256話
とはいえ、別に信頼しあっている、というわけではない。単純にお互いに『知人』と割り切れる間柄。決して『友人』ではない。ビジネスライクな付き合い方。
「はいはい、サキナ・ラクラルさん。さっさと帰れ」
入れ替わってる、というややこしい環境下ではあるが、発案者でもあるサキナはすんなりと役に入り切る。というよりかは高揚してやっている気もする。
身支度を整え「じゃあな」と出ていく姉を見送りながら、シャルルは気まずい顔。昔から知っている人物とはいえ、乗り切れるのかは不安でしかない。
「……いいんでしょうか」
絶対いいわけないけど。しかも姉を指名しているお客さんがこのあと来るのに。なんて言って謝ろう、また後日にしてもらおうか。
フランスではいわゆる『ドタキャン』というものは非常に多い。友人関係ならともかく、仕事であっても容赦なく襲いかかる。やる側もやられる側も「そういうものだから」とあまり深く捉えていないところがあることも、多い原因のひとつである。
しかしそんなことは毛頭、サキナは考えていない。なぜなら今、自分はベアトリスだから。理由はそれだけ。
「シャルル。いいことをひとつ教えてやろう。知りたい?」
姉のような、そうじゃないような。中途半端なモノマネを見せられて及び腰のシャルルだが、一応聞いておく。
「……なんでしょうか」
たぶん、役に立たないと思うので数秒後に忘れたほうがいいかもしれない。
不機嫌そうな顔真似もしつつ、サキナは偽の弟に教鞭をとる。
「ストレスなく生きていくコツはな。なんでもかんでも他人のせいにすることだ。なにか問題が起きても、それを教えなかった上司のせい。ひいては国、フランスのせいにしておけば、なにかクレームをもらっても『いや、悪いのはこの国なんで』という精神で立ち向かえる」
「……」
予想通り、悪影響な思想を植え付けられそうになったシャルルは、ほんの少しだけ心に刻んでほぼ全ては捨てることにする。姉も大概、適当なことを言ったりもするが、そこにさらに輪をかけている。




