292話
軽く「ん?」と、とぼけながらも少女は開花した花のように満面の笑みで対応する。
「ボクっスか? 申し遅れました、アニエルカ・スピラといいます。アニーって呼んでください」
そして両者と握手。知り合えて幸せ。そんな清く柔い物腰。
なんだか調子が狂う。とはいえレティシアも悪い気がするわけではない。少しずつ警戒を解いていく。
「それでアニーさん? 私達になにか?」
邪魔しないでくれる? 遠回しに。
にひひ、とまだ笑顔を絶やさずにアニーは一歩後ろに跳ねる。
「いえいえ、同じ制服だったので、ついお近づきに。ベルリンのケーニギンクローネからの留学なんスよ」
ドイツの方角と思われるほうを向いて想いを馳せた。今頃みんなはなにをしているだろう。友人達の顔がポンポン出てくる。
ベルリン。ケーニギンクローネ女学院。パリのモンフェルナ、ブリュッセルのルカルトワイネとは姉妹校であり、お互いに留学をしあっている。GPAという成績評価により審査されるが、最上位の者のみ許されるわけで。
非常に流麗なフランス語に感嘆しつつ、シャルルは自己紹介を返す。
「僕はシャルル・ブーケといいます。こちらは——」
「レティシア・キャロル。そういえば留学生が来ていたわね。まだひとりしか会っていなかったけど」
せっかくなのでレティシアとしても、全員と挨拶くらいはしたいと考えていた。異文化、とはいっても陸続きの隣国なのであまり違いはないだろうけども。それにドイツ。ちょっとだけ憧れがある。憧れている人がいる。
会った人。となると候補は三人。その中でも一番当てはまりそうな気がする人物を、アニーは口にする。
「シシーさんですかね? なんとなくっスけど、あの方と似ている気がするっス」
佇まい。壮麗さ。その他諸々。あの方の隣に立った時、ヒケを取らなそう。並び立つ存在。




