223話
というのを、めざといベアトリスが逃すわけもなく。集中の邪魔になることもあり、適当にあしらう。
「なんだ? お前はお前でやることがあるだろう。言っておくが、やりたいとか言われても——」
「あの、私もガーランドとかやってみたい……なぁ……なんて」
思ってしまった。やったことはないけど。忙しいのはわかるけど。だがベルはやりたくなったら、とりあえず提案はしてみる。言うだけ。言う……だけ。
が、冷静にベアトリスは今後の予定に目を通す。
「……お前は教会でのリサイタルもあるだろう。そんな暇はない。諦めろ」
どっちつかずの中途半端になるくらいなら、いっそ尖ったほうがいい。というよりも、まだ新人。そこまで一気に集中する時期ではない。もう少し働いてみてから考えるべき事柄。
もちろんベルとしてもわかってはいる。わかってはいるが、どちらも今やるべきなのでは? と考える自分がいることに気づいてしまった。
「でも、私も〈ソノラ〉の一員なんです。私だけなにもしない、なんて、そんなのできません」
自分だけ優遇されているような気がして。実際にはそんなことないわけだが、花にも真剣に向き合いたい。だからこそ、両方成功させるべきなのではないか? それは曲げられない。
とはいえ、花屋の仕事はアレンジメントや水揚げなどだけではない。それ以上に重要なものをベアトリスはあげてみる。
「リオネルとランジス市場で買い付けというのもあるぞ。これも立派な仕事だ。なにせ、花がないとこの店は始まらない」
早朝にはなるが。だが、花のない花屋は営業できない。これをやってもらうだけでも大助かり。だいたいはリオネルに任せてはいるが、当然自分も同行することもある。それをやってくれるのであれば。
内側に溜めたものが逃げ場を探しているかのように、言いたいことが上手く功を奏さず、ベルは体をくねらせる。
「そう……ですけど……そういうのでもなくて……」
歯切れ悪く。潰れたスタッカート。
チラッと目配せしつつも、ため息をつくベアトリス。髪をかきあげる。
「……まぁ、言いたいことはわからないでもない。アレンジメントが楽しくなってくる頃だ。少しずつ知識と興味が増して、四六時中どんな風にしようか、とか考え出す」
やはり通じてはいた。ベルは小さく肯定。ピアノにもいい方向に影響あり。
「……まぁ、そんな感じです……」
だが、その次に来る言葉もなんとなくわかる。
ベアトリスも過去を思い出しながら語を紡ぐ。
「そうなると、新しいことにも挑戦したくなる。ガーランドやリースは季節ものだから、やった感がある」
これも通った道。知識がどんどんと入ってくる。できないことができるようになる。花に限った話ではない。スポーツでも。芸術でも。仕事でもなんでも。一番楽しい瞬間だ。
「……ダメ?」
精一杯可愛らしく。通用するかわからないが、ベルは微笑みながら店主の両手を握ってみる。通じろ、と念。
感情を殺してあるがまま受け入れてみたベアトリス。少し間を置く。笑顔。そうしてほんのちょっとだけ期待をもたせたところで——。
「ダメ。さっきも言っただろ。お前はピアノがある。ちょうどいい、ピアニストを目指すのを辞めてフローリストを目指すなら教える。ピアニストを目指すなら練習時間を作るためにも、そちらを優先しろ。どちらがいい?」
究極の二択。ここで未来が決まる。フローリストが誕生するか、ピアニストが誕生するか。どっちでもいいけど。あまり興味はない。が。
「両方です! 私は花もピアノも、両方で上を目指したいんです」
と、欲張るベル。一度決めてしまったから。もう揺らぐことはない。たぶん。
「……こいつ……」
睨むベアトリスは、なんか腹立たしいので、意地でも教えないと心に誓った。




