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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
モレンド
285/320

285話

 静かに。それでいて包み込むように。一小節のカデンツァ、テンポの指定はストレット、つまりは『だんだん早く、緊張感を持って』という指示。そしてすぐにアラルガンド『だんだん遅くしながらだんだん強く』。速度がコロコロと変わり、基準となるものがない。


 二小節目になるとコン・スオノ、意味は『響きを持って』。北欧において森は国土の大半を占めており、生活の一部にもなっている。木の一本でさえ、政府によって管理されているフィンランド。それほどまでに自然との距離が近い。


「……ほぉ、これはこれは」


 少し離れたところで聞き惚れるルノー。たしかにこの曲は特別難しい曲ではない。だが、だからこそ誤魔化しの効かないシンプルな難しさというものがある。厳しい寒さを耐え、物言わずただ佇む樹木。一瞬で世界に引き摺り込まれる。


 一番間近で味わうサロメは、先ほどまでの煽りとは真逆、真剣にひとつひとつの音を吟味する。


(……わかってはいたけど。やっぱむかつくくらいに上手い。ひたすら練習したピアニストの音、とはまた違う。辞めたって言ってたけど、辞めたからこその音、っつーの? 一歩引いて、自分を見つめ直したみたいな。花屋のピアノ、ねぇ)


 木や花というものに対する捉え方が違う? 理解力? ただただ綺麗、で終わらない心境なのかね? シベリウスの想いとは少し違うのかもしれないけど、つまりそれは面白いわけで。


 時に強風を纏い、落ちた葉が舞う。低音部から高音部へ舞い上がる木の葉のように、徐々に変化を加えながら。約三分間。店内に深々と雪を降らせたベアトリス。


「悪くない。いいユニゾンだ」


 鍵盤の蓋を閉め、弱々しく立ち上がると少し静止。弾いた音を再度、心の中で反芻させる。余韻を持って終わらせたので、まだどこかで響いている気がして。

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