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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
マルカート
212/320

212話

「『ただ生きているだけでは不十分だ。人は太陽、自由、そして小さな花を持っていなければならない』」


 様々なアレンジメントに囲まれた花屋、八区の〈ソノラ〉。その店名の意味するところは『音』。ほんの小さな花の音、声を届けることを信条とした、アレンジメント専門店。その店内で床にあぐらをかいて座り、白いシャコバサボテンに触れながら、店主のベアトリスは呟いた。


 弟であるシャルルの耳にも届いたその名言。デンマークの童話作家であり詩人でもある人物の横顔が目に浮かぶ。


「……アンデルセン?」


 ハンス・クリスチャン・アンデルセン。『人魚姫』や『マッチ売りの少女』などで知られる、童話作家としての第一人者。その人。最近お気に入りの紅茶をひと口。


 ひとつ『ひねくれ者』の意味を持つその花をベアトリスは手に取る。サボテンにしては珍しく、冬に花をつける品種。


「太陽はわかる。自由もなんとなく。だが、小さな花。それがわからない。もう見つけているのか、持っていないのか、取りこぼしてしまったのか。私なんてまだまだ半人前だ」


 人によって違う、心に咲く花。持っている人はどうやって。だが、所詮それは他人の花、自分のものではない。参考になるのか、それもわからない。生涯をかけて探す旅。案外近くにあるものなのかもしれないし、地球の真裏にあるのかも。


 なんとなく、姉から弱気を悟るシャルル。目をまん丸にしてその背中を凝視。


「珍しいね。なにかあったの?」


 心配、というよりかは、人間味のようなものを感じられて嬉しい、というほうが近い。自然と笑む。


 なぜだかその上から目線が気に入らない。気を取り直したベアトリスは、立ち上がりそのまま弟に頭突き。そしてお互いによろける。


「……あると思うか? 私はいつも通りだ」


 額はヒリヒリとする。が、少し衝撃で活力が戻ってきたかもしれない。ひたむきに、愚直に『愛』を伝えようとする花。自分にはないもので、羨ましく思ったのか。


 顔を顰めつつ、それもシャルルはやはり少し嬉しい。いつも通りどころか、いつもより攻撃的。奥歯を噛み締める。


「……よかった、のかな?」


 姉の機嫌にも正解はない。が、痛みがある時は大体平常運行。なんとか今日も〈ソノラ〉は開店できそうだ。


 そこへ。


「どうどう、迷える子羊達」


 暴れ馬や牛を宥める掛け声をあげながら、店内に入ってくる人影あり。羊にも効果はあるのだろうか。そんな細かいことは気にせず、不穏な笑みでファッションモデルのようなウォーキング。

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