309話
「シャルルさん。もうひとつ用意してるっスね。たぶん」
勘の鋭いアニー。そんな予感がする。
ピタッ、とカップに伸ばしたレティシアの手が止まる。
「もうひとつ?」
疑問を含んだ瞳で見返した。次は件のジャムを混ぜてみようと思っていたところ。そこにさらなる報告。
諦めに近い含み笑いをしつつ、シャルルは首肯する。
「よく気づきましたね。ジャムと一緒に楽しんでいただくために、用意しました」
そこに追加したもの。それはまたしても小瓶。だが先ほどと違うのは、ジャムと化した物質ではなく、生花のままのように見えるオレンジ色のコスモス。
開け、瓶を傾けてレティシアは一枚を手のひらへ。じっと凝視してみる。が、当然ジャムのように動くわけでもなく、その場で静かに咲いている。
「これは……食べるもの、なの?」
「おそらく農薬を使っていないやつですね。香りでわかります」
美味しそう、というよりも、生花と同じく華やかな芳しさ。肺まで目一杯、アニーは吸い込んでみる。
当然、生花は基本的には食べることはしない。育てるために農薬を使われていたりするため、体に害がない、とは言い切れないため。それほど毒性の強いものでなければ、処理の仕方によっては食べられるのだが、一応の線引きは存在する。
だが今回シャルルが使用するもの。
「はい。こちらは正式に食用として販売もされています。いわゆる『エディブルフラワー』です」
見た目はほとんど普通のものと変わらない。それもそのはず、出荷までの育て方などに違いはほぼなく、農薬を使わないため害虫などへの対策が多少気を使う程度。食卓に彩りを加える。
「エディブルフラワー……」
そういえばそういうものもあった。レティシアの脳裏に浮かんだのはそのこと。食べたこともある。そういう名前だったのかというのは初めて知った。




