288話
花は世界中で何種類あるのか、という問いには誰も答えることができない。まだ誰も足を踏み入れていない森の奥地にひっそりと息づくものもあれば、海の中でのみ育つ花もある。突然変異で生まれるものもあれば、ひっそりと絶滅するものも。
それと同時に、花器というものは違った意味で数を数えることはできない。花瓶はもちろんのこと、コーヒーカップやバスケットといったものも無数に種類はある上に、思ってもみなかったものが使われることもある。
花束であればアルミホイルや濡らした紙などを使えば簡単に作れるが、アレンジメントとなるとそうはいかない。水を浸透させたフローラルフォームを使うのか、はたまたウォータービーズなど。それぞれメリットデメリットがあるので正解はない。
ゆえに、面白い。
〈ソノラ〉では花器はランジス市場などで購入したり、数が多い場合はまとめて仕入れたりすることももちろんあるが、雑貨屋などで購入したりすることもある。気に入れば買って個人的にアレンジメントで使ったり、販売用としても。
芸術の街パリ。歴史ある石畳と白い建造物の続く街並み。数多くの雑貨屋がひしめく中で、シャルル・ブーケのお気に入りは、六区のセーヌ通りに存在するセレクトショップ〈ユース・アンド・オルド・エイジ〉。若さと老い。この名前も好きだ。その理由は——。
「ジニアの別名、と言いましょうか。アメリカでの呼び方なんです」
「ジニア?」
モデルのようなスタイルを持つため、少年の小さな歩幅に合わせて歩く少女、レティシア・キャロル。ゆったりと。それでいて清淑に。学校帰りのため、制服で街を闊歩している。が、周囲とは一線を画すようなオーラがある。
その佇まいもあってか、一度ファッション誌のストリートスナップに撮影されたこともある。彼女としてはそっちの道に進むことなど考えていないが、多少なりとも世界は広がった気はしていた。




