220話
バタン、という扉の閉まる音。一瞬だけ、賑やかな外の音が入ってきた。もう日も暮れたというのに、パリという街はここからが本番だ、とでも言わんばかりに、より騒々しさをここから増していく。
閉店時間となり、店内では締めの作業に入る。軽く床の清掃、水揚げ。終わると、お互いイスに座り、一旦の疲れを癒す。が。
「……サラセニアにあんな花言葉あったっけ? 調べても出てこないけど」
一連の応対を隠れて聞いていたシャルル。そんな中で、最後のアドバイス? だけはずっと腑に落ちないでいた。『特別な存在』なんて聞いたことない。それは違う花だ、と。
雑誌をパラパラとめくりながら、コーヒーを口に含むベアトリス。話半分、雑誌半分。どちらも頭に入ってはいない。コーヒーは美味い。
「そうか? なら私の勘違いだ。それに花言葉は曖昧だからな。どこかの国ではそんなふうになっているかもしれない」
「……」
適当に言い訳を並べる姉に対し、不信感が強まるシャルル。それもそのはず。明らかにわかってやった態度。目力が強まる。
それに気づき、不満気にベアトリスは雑誌を閉じてテーブルの上に置いた。
「なんだその目は。私だって間違えることくらいある」
砂糖と塩とか。だから料理はしない。
目の次は頬。膨らませながらシャルルは見解を述べる。
「嘘。わざと間違えたんでしょ。そのほうがあの人のためになる、と思って」
花言葉を間違えるわけがない。それこそ、花には数種類持つものも多く存在するが、それらも余すことなく全て網羅しているはず。少なくとも、花屋に並ぶであろうくらいの種類は。
徐々に追い詰められているベアトリスだが、その余裕は変えない。コーヒーをもうひと口。
「知らんな。それよりも」
再度目線が合う。が、今度は姉は厳しい目つき。怒りにも似ている。
その眼力に、先ほどまでは攻勢に出ていたシャルルも気持ちの面で一歩下がる。
「? な、なに?」
怒らせるようなこと、したかな?
ふぅ、と落胆にも似たため息をベアトリスはついた。
「ちゃんと忘れたか?」
あいつのこと。あのこと。
そこで今一度思い出し、シャルルは顔が熱くなる。忘れかけて……はいなかったけれども。言われるとまた鮮明にフラッシュバック。
「あ……うーん……無理、じゃない……? ていうかどうしろと……」
そこは曖昧に濁す。しかしすぐに、というのも難しいだろう。会うたびに思い出すこと間違いない。




