く価値を見せつつ、手札は見せないとくると──」
無造作に、魔石を上に放り投げて。
「──こういうの、潰しときゃいいのかね?」
閃光。轟音。
熱風は、遅れて広がる。
それら全てを携帯していた魔道具で防いだ疾は、悠然と空を仰いだ。
「やれやれ……古代魔術の展覧会の如き不死者島に囚われたのは、一体全体どこのマヌケだ? 術師の上位職っつー謳い文句、そろそろ返上した方がいいんじゃねえの」
空に浮かぶぼろ切れのようなローブ姿のアンデッドに、疾は薄く笑みを浮かべて言い放つ。
今放たれた魔法と、ローブの胸元に止めているバッチ。どちらも、魔法士協会所属を示唆する特徴だ。どうやら、魔法士の中にアスク・ラピウスにうっかり殺され、挙げ句ワイトにされた阿呆がいるらしい。
「それとも、その辺で転がってた死体でも拾ったか?」
ここ最近、魔法士は仲間割れやらなにやらでそこそこ死者が多いらしい。基本的に力こそ全ての理論を持つこの組織、自ら挑んで返り討ちに遭った阿呆のフォローなんぞする気すらないだろう。となれば、うっかり殺された死体を偶然見つけたか。
「それならアスク・ラピウスとやらが魔法士協会知っていたのも納得だな。あいつが任務でここまで来るなんざよっぽどかと思ったが、そーゆー裏事情もあるのかね」
だとすると、と疾は口元を吊り上げる。管理世界でそれほど明確な敵対行為を見せつけられた協会が、魔法士幹部まで送り込んでおいて、潜入捜査だけで終わりはなかろう。
「それで、俺らを見逃してるっつうわけね……あの野郎、仕事投げたな」
相変わらず、標的に関係のない仕事に関してはやる気ない男だ。ノワールは協会内では任務に忠実と言われているらしいが、この辺りの面倒くさがり度合いは忠実とはほど遠い気がする疾である。まあ、人のことはいえないが。
ふっと、嫌な予感が疾の脳裏を掠めた。が、それよりも早く敵が動き、疾は一旦その予感を横に押しやる。
空から落ちてくる稲妻を、飛んで避ける。地面に落ちるもそのまま蛇のようにうねり、地面を伝って疾を襲わんとする魔法に、疾は銃弾を撃ち込んだ。魔法はあっけなく霧散する。
面を上げて、疾は改めて魔法士を睥睨する。赤髪碧眼。火属性、水属性、土属性。3属性を宿した魔法士が纏う魔力と、組み上げられていく魔法を視れば、その技量は決して馬鹿に出来ないものだ。おそらく、魔法士の中でも上級、幹部には1歩及ばずとも近い実力を持つのだろう。
そんな輩が何故死んだのかは──さておき。
生者の軛から解き放たれた肉体で、生前さながらの魔法を操るワイト。その厄介さは、何度も魔法士を相手にしてきた疾には想像に難くない。
だが。
「はっ」
疾は傲然と笑い、銃を構えた。
「来やがれ。化石魔術師のリッチなんぞに操られてる木偶如きが、俺の敵になれると思うなよ?」




