224話
モンフェルナ学園の音楽科、レッスン室。着脱可能な吸音板が装備され、残響時間を操作すことができる。床のフローリング、壁は白とライトグリーンを基調とした爽やかな色合い。グランドなら二台は置いても余裕はある程度の部屋の大きさ。
ヤマハのグランドピアノのイスに座るのは、ピアノ専攻のブリジット・オドレイ。ショパンを愛し、ショパンに愛された、とは自分では言っていない。愛してはいるけど。
「まぁ……リサイタルもあるし、心配してくれてるんだろうから、その……ベアトリスさん? の気持ちも、私はわかる、かな」
少しオドオドとした印象はあるが、ショパンについてとなると饒舌になる。が、今はそうではないので弱気。
そして、講師などが座るイスに腰掛けているのはベル。うんうん、と大きく身振りで同調。
「いや、私もわかってはいるの。というよりも、向こうの言っていることのほうが正しいんじゃないか、とすら」
悔しいけど。百人に聞いてもそうかもしれないけど。
「じゃあ、その通りにやるしか……」
それ以外に言いようがないので、ブリジットとしても相談に乗ることはできない。自身もそちらのほうがいいと考えているから。本当にリサイタルはどうするつもりなのだろう。
ガバッと立ち上がったベルは、天井に向かって声を荒げる。
「でもッ! そう思っちゃったんだからしょうがない! 私は欲張りだから。全部やりたい、頑張りたい」
「ベル……」
いや、やめておいたほうが……と言いたくなるのを我慢し、ブリジットはとりあえず微笑んでみる。というかそれしかできない。たぶん聞かないし。
立ち上がった勢いそのまま、レッスン室内を歩き回るベル。
「そうなると、ベアトリスさんから習うのは諦めるか……シャルルくん……も同じ家というか店だし。リオネルさん……は〈ソノラ〉とは比べ物にならないくらい忙しいみたいだし」
しかしどんどんと可能性が狭まっていく。考えれば考えるほどに方法が枯渇。いっそ、知らない花屋に行ってみるか……? いや、そうなると働かせてくれることすら無理だろう。アレンジメント講座に行ってみるのが一番現実的か。
自分にはない悩みを抱えているベルを見ていると、ブリジットは応援したい気持ちが少しだが湧いてくる。
「なんか……大変だね……私、なにか手伝えること、ある、かな? なんでも、言ってほしい」
本当はしないほうがいいのだろうけれど。不思議とベルならなんでもできてしまう気がする。




