154話
だが、それもベアトリスにとっては柳に風。
「さっきも言ったが一任されている。口を挟むな」
「ピアノの講師とかをやっていたわけではないでしょう」
まず、レティシアにとってそこが重要だ。実績があるなら、信頼できるだろう。だが、どう考えても同年代の相手。絶対にないこともないだろうが、そこは当然。
「ないな」
と、さらりとベアトリスは肯定する。
その無粋な物言いが、さらにレティシアには挑発と捉えられた。
「あの子は大事な友人なの。それは不安にもなるでしょう」
別にベルから頼まれたわけではないが、個人的にベアトリス本人に言いたいこともあり、今回は来たわけで。溜め込んでいたものを全て、ここで吐き出しかねない勢いだ。
「じゃああいつがコンクールで優勝したら、その不安はなくなるのか?」
ファンデンションワークはオッケー。続いてアウトライン。一番難しいのはここかもしれない。魅せる葉物というのは、カラフルなメインの花と違い、立体感などで訴える。バランスよく、それでいて大胆に。傍から見たら、ベアトリスは会話を適当にこなしているように見える。
だが、『優勝』という単語を耳にし、レティシアは本題を見据えた。
「できるの?」
しかし。
「無理だな。今後あいつがコンクールで優勝することはない」
躊躇することなく、師であるベアトリスは否定する。慈悲もなく、断言した。
「な……あなた!」
もちろんその判断を聞いたレティシアは声を荒げた。なら、なぜこんなことをやるのか。時間の無駄、だったらやりたいようにやらせてあげればいいのに。この一連のやり取りの本質が見えない。
パキン、と鋭くメインとなる黄色い水仙の茎を、ベアトリスは切る。
「事実だ。あいつには無理だ。無理やり勝たせる風に仕上げるつもりはない」
コンクールは、優勝候補と呼ばれる者であっても、自然に二次、三次審査で落ちていく世界。運も絡んでくる。そこだけに照準を絞るつもりはゼロ。長い目で見る。
それだとしても、レティシアにとっては合点がいかない。目標を高く保つことは、モチベーションにもなるはずだ。
「だったらなんで教えるなんて真似事を……無理やり」
このままだとこいつは一生帰ってくれなさそう、という諦めが先行し、ベアトリスはレティシアをひと睨みし、ため息をついた。
「……あいつには言うなよ」
軽く舌打ち。
「……?」
雰囲気がかわったことをレティシアは悟った。ベルに秘密にしなければいけないこと?




