303話
見送りながらシャルルは複雑そうに断言する。
「……絶対に姉さんが許可しないと思います……」
というか、ベアトリスと波長の合う人物などいるのだろうか。特にレティシアとは水と油。こっちにまで被害が及ぶ懸念。
「まー、なにかあったら私に言ってもらって。この店のものはだいたい使っちゃっていいから」
そう残してサキナがその場を去る。ひと通りの店番はできるので、それなりにはリオネルに信頼されている。たまに店に戻ると勝手に閉店になっていることがある。
「了解っス。ありがとうございます」
拝謝しつつ、アニーの思考はすでにティータイム。芳しい香りが鼻腔をくすぐっている気さえする。花と。紅茶。優雅なひと時はもう始まっている。
スタッフルームへと引っ込んでいくサキナを、訝しむレティシア。
「誰がオーナーなのかわからないわね……」
たぶん、勝手に使っていいなんていう許可は出ていないのだろう。この店の従業員との関係性。なんとなく把握した。
両の手を広げ、ゆっくりとその場で横に一回転するアニーは、自然と口元が綻ぶ。
「しかし、いい店っスね。吸い込んだ香りが全身の細胞に隅々まで行き渡るっス」
この『森』のような雰囲気。非常に参考になる。ドイツに持って帰ろう。袋に詰められるなら詰めたい。
そのイメージ、どことなくレティシアにも言わんとしていることがわかる。自分の体にもしっとりと染み込んでいく。
「独特な表現ね。で、果たしてどんな紅茶を淹れてくれるのかしら」
立って待つのも飲むのも落ち着かないので、傍にあった背もたれのない木製のイスに座る。軽く深呼吸。平常心平常心。まさか紅茶を飲むことになるとは。好きだけど。




