243話
パリの花屋が花を購入する、とするとランジス市場がまず思い浮かぶ。業者専用だけあって種類も豊富、その他花器や雑貨なども同時に購入できるため、基本的にはここ。
だが、パリにはそれ以外にも、マルシェに小さな花市場が数ヶ所存在する。シテ島やテルヌ広場など、野菜などに混じって販売しており、交渉次第で安く買える。鮮度や種類などではランジスに敵わないが、ちょっと必要な時などに仕入れるのに便利なのだ。
昼過ぎくらいまでしかマルシェはやっていないところも多いが、場所によっては夜の二〇時過ぎまでというところも存在し、仕事帰りのビジネスマンなどに重宝されている。
そうしてディズヌフ近くのマルシェから帰宅したベル。ほんの少しの材料と共に。
「ごめん、融通きかせちゃって。でもぜひ試したもの、オードにも見てもらいたくて」
走ってきたため息が少し上がっている。汗も。紅潮気味の頬。それでもやってみたい。
言いたいことはいくつかある。だが、口元をムズムズとさせつつも、その鬱憤は全て一回のため息にオードは込めた。
「……ま、言っても聞かなそうだし? 自由にやっていいわ。楽しみにしとく」
もう無理無茶無謀は慣れている。誰かさんのせいで。
息を整えつつ、考えもベルはまとめる。お試し、ということも含めて小さなものを。いける? いけない? わからない。が、楽しい。
「……まずは。一八番のワイヤーをフローラルフォームに通して。それと……ラップみたいなものある? 食品用の」
それも一緒に買ってくればよかった。反省。
「ラップ? あるけど……それを巻くの?」
まさかの道具に一瞬「ラップってなんだっけ?」とオードは記憶から抜け落ちた。ラップ。二二〇度くらいまで大丈夫なフィルム。他の国だとオーブンでは使わないんだっけ? とりあえず取りに。
三階の台所から持ってきてもらい、受け取ったベルは、切り取りつつ使い方を一応説明。
「うん。そうしないとたぶん、スギとかに水分持ってかれちゃうから。耐水紙とかだと挿さらないし」
フローラルフォームに巻きつけ、ずり落ちないよう、個包装のショコラのようにくるくると端をまとめる。これでとりあえずは準備はできた。
「んで、どうやんの?」
ここからはフローリストとして。晴れの舞台をオードはイスに座り眺めることにした。
ひとつひとつ丁寧に。購入してきた赤い枝をベルは掴んだ。
「このサンゴミズキをガーランドの前後に適当に配置して、それらをワイヤーでまとめてひとつに」
珊瑚礁のように見えることから名付けられた落葉低木。その中でもミッドウインターファイアーと呼ばれる品種。根本は黄色味がかっているが、先にいくにつれてコーラルオレンジに美しくグラデーションで染まる。




