263話
「そう……だとは思うけど。なんていうか、それ頼みだといつか沼にハマりそうな気がして。たしかにそれは誇っていいものだとは思う。だけど、なにもかそれっていうのは、なんか違うんじゃないか……って、説明上手くできてない、かも……」
その曖昧な感覚は、ベルにとって諸刃の剣な気がしてしょうがない。もちろん、最終的なところで頼ってしまうのだが、最初からそれありきで曲と向き合うことは、なんだか自身の成長を止める気がして。だからこそ。本来の自分というものを確立したくて。
答えのない世界。それでも、自分なりの答えを持って臨みたい世界。
「いや、とてもわかりやすいよ。私はピアノのことはよくわからないけど、その悩みがベルをより良くさせてるんだろうし」
うんうん、と大きくリディアは頷く。きっとそうだと確信。
なんだかよくわからないけど。こうやって根拠がなかったとしても、ただの勘でしかなかったとしても。言ってもらえるとベルは嬉しい。思わず笑む。
「ありがと、少し楽になった。自分のやってることが正しいのか、よくわからなくなることが多くて。それでもやっぱり、このレベルに到達するのはまだ全然想像できない……」
言い終えて、伝えることの大事さを再確認した。こうやって元気づけてもらえて。そしてそれは自分が音楽や花を通してやりたいことでもあって。空を見上げると、また太陽が出てきてくれた。
その横顔を無言で見つめつつ、会話の切り口を探すリディア。こういう時には。
「そういえばさ、映画で『モンテーニュ通りのカフェ』っていうのがあるんだけど、観たことある?」
あまり映画を観ることはないが、嫌いではない。パリに来ることが決まって、他人の家で少し、語学の勉強も兼ねてフランス映画を漁ってただけ。そのうちのひとつ。




