255話
はぁ、とため息をつきながら姉の言葉にシャルルは同調する。
「そうですよ。今日の方は姉さんを指名されている方ですから。さすがにそうなったらサキナさんといえど——」
「いや、それもありだな。今日のお前はベアトリス・ブーケだ。誰がなんと言おうとベアトリス・ブーケとして生きろ。私はサキナ・ラクラルとして振る舞う」
うん、それだな。珍しく、満足げにベアトリスは頷いた。数秒前と意見が真逆。
ちょうどケーキを食べ終わったところ。口元を拭ってサキナは了承する。
「よっしゃ、そうこなくっちゃ」
「はい?」
えーと? どういうこと? 今日の姉さんはサキナさんで、サキナさんが姉さん? えーと、やっぱりどういうこと? 混乱するシャルル。
そんな弟の疑問を解決してやるべく、理由をベアトリスは説明する。
「今日のお客はな。そもそもアイツのものだったからな、それを押し付けられた形だ。ならば、そこの従業員であるサキナがなんとかするべきだろう。なんらおかしくはない」
アイツ、とはもちろんリオネル。彼がわざわざ〈ソノラ〉にお客をたらい回しにして、こちらに来た過去。別にいいのだが、そのぶんの貸しをまだ返してもらっていない。なので、ここは連帯責任として〈クレ・ドゥ・パラディ〉で解決してもらおう、ということ。
すでに今日の予約表をサキナは見ていた。なので大まかな話の流れは以前聞いたことがある。
「らしいねぇ。ま、なんでもいいけど。最近てアシスタントばっかりだからさ。たまにはこういうのもやりたくて」
もっと花に触れて、というのを働く前は予想していたが、フローリストというものはそれ以外の仕事が非常に多い。特に、個人ではなく企業などが多い店の関係上、たまに花と戯れてみたくなるわけで。
というわけで、悪いことを企んでいる二人の間に挟まれたシャルルは、この場では唯一の常識を重んじるポジションにいる。
「でも——」
「じゃあ私は出かけてくるから。あとは頼んだぞ、ベアトリス・ブーケ」
基本的に弟が誰かと、特に女性と二人きりになることをよしとしないベアトリスだが、もしひとりだけ許せる、という状況になれば迷わず選ぶのは彼女。




