209話
からの。深呼吸一回、そのままシルヴィは突っ走る。一枚ずつ手にしながら——。
「『とても好き』『情熱的に好き』『狂おしいほどに好き』『好きじゃない』『ちょっと好き』——」
「それッ!」
「え?」
怒気のこもった声。リオネルは途中で待ったをかける。
「なに? なにか変?」
どこか間違っただろうか、とシルヴィの声には驚きの色。どこ? え?
しかし正確には間違ったわけではない。フランスでは当たり前の選択肢。常々疑問を持っていたリオネルは、ついにその禁断の扉を開ける。
「冷静に考えてみよう。たしかに花占いといえばそれだ。でも確率でいえば八割がた成就しそうなものだ」
その言葉通り。フランスの花占いは好きか嫌いか、の二択ではない。『程度』を表すものばかり。そして最後に申し訳程度に嫌いが入ってくる。「情熱的」と「狂おしい」の違いもよくわからない。明らかに不正の匂いのする占いとなっている。ほぼ勝ちの決まったゲーム。
とはいえ、気づいたら花占いといえばこれ。難癖をつけられたシルヴィは若干不貞腐れる。
「て言われてもな。昔からこうだし、他にあるのか?」
他の占いなど聞いたこともない。好きなんだからこうでいいんじゃない? 結局はそう信じ込みたいだけなんだし。
それには賛成なのだが、リオネルとしては気軽さに加えて神聖さもあると信じている。
「花占い自体はフランスで生まれてな、時間や文化なんかを超えて、神様へつながるものと考えられたわけだ。深い、深いねぇ」
突如神様の登場に、ただ花びらに触れていただけのシルヴィは戸惑うのみ。
「なんかいきなり規模がデカくなってよくわからないんだけど」
詐欺師は「国民は」とか「世界中で」とか、やたらデカく話を盛ると聞いたことがあった。信用できない。
なにやら痛い視線を感じつつも、所見を述べるリオネル。花というものは本当によくわからない。そこが魅力でもある。
「花占いは結構バカにできないって話さ。国によっては愛しあう二人の未来のことを占ったり、さらに『好き』とか意外にも『呪う』『キスする』なんていう具体的な愛情表現もあるくらい。それで癒されるなら、花も本望じゃないかね」
「……『呪う』のは愛、なのか?」
明らかに毛並みの違うものが紛れ込んでいる。流石のシルヴィも顔が引き攣った。もうそれは憎しみあってないか?
諸説はあるが、それも愛の形、だとリオネルは信じている。自分にだけはやってほしくないわけだが。
「それくらい好きってことでしょ。少し怖いけど」




