310話
これも〈ソノラ〉にはないため、ここに来た理由のひとつになる。やはりいいなぁ、とシャルルは心弾む。
「これを紅茶に浮かべて、そのまま飲むだけです。香りづけや見栄えの意味合いが大きいですが、食べていただいても大丈夫です」
そして一枚つまみ、優しく紅茶に浮かせる。
見た目華やか、そして鮮やか。濃いオレンジ色に浮かぶ赤いコスモス。だが、それと同時に生まれた問題点に、レティシアは顔を顰める。
「……なんだか飲みづらいわね……」
揺れる花びら。飲むところを想像すると唇に触れる。上手く奥側に流れてくれれば……いや、そんな細かいことを考えている自分がおかしく思えてきた。
言いたいことはアニーにもわかる。が。
「それはもうどうしようもないっスね。そういうものだと思って諦めてもらって」
どうにもならないものもある。我慢が時に必要なことも。
「スイーツでは砂糖でコーティングしたりなどもありますし、食べることに特化したものもあります。今回は目で楽しんでいただけたら」
控えめな主張。あくまで主役は紅茶。シャルルは一歩引いて見守る。
まぁ、とりあえずやるだけやってみましょうかとレティシア。
「それとジャムね。ふふっ、楽しくなってきたわ」
手渡されたヘラでジャムを掬い、混ぜ合わせる。溶け出して一体となると、ほんのりと色味が増す。
紅茶とジャムの組み合わせは『ロシアンティー』と呼ばれるもの。寒さの厳しいロシアでは保存食としてジャムを常備している家庭も多く、かつては砂糖が手に入りにくかったということもあり、口に含みながら紅茶を楽しむ飲み方が定着した。
ヘラが一本しかないため、口に含むより混ぜるほうを選択。アニーの紅茶も同様にコスモスを追加。
「ボクもっス。ベルリンに帰ってからも試してみたいっス」
そのためにもまずここで感触を確かめなければ。たぶん美味しいのは予想できるが、しっかりと自分なりの答えを持って。




