61話
「ベル先輩の選んだ鳥篭のバスケット、すごくいいと思いますよ」
「嬉しいのか嬉しくないのか、よくわかんない……」
なぜか肩を落としたベルを気づかいの言葉でフォローするが、あまり効果がないと見えたシャルルは「こんなに可愛いのに」と、少し不満げにバスケットに話しかける。そして花を脳内でアレンジする。この瞬間が彼の至福の時間だった。
バスケットというものは、ただのフローラルフォームを入れるだけの容器ではない。場合によっては花よりも主役となることがあり、時には花を引き立たせるため、経験を必要とする難しい部分でもある。
一般的には木製のバスケットが主流であるが、革張りのものや、スチールといったものも注目を集めており、限りがない。花の組み合わせが無限であるなら、それを支えるバスケットも無限。宝探しの様相を呈しつつ、そこもまた奥深く興味を惹き付ける。
「花もいいですけど、たまにはそれ以外のものを見てみるのもすごく勉強になるんですよ。 バスケットからヒントを得て思いついたアレンジなんかもたくさんありますし、バスケットに合わせるためのアレンジもあるんです」
花のこととなると、途端に饒舌となるシャルルを見ていると、ベルも笑みがこぼれる。自分が三軒目の清楚な雰囲気が漂う店で購入した、その鳥篭のようなバスケットを見て、同じく少しずつ合う花を思案してみる。真似はピアノでも得意技である。
「鳥籠、カゴ、かごかぁ、この前『鳥の巣』なんてのもシャルル君が作ってたし、鳥業界にも色々事情がありそうだね。黄色のカラーを三、四本。入れて、ヒナを表現するとかどうかな? すでに飼われている状態のヒナ、どんな状況だ、って感じだけど」
「事情があるかどうかはわかりませんが、いいアイディアだと思います。発想は突飛くらいがちょうどいいんです。そこからマイルドに調整していくことができますから、最初が弱くてはそれも叶いません。その場合は、他の花は低く配置し、カラーを大きく目立たせてはどうでしょうか」
シャルルのアイディアの繕いに、ベルは合点がいく。
「あ、そっか。あと、オーバルな配置の仕方で『卵』をイメージもさせたいかも。それとカラーは四方に分散させて置くよりも、母鳥からエサをもらうような感じで同じ方向を向かせるように……ってシャルル君、どうかした?」
見上げる視線に気付き、ベルは首をかしげた。
「……いや、なんか僕が言うのもあれですけど、すごくベル先輩、成長しているというか、ただフローリストをやっているだけでは思いつかないような、面白い着想を近頃出すようになったじゃないですか。実は姉さん、なんとなしに先輩が言った『バスケットの網の隙間から花を出したらどうかな』っていうのをヒントに、この前それらしいのを作り上げてましたよ」
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