276話
「それで、オーキッドでどんなメッセージを伝えようとしてる?」
ちょっと楽しくなってきたのはサミーも一緒。美しくて存在感のある花。ただ、この店ではそれだけでは終わらないことはわかっている。自分でも気づけなかった、本当の想い。それを教えてくれる場所だから。
弟の髪をクシャっと撫で、サキナはそれに応じる。
「オーキッド。正式学名は『ファレノプシスアフロディーテ』。アフロディーテってのはまぁ、なんかどっかで一度は聞いたことあるかもですけど、ギリシャ神話の愛とか美とかの女神、そんな感じです。なんかそれっぽいですよねぇ」
他にも花は色々とあるので感覚的なものだけど。そんな印象。バラとかよりも、なんだか神聖な感じ。するでしょ? しない?
目を細めて照らし合わせてみるサミー。その気持ちもたしかに重なる。
「……ま、なんとなくわからなくはない、けど……ファレプノシスってのは」
「ほい、シャルルくん」
面倒な説明は他人に任せる。それがサキナの処世術。即座に後ろに引っ込む。
訝しみつつもシャルルはそのあとを継承して続ける。
「ギリシャ語の『ファライナ』と『オプシス』という単語が合体したものなのですが、オプシスは『——のような』を意味します。ファライナは——」
「蛾です。蛾」
気分次第で口を挟む。これもサキナの処世術その二。ストレスフリーで生き抜くには、喋りたいことだけ喋る。手でパタパタと舞う姿を真似る。
その単語によりくっきりと像が浮かんでくるまで、サミーの脳内で五秒必要とした。
「……蛾?」
茶色かったり黄色かったり、斑だったり無地だったりする。あの? ジェスチャーからそうなのだろうが、なんで昆虫が? いや、花と昆虫はたしかにお互いに支え合ってそうなイメージはある、けども。
虫全般が苦手が人もいるが、特にそういう感情をサキナは抱いていない。
「そうです。あのヒラヒラ飛ぶ虫」
なんだったら、その自由な生き方は羨ましくすらある。あぁ、なにか都合が悪い時でも飛んで逃げることができれば。花の蜜だけ吸って生きるのもまた趣深い。




