164話
大きなトートバッグを肩に掛けた女性は、その中からひとつ、蓋つきの容器のようなものを取り出した。それをベルに手渡す。
「売り込み。これ、なんだかわかる?」
一歩だけベルに近づき、あわよくば取り込もうとしている。まずは下の者から。話が通しやすくなるように。
両手で覆える程度の大きさの正十二面体。表面は黄色い花柄の布地で覆われている。蓋を開けて中を見てみる。中はまた違う生地。言われてベルは、さらに様々な角度から覗き見る。
「……?」
なんだろう、これは。軽い。まるで紙で出来ているような……紙? ひとつ、可能性が浮かび上がる。
「……もしかして、これ」
女性の口元が釣り上がる。
「そう、カルトナージュ。てか、ごめん。自己紹介がまだだったね。オード・シュヴァリエ。よろしく。これ、お近づきのしるし」
お土産まで持参。掌に乗るサイズのサイコロのような立方体。青いドット柄。一面が開いており、ドライフラワー、もしくはセロファンとオアシスがあれば、花器として使える。
そもそもカルトナージュとは。フランスの伝統となる工芸技術。厚紙に布を貼って箱を作る。ただそれだけなのだが、無限にも思えるほどの様々な形があり、布があり、用途がある。芸術と呼べるほどに昇華されたそれは、海外からの旅行客のお土産としても人気のあるものだ。
「あ、ありがとう……ございます……」
グイグイとくるオードに、ベルは後退しつつもお礼を述べる。だが、こういう花器もたしかにいい、と視線をカルトナージュに集中させる。
サクッと場を仕切り、オードは話を進めていく。それと、気になること。
「同じ年くらい? いいよ、そんな畏まらなくて。てか、あたしがもっと畏まらなきゃだったかな。なんせお願いに来てるわけだから」
同年代の子に対する近づき方がわからない。なんせ胸を張って友人と呼べる存在がいない。いないこともないが、ほぼいないようなもの。明るく振る舞うが、内心ではハラハラしている。距離感はこれで正しいの?
まだ完全に警戒を解けないベルではあるが、悪い人ではなさそう、という結論に落ち着く。売り込みなんてあるのか、と驚きつつも、少しずつ打ち解けていこうと決めた。
「そう、かな? あたしはベル・グランヴァル。本当はここで働いているわけじゃなくて……今日は店の留守番を頼まれてて……だからなんとも言えないや……ごめん」
たぶん勇気を出してお店に来てくれた、のだと思うが、思う通りの解答が出せず、申し訳なく思う。袖口をギュッと握り、耐える。




